凶悪犯罪が起きたとき、被害者の実名や顔写真を報道することは、しばしば議論になる。11月14日放送の「バラいろダンディ」(TOKYO MX)では、「座間市9人殺害事件の被害者、顔写真報道をめぐり新聞社も葛藤」という話題があり、経済評論家の勝間和代さんが
「遺族の了承がない限り、一切載せるべきではない」
と主張。コメンテーターの間で議論となった。(文:okei)
「二次被害に近い。遺族の申し出がない限り一切載せるべきではない」
発端は西日本新聞の「顔写真報道の議論続ける」という記事だ。神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかった事件の報道で、被害者の顔写真をめぐり社内で賛否の議論が起きたという。
「1枚の顔写真は、生身の人間がこの凄惨な事件の被害に遭った、という現実を何より訴えかけてきます。どうすればこの種の犯罪を防ぐことができるかと、社会を動かす力にもなります」
と、記事は訴える。
だが、東京新聞によると、多くの被害者遺族から顔写真や実名の報道を控えるよう要請があったという。西日本新聞社内でも意見は割れたが、9人全員の写真掲載は1度に限るなどの制限を設けた上で、11日付の朝刊に掲載した。「正しい判断だったのか、(中略)正解は見えず、社内の議論は続いています」としている。
これに坂東英二さんは、「原則は載せないで欲しい」とコメント。被害者に未成年もいたことから、「成人でご両親からOKが出ている場合ならいいと思う」とした上で、「マスコミは一番礼儀正しく、正しい報道をするという自信がない限りやめておいて欲しい」とコメントした。
勝間さんも「まったく同意見です」と賛同し、
「これは二次被害に近いと思う。遺族の方が納得して、報道することで犯罪防止に役立ててくださいと申し出たならいいですけど。そうでなければ、一切載せるべきではない。(中略)人権問題です」
などと語気を強めた。
「わずかなメリットに対して、莫大なデメリットを遺族が受ける」
一方、作家の立花胡桃さんは少し違う意見だ。「いま行方不明者が8万人いると言われる中で、安否を確認したい人もいる」として、顔写真と実名報道があることで、その照らし合わせができる点を指摘。世間がより関心を持ち判決にも影響を及ぼす、「少ししょうがない部分もある」と理解を示す。
だが、勝間さんはそれにすかさず「正直言ってわずかなメリットだと思うんです、それは」と指摘した。
「わずかなメリットに対して莫大なデメリットを遺族が受ける必要があるのか、というのがポイントなんです」
確かに、単なる「被害者Aさん」よりも具体的な名前と顔が分かったほうが、社会は大きなインパクトを感じ事態の重さを実感を持って受け止められる。行方不明者の照会という意味もあるだろう。だが、身元が判明している以上、家族には本人であることが分かっている。ネットで誹謗中傷が拡散しやすい今の世の中、これ以上好奇の目に晒されたくないという家族の想いは強いはずだ。
坂東さんも、あくまで遺族側の立場で「自分の肉親が被害に遭って傷ついてるんですよ。それをまた思い起こすようなことは、僕は絶対許せない」と訴えた。
勝間さんは、「胡桃さんのような意見があることは私も理解しているんです。ただそれをマスメディアが逆手に取って乗っかるのが嫌なんですよ」と、強い口調で嫌悪感を示す。さらに
「私は、もし出さない新聞社や雑誌社がいたら、その会社を支持します」
と意志表明した。メディアにとって、存在する写真を出さないという判断は難しいだろう。改めて報道の在り方を考えさせられた。