トップへ

米ホラー映画『IT/イット』なぜ10代女性にヒット? 映画マーケティング専門家が分析

2017年11月15日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 スティーヴン・キング原作の米ホラー映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』が、若年層の観客を中心にスマッシュヒットを記録している。興行通信社が発表した全国映画動員ランキングによると、同作の11月11日~12日の動員数は約17万人、興収2億2500万円と、動員・興収共に先週を2割強上回る数字をあげ2位をキープ。先週1週間の動員ランキングは1位、累計興収は7億2700万円を突破している。


参考:映画興行、秋の変? R指定ホラー『イット』が『ラストレシピ』を上回る2位に初登場


 同時期には二宮和也主演の『ラストレシピ -麒麟の舌の記憶-』や、広瀬すず主演の『先生!、、、好きになってもいいですか?』といった作品が公開される中、観客を選ぶホラー作品が上位にランクインし、しかも10代~20代の女性観客を動員しているのは、特筆すべき状況だろう。いったいなぜ『IT/イット』はヒットしたのか? 映画・映像業界に特化した分析サービスを行っているGEM Partners株式会社の代表取締役/CEOの梅津 文氏に、同作ヒットの経緯を聞いた。


「『IT/イット』は公開の直前に、作品認知度や鑑賞意欲度などの興行収入ポテンシャルが“急上昇”した作品です。テレビでの露出もありますが、YouTubeなどのデジタルマーケティングに注力した展開や宣伝の効果と言えそうです。鑑賞意欲度の高さに対して興行収入はさらに高めで、『この作品こそ見たい』という熱量の高さと、ライトな興味を持つ層も含めて話題となったことが、動員の後押しとなりました。


 15歳から69歳に向けた調査結果をみると、性年代別のセグメント別では若い男女の意欲度が高く、しかも公開近くに急速に伸びていて、うまく話題度を喚起した例と言えます。公開時点での認知度は女性10代で最も高いです。通常ホラー映画は『見たくない』と答える人も多い、人を選ぶジャンルです。しかし、話題度に火が付き『若者がみんなで見に行く』イベントムービーとなると、数字がはじけることがあります。若い人は複数人でいく場合も多いのですが、ホラーだとなおさら『話題になってるから見たいけど一人で行けない、みんなで見に行こう』となるのかもしれません。過去の事例では、『貞子3D』などのヒットも同じですね」


 本作のヒットが象徴するように、ホラー映画は新たな鉱脈となる可能性もあると、同氏は続ける。


「もしかすると今後、こういったコンセプト型のホラー映画が増えるかもしれません。ちょうど先日、AFM(American Film Market)でのカンファレンスに参加していたのですが、ホラージャンルへの注目度が高まっていることを感じました。カンファレンスの登壇者の話で多く触れられていたのは、アメリカのインディペンデントの製作者にとっては予算の縮小が悩みの種ということ。そんな中、多くの低予算ホラー映画を製作し、5億ドルの予算で200億を超えたホラー映画『ゲット・アウト』などのスマッシュヒットも飛び出した製作会社ブラムハウス・ピクチャーズの成功を口にするプロデューサーも多かったです。ホラーはそもそも低予算で製作することが可能で、一定数のお客さんが見込めるものです。なおかつ、コンセプトの面白さが引き金となりうまくはじけることも比較的多く、その場合、非常に大きな利益をもたらす可能性があるということに改めて注目が集まっていました。『限られた予算』という悩みはアメリカも日本も同じでしょう。今後はより一層、ホラーというジャンルが『鉱脈』として意識されるかもしれません」


 『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は、80年代のアメリカを舞台に少年少女たちが、子どもにしか見ることができない殺人ピエロ・ペニーワイズの謎に挑む物語で、同じくスティーヴン・キング原作の『スタンド・バイ・ミー』のホラー版といえる作品だ。YouTubeの予告動画では、下水道に潜むペニーワイズの姿など、斬新な恐怖演出の一部を確認することができる。ジュブナイル映画としても楽しめる間口の広さや、映像的な面白さもまた、若年層の鑑賞意欲を高めたのかもしれない。(松田広宣)