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学園ドラマ、“変化球”で社会問題描くのがトレンドに? 『明日の約束』と『先に生まれただけの僕』の新しさ

2017年11月16日 06:02  リアルサウンド

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 視聴者が映画には必ずしも求めず、しかしTVドラマには求めるものは何かと考えると、やはり現代の社会問題とのリンクではないかと思う。この10月クールで視聴率首位を独走する『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日)の内山聖子プロデューサーが語ったように「その時代を生きる人の本音をうまく“中継”できているのがいいドラマ」(11月11日付、朝日新聞be)。『ドクターX』のキャラクター設定はぶっとんでいるが、セカンド・オピニオンの問題やAIの導入など、毎回、描かれるトピックはリアルで、リアルな苦しみを抱える患者たちが登場する。


参考:『明日の約束』最大の容疑者は及川光博演じる担任・霧島か? “不審な表情”にかけられる疑い


 2010年代のヒット作を振り返っても、夫から精神的DVを受けた女性がヒロインの『家政婦のミタ』(11年)、パワハラ上司に土下座をさせた『半沢直樹』(13年)、パートナーシップの多様性を描いた『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)。すべて多くの人が共感する社会問題をうまく取り込み、描いていた。


 ニュースと言えば、筆者には10歳になったばかりの子供がいることもあり、今気になるのは10代の問題である。座間市で起こった連続殺人事件の被害者の中に10代の少女がいることもショッキングだったし、ニュースで中学高校でのいじめや自殺の事件を目にすると、とても他人事には思えない。わが子も分かりやすい10代の願望として「スマホが欲しい」などと言い出した。とんでもない。スマホなんか持たせたら、SNSにハマって、そこで知り合った素性の知れない人に会いに行ってしまうのではないか? そんな大人たちの気持ちをリアルに反映しているのが、10月クールの学園ドラマ2作である。


 井上真央主演の『明日の約束』(関西テレビ制作フジ系、脚本/古家和尚)は、リアルニュースでも報道されるようないじめやブラック部活の問題が描かれる。バスケ部員の1年生男子・圭吾(遠藤健慎)が自殺し、その母親・真紀子(仲間由紀恵)は「学校でのいじめが原因だ」と訴訟も辞さない構え。スクールカウンセラーの日向(井上)は、自分にも毒親の母がいるだけに、真紀子が圭吾を追い詰めたのではと疑いつつ、動揺する生徒たちの心をケアしていく。圭吾とバスケ部のキャプテンの間にトラブルがあったことが分かり、それを裏付けるような動画を撮影した生徒が、仲間たちから裏切り者として責められる。そのとき、日向が言った言葉が印象的だった。


「間違ったことをした人間だから、いじめていいなんて理屈はない」


 ネットでの炎上を思わせるこのセリフ。日向の臨床心理士としての専門性を信頼しているのか。生徒たちは日向の言うことなら、素直に聞く。しかし、その日向も、圭吾から自殺の直前に「先生を好きになりました。付き合ってください」と言われたことを秘密にしているし、バスケ部だけでなくクラスでも圭吾を仲間外れにする動きがあったことが分かってきている。サスペンスとしても構成がうまく、先が読めないが、救いのあるラストを期待したい。


 もう1作、櫻井翔主演の『先に生まれただけの僕』(日本テレビ、脚本/福田靖)は、私立高校が商社の系列にあり、その商社から教員経験ゼロの鳴海(櫻井)が派遣され、トップダウンで若い校長になるという設定。学生の定員割れもありえる人気の低い高校を、サラリーマン校長がどこまで立て直せるか。鳴海は会社員ならではの現役感で、生徒に「僕も借りたけれど、奨学金ってつまるところ借金だから、将来、返済するのキッツイぞー」、「3年生は授業改革に入れてもらえなかったって不満があるみたいだけど、そもそも社会に入ったら、公平になんか扱ってもらえないからね」、「はっきり言って、君たちの学力で入れる大学は、就活で不利。まず上場企業には入れない」(すべて意訳)などと言い、生徒に厳しい現実を教えようとする。よく聞いてみれば、家庭でも親が子にくどくどと言っているようなことばかりなのだが、年齢が近く大企業の商社マンである翔くん先生が言うと、説得力があるのだろうか。生徒たちは、自主的に高校受験生のスカウト活動をするほど、鳴海校長に協力的になった。


 これまでの教育理念を打ち破る、理想も夢もない鳴海の言葉に「ここは学校ですから」と反発していた教師陣も、ひとり、またひとりと鳴海の側に立ち、授業を面白く改善していく。そして、教師としての能力に自信がない元自衛隊員の郷原(荒川良々)だけが、抵抗勢力として残ったという展開が面白い。郷原は「今の高校のレベルが低いからこそ、自分も教師として雇ってもらえている」と考える終身雇用制の弊害のような人物である。その彼を切り捨てるのか、それとも救うのかが、サラリーマン校長のドラマとしては、ひとつのポイントになりそうだ。


 教師ものの歴史を考えると、鳴海も日向も『3年B組金八先生』以来の伝統であるクラス担任ではない点が新しい。『GTO』、『ごくせん』、『ハガネの女』あたりまでは、元ヤンキーなど、主人公の経歴が破天荒でありつつも担任であることが王道だったが、今回の2作では、これまでなら確実に脇役だった外野のポジション。だからこそ、担任教師が言えない思い切った提案もできるのだ。主人公が大学病院に雇われたフリーランスの外科医である『ドクターX』にも通じる作りだと言えるだろう。


 これは実際の教育現場が、もはや担任教師では動かせないほど硬直したシステムになっていることの表われなのだろうか。そんな懸念も浮かんでしまうが、変化球を使ってでも、リアルないじめや奨学金の問題を取り上げた脚本家や制作者たちの心意気を評価したい。


 こちらは余談だが、学園ドラマを見るときのお楽しみは、生徒役キャストの中から将来有望な若手俳優を見つけること。名作『3年B組金八先生』シリーズは言うに及ばず、98年版の『GTO』、『ごくせん』シリーズも小栗旬や松山ケンイチ、高良健吾など現在、主演を張るスターを輩出している。近年では米倉涼子の主演作『35歳の高校生』(13年)にも、菅田将暉、高杉真宙、野村周平、広瀬アリス、森川葵、山崎賢人が出演していて、この6人が同じクラスという、今ならありえない布陣だった。今クールは、原石探しと考えると、『先に生まれただけの僕』より『明日の約束』の方がだんぜん粒ぞろいという印象。バスケ部のキャプテンを演じる金子大地、マネージャー役の山口まゆ、学級委員長役の井頭愛海(朝ドラ『べっぴんさん』の娘役でも光っていた)の3人が、端正なルックスと演技力を兼ね備えていて、これから活躍していきそうだ。(小田慶子)


※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記