2017年11月15日 10:52 弁護士ドットコム
司法試験を受験するためには、法科大学院(ロースクール)を修了することが条件とされていますが、もう1つのルートとして、近年、予備試験が注目されています。予備試験に合格すれば、法科大学院を修了しなくても、司法試験を受験することができます。
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予備試験は、2011年度から実施され、時間や金銭的な理由などで、法科大学院に進学することが難しい人でも司法試験を受験することができることを目的としていましたが、近年ではエリート選抜の色合いが濃くなっており、法律事務所のリクルーティングでも予備試験合格者の争奪戦が繰り広げられるようになっています。
今年度の司法試験合格者1543人のうち、予備試験合格者の比率は19%で、5人に1人が予備試験ルートとなります。11月9日には、今年度の予備試験の合格者が発表され、444人が合格しました。予備試験合格者の多くは、学部生、法科大学院生ですが、彼らはなぜ予備試験を受けようとしたのでしょうか。どんな就職活動をするのでしょうか。
2016年度の合格者2人(2人とも今年度の司法試験にも既に合格)と、今年度の予備試験合格者2人を招いて、座談会を開きました。(司会/編集・とある司法試験合格者)
【座談会参加者(全員仮名)】
・武田さん(ロー生・司法試験合格)
某国立大学ロースクール生。昨年度に予備試験合格、今年度司法試験合格。法曹になるための1年間の司法修習はロースクール修了後に開始予定。
・織田さん(学部生・司法試験合格)
某国立大学法学部生。昨年度予備試験合格、今年度司法試験合格。大手の法律事務所に内定している。
・毛利さん(学部生)
某国立大学法学部生。今年度の予備試験に合格。来年度に司法試験を受験予定。経済的な事情からロースクールに進まず、古本屋で教科書を探すところから試験対策を始めた。
・上杉さん(学部生)
某国立大学法学部生。今年度の予備試験に合格。来年度に司法試験を受験予定。学部1年生の終わりから司法試験予備校を利用。
・島津(司会・編集を担当)
今年度司法修習予定。今年度ロースクール修了後、司法試験合格。予備試験は4回受けて4回落ちた。
ーーそもそも皆さんが法曹を目指したきっかけはなんですか?
織田(学部生・司法試験合格):「佐々木夫妻の仁義なき戦い」(2008年)というテレビドラマに弁護士の夫婦が出ていて、面白そうだと思いました。
上杉(学部生):ガッキー(新垣結衣)の出ていた「スマイル」(2009年)というテレビドラマを見ていて、在日フィリピン人を助ける弁護士役の中井貴一がカッコよかったからです。
ーーじゃあ上杉さんは将来刑事弁護人を目指すんですか?
上杉(学部生):社会的弱者を救いたいという気持ちはあります。でも、周りもみんな四大法律事務所とかに行っちゃうので、僕もそっちに行ってしまうかもしれません。そういう事務所で働いて金銭的余裕ができたら独立して、という道もあるかもしれません。
ーー他の2人が法曹を目指したきっかけは?
毛利(学部生):家庭が経済的に苦しかったので、同じような境遇の人たちの助けになればと思いました。
武田(ロー生・司法試験合格):元々立法に関わりたくて、官僚になることも考えましたが、色々な個別事例を知らないまま官僚になってしまうのも怖いと思って、弁護士をやってみたいと思いました。
ーー予備試験はロースクールに行く費用や時間がない人にも法曹になるチャンスを与えるためというのが本来の制度趣旨ですが、その趣旨にはかなっているんですか?
毛利(学部生):いやー、もうエリート選抜試験ですよね。
織田(学部生・司法試験合格):ロースクールに行く費用が節約できる、というくらいですね。
上杉(学部生):本当に費用がない人と、できたら節約したいという人には大きな差があると思います。受験者のほとんどは後者だと思います。
毛利(学部生):僕は経済的に苦しくて、まさに僕のためにあると制度だと思いましたけど、いざ予備試験の勉強を始めると、みんな塾に行ったりして、すごくお金をかけています。僕は古本屋で教科書を探すところから始めました。
武田(ロー生・司法試験合格):ロースクール生もみんな予備試験を受けていて、合格率もロースクールで勉強した分だけ学部の受験者に比べて高いのですが、それは四大法律事務所に行きやすくなるとか、経歴に箔がつくとかというためだけに受けるものなので、制度趣旨なんて正直失われてますよね。だからと言って、ロースクールに行かなくても司法試験を受けられるようにしたら、ロースクールが潰れちゃいます。
織田(学部生・司法試験合格):ロースクールは、学部で予備試験に受からなかった人の逃げ道にしかなっていないように感じます。そういう人がロースクールに入ったとしても、結局次の年に予備試験を受けて、受かったらロースクールを辞めるだけですからね。
——予備試験を知ったのと、実際に勉強を始めたのはいつごろですか?
上杉(学部生):大学1年生の時、司法試験予備校のガイダンスで制度があると知って、そのまま2月から予備校に入って、あとはカリキュラムに従って勉強しました。
織田(学部生・司法試験合格):大学1年生の4月くらいに知りました。実際に勉強し始めたのは2年生の秋です。それまで本当に勉強してなかったんですが、やろうと決めてから必死に毎日10時間勉強して、次の年の予備試験に受かりました。
ーー予備試験に合格すれば、法科大学院修了というプロセスをスキップできるわけですが、早く社会に出たい、お金稼ぎたいという気持ちがあるんですか?
毛利(学部生):僕はお金がなくて、ロースクールに行けなかったので、予備試験を受けただけです。
武田(ロー生・司法試験合格):早く試験受かったらそれだけ遊ぶ時間が増えて嬉しいという程度で、早く社会に出たいとかではありませんでした。
上杉(学部生):予備校がまずは予備試験合格を目標にしてたので受けました。予備試験がだめだったらロースクールに、と思ってましたが、うまくいきました。
織田(学部生・司法試験合格):やっぱり早く社会に出たいという気持ちはありました。実は法律の試験勉強については、全然興味がなくて、早くこういう勉強と決別したいという気持ちがありました。もちろん、法律を使って実際の問題を解決することには興味がありますよ。
ーーロースクールでしか学べないことってありますか?
武田(ロー生・司法試験合格):頭の体操のように、法律問題をじっくり学べるのはロースクールならではだと思います。あと、修習よりも民事や刑事の実務をとても詳しく学べます。
ーー学部で予備試験に合格した3人は、ロースクールで学ぶことについてどう思いますか?
毛利(学部生):僕は地方から出てきたので、東京で2年間余分に学生生活すること自体にお金がかかってしまうのが不安です。でもロースクールに行くこと自体はいいなと思います。
織田(学部生・司法試験合格):最近、周りにロースクール修了生のいるところでバイトしてますが、修了生の使っている会社法関係のカタカナ用語が全くわからなかったり、法律の基本書を読んでなかったりするので、法律書籍の著者の名前を聞いても「誰それ?」という感じで、文献のリサーチをするにも時間がかかってしまいます。司法試験に受かるためだけの勉強しかしてこなかったので、ロースクールに入ると、リサーチの方法や会社法関係のより実務的なことを学べるんじゃないかなと思います。
ーーロースクールに行っていないと縦や横のつながりができにくいんですか?
毛利(学部生):孤独だとは思いますね。学部生だと、一緒に予備試験目指す友達とかもできないし、個人プレーになっちゃいますね。学部ゼミのOBの集まりも1年に1回あるくらいで、それも学年ごとに固まっちゃっていて、縦のつながりはなかなかできないですね。
ーーでは、就職活動についての話に移りたいと思います。就職活動についてはどうですか?
武田(ロー生・司法試験合格):弁護士になるとしても、来年の合格者と一緒に就活しようと考えています。時間の余裕があるなかでサマークラーク、ウィンタークラークという法律事務所の短期インターンに行ったり、合同説明会に行ったりとかして、できる限り色々と見るようにしています。
織田(学部生・司法試験合格):四大法律事務所と準大手法律事務所のいくつかの説明会やインターンに行きました。いくつか内定はもらったのですが、結局四大法律事務所の一つにいくことにしました。
ーーインターン後の選考はどのように進みましたか?
織田(学部生・司法試験合格):インターンの最後に内々定をもらって、司法試験後の6月1日に電話がかかってきて内定を告げられました。
ーー司法試験を受ける前に内々定が出ていたということですか?
織田(学部生・司法試験合格):そうですね。内定をもらったのも司法試験合格前でした。
ーー毛利さんは社会的弱者のためになりたいと思ったことが、法曹を目指したきっかけだと言っていましたが、今後はどういう就活をする予定ですか?
毛利(学部生):何をするのにも経験は必要で、いきなり人権派になっても食えなくなって死んでしまうので、とりあえずどこかの事務所に入って数年間経験を積んでから独立なりして、という感じですかね。社会的弱者のためにという思いは胸に秘めつつ、稼げる弁護士になりたいなと思います。
織田(学部生・司法試験合格):人権派の仕事を強みにしている事務所は知らないの?
毛利(学部生):聞いたことないですね。
織田(学部生・司法試験合格):四大法律事務所で積める経験はかなり特殊だと思うけど。。。
武田(ロー生・司法試験合格):担当する業務が非常に細分化されているので、人権派の仕事には絶対生きないと思うなあ。
ーーどういうきっかけでM&Aなど企業法務をやりたいと思うようになるんですか?
織田(学部生・司法試験合格):大学の授業に四大法律事務所のM&Aをずっとやってきた弁護士が来て講義をするので、それに憧れて、っていう人は多いですね。
ーー四大法律事務所というと勤務時間が非常に長いと言われていますが、そういう理由で他の事務所も見てみようと思うことはないですか?
武田(ロー生・司法試験合格):結局どこに行っても大変だと思っています。一般民事を扱う事務所でも仕事がかなりあって、全部自分でやらなければならないので、めちゃくちゃ忙しそう。どこに行っても一緒である以上、忙しいからと言って四大を避けるのは間違ってると思います。死ぬほど働く前提で、どこが一番楽しいか、自分に合ってるか、給料をどれだけもらえるかで決めるしかないと思います。四大の中で、「他の事務所よりうちは働かないよ」と言われても全てを信じないことにしています。
織田(学部生・司法試験合格):四大の弁護士も最近は、こっちがもう知ってると思って割り切ってますよね。
ーーこれから就活をするお二人は勤務時間の長さに抵抗はないですか?
毛利(学部生):抵抗しかないです。ただもう仕方ないなと思って。学部に入った時に先輩から「お前らは過労死するしかない」と言われます。「どのみち過労死するから今のうちにいっぱい寝ときな」と。
ーー先輩たちは過労死寸前なんですか?
武田(ロー生・司法試験合格):生きてるじゃん(笑)
毛利(学部生):省庁行った人もガリガリになったり、弁護士になった人もしんどそうで。
ーー毛利さんたちの大学でそういうのが嫌だと思ったらどうすればいいんですか?
毛利(学部生):嫌だと思ったらどうするんでしょうね。みんな若いからやっていけるんでしょうね。
武田(ロー生・司法試験合格):恐ろしいなあ。
織田(学部生・司法試験合格):コンサルと銀行も大概だもんね。広告とかも。
【座談会を終えて(司会の島津)】
予備試験に落ち続け、ロースクールに通い、司法試験後に一安心してようやく就活を始めるという平凡な司法試験合格者である私にとって、今回の座談会は衝撃の連続だった。優秀層ですら、仕事が激務だから、という諦めを見せていたのも印象的だった。四大法律事務所の情報ばかりが入ってくるというのも、すごいな、と思う反面、多様な情報に触れる機会が少ないのかな、と思った。
(弁護士ドットコムニュース)