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ストレイテナー ホリエアツシ×秦 基博が語り合う、共作で生まれた“新たな物差し”

2017年11月14日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 来年で結成20周年、メジャーデビュー15周年という節目を迎えるストレイテナーが、アニバーサリーイヤー企画第二弾としてシンガーソングライターの秦 基博と、コラボレーションシングル『灯り』をリリースする。


 同曲は、「冬のラブソング」をテーマに、大切な人の元へと帰っていく恋人の心の動きを歌ったミドルバラード。三拍子のリズムを基調に目まぐるしく変化していくコード、ダイナミックなバンドアレンジ、そして心のひだに染み渡るようなメロディは、ホリエアツシ(Vo)と秦が膝を突き合わせながら共作をしたからこそ、生み出されたものといえよう。さらにカップリング曲では、ストレイテナーが秦の「鱗(うろこ)」をカバーしており、テナー節全開にアレンジされたバージョンは両者のファン、共に必聴だ。


 今回リアルサウンドでは、ホリエと秦の対談を実現。実際の共作が、一体どのように行なわれたのか、そのプロセスに迫った。(黒田隆憲)


(関連:ストレイテナー、トリビュート盤が示したバンドのあり方 彼らの音楽が長く愛され続ける理由に迫る


■「自分にない領域を持った人」というのが最初の印象(ホリエ)


ーーお二人が出会ったのは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが主催するNANO-MUGEN FES.の会場だったそうですが、お互いの音楽については、それまでどんな印象を持っていました?


ホリエ:僕が初めて秦くんの音楽を聴いたのは、確か2007年くらいだったと思います。北海道の空港で、ラジオの公開収録を秦くんがやっていて。当時の僕は、いわゆるロックバンド界隈の人たちとしか交流がなくて、秦くんのことは名前を知ってたくらいだったんですね。で、その時にアコギを弾きながら歌っている姿を初めて見て、その存在感の大きさに感動したんです。「ギターの弾き語りって、こんなにいいものなのか」と思ったのは、それが生まれて初めてのことだったかもしれない(笑)。そのくらい印象深かったのと同時に、「俺はとてもじゃないけど、弾き語りなんてできないな」と思わされてしまったんです。


秦:僕がストレイテナーのことを知ったのは、自分がデビューする前ですね。シンプルな言い方ですが、「かっこいいロックバンドだな」と。そんな風にストレートに思えるバンドって少ないし、第一印象でそう思わせるってかなり重要だし難しいことだと思うんですよ。それをすんなり思わせるってすごいバンドだなと。もちろんそこには、サウンドの質感やメロディの良さ、ホリエさんの声の存在感など、すべて含まれていると思うんですけど。


ーーじゃあ、最初はお互いに自分にないものに惹かれているという感じだったんでしょうかね。


ホリエ:そうですね。「共感」というよりは、「自分にない領域を持った人」というのが最初の印象かもしれないです。弾き語りをやるようになったのが2012年くらいからで、最初は自分の曲ばかり歌っていたんですけど、弾き語りだと自分のことを知らない人が集まる場所で歌うことも結構多くて。そういう時、他のアーティストたちを見ると、The Beatlesの「Let It Be」やB.B.キングの「Stand by Me」のような、誰もが知る洋楽のスタンダードをカバーしているんですよね。それを参考にしつつ、自分はRadioheadなんかを歌ってみたんですけど、それだと子供やご年配のお客さんには分からないわけです(笑)。それでしばらくもがいていたんですが、ふと秦くんの「アイ」を思い出して。初めて日本人アーティストの曲を、カバーしてみようと思ったんです。


秦:そういうきっかけだったんですね。


ホリエ:そうそう。そしたらお客さんに「『鱗(うろこ)』も歌ってください」って言われて(笑)、やってみたりしていたら、そのうち秦くんが風の噂で聞きつけてくれたんです。


秦:どうやらホリエさんが歌ってくれているらしい、と。嬉しかったですね。ストレイテナーの楽曲って、ビートも激しかったりすることが多いじゃないですか。そんなレパートリーの中に、自分の楽曲を組み込んでもらえたというのは本当に光栄でした。


ーー聴いているのと、実際にカバーして歌ってみるのとでは印象はどう変わりました?


ホリエ:まず、カバーするにあたって自分が本当に好きな曲というのが大前提としてあって。「みんなが知っている曲」という基準だけでは選べなかったし、実際に歌ってみて良くないと嫌だなと思ったんですよね。当たり前ですが(笑)。だから、歌うにしても秦くんの歌い方を、「研究」とは言わないまでも、声の出し方とか真似してみたんです。そうすると、「あ、この辺の音はこうやったら声が出やすいんだ」とか、発声の仕方の調整が、自分にないぶん、自分にとっても学ぶべきところがあって。


ーー普段、使っていない部分の筋肉を鍛えるような感じでしょうか。


ホリエ:それもありますし、例えば「鱗(うろこ)」だったら、一番高い音域を、最初はとにかく張って出そうとしていたのを、フッと力を抜いて歌ってみた時に、その高さがスコーンと出るみたいな。力の入れどころに関する新たな発見があって。それは、自分が今まで作ってきた楽曲にはない気持ち良さでもあったので、その後の自分の曲作りや歌い方にも少なからず影響されましたね。自分の体に、秦くんの作風が入っていく感じというか。


■ホリエさんはジャッジがメチャクチャ早い(秦)


ーー今回のコラボ曲「灯り」の制作プロセスについてお聞きしていきたいのですが、2人で共作することになって、まずはまっさらな状態でスタジオ入りしたそうですね。


ホリエ:そうですね、テーマだけは事前にざっくりと決めておきましたが。冬の時期に出す曲なので、「冬」をテーマにしつつ「誰に向けての曲なのか?」ということを考えました。


秦:実際の曲作りに関しては、スタジオで膝を突き合わせながら「こんなのどう?」、「あ、いいっすね」「じゃあ、次はこんな展開で」っていう風に、その場でどんどん作っては録ってカタチにしていきました。それでまず、1曲出来上がったんですよね。で、「別のアプローチも試したいな」ということになり、最終的に2曲作った。


ホリエ:まず初日に作っていた曲が、結果ボツになったんですけど、その日はほぼ1日それに費やしたっていうくらい、時間をかけて。「これはこれで、一つカタチになったことにしましょうか」ってなり、休憩している時に秦くんがふと弾き始めたのが、この「灯り」という曲のサビのコードだったんです。「こういう感じもアリっすよね」みたいな感じで。それを聴いた瞬間、「それで決まりだろ」って思った。


秦:(笑)。その日、1日かけて作った曲は、もう今日は「打ち止め」みたいな感じでもあったんですよね。この曲を今日、これ以上詰めても良くならないだろうと。「各自で持ち帰った方がいいよね」っていう雰囲気がおそらく漂っていたんですよね。


ホリエ:そう。時間をかければまあ、良くなるのかもなって。


秦:穴掘りに喩えると、掘って掘って行き止まったから、「じゃあ別の部分を掘ってみようかな」と思って試してみたら、ずいぶん土が柔らかくて(笑)。「おお、いけるいける」って感じで、その二つ目の曲もその日のうちに結構進んだんですよね。


ホリエ:そうだったね。それで候補曲が2曲できて、帰りに車の中でずっと鼻歌で歌っていたら、2曲目のイメージの方がどんどん湧いてくるんですよ。楽曲の展開や、アレンジにおける緩急のつけ方のような具体的なアイデアも、ほとんどその時点で思いついた。なので、翌日はその曲だけに集中して作業していきました。それが「灯り」なんです。


秦:サビのメロディをブラッシュアップしたり、展開部分を考えたり。そんな感じで、その二日間でメロディは全て完成しましたね。


ーー未完成の状態でも様々なイメージが浮かんでくる楽曲の方が、採用されやすいというか、いい曲に仕上がる可能性が高いということなんですかね?


ホリエ:うん、確かにそんな気はしますね。


秦:こねくり回さなければ展開が思い浮かばない曲というのは、その時点でちょっと無理があるというか。何にもしなくても次々にアイデアが浮かんで、どんどん進んでいく曲の方が仕上がりも良くなる傾向にありますね。


ーーもう一つ思ったのは、最初の曲を作るために行き止まりまで穴を掘り続けていたからこそ、「灯り」に続く柔らかい土を見つけることができた、とも言えますか?


秦:ああ、きっとあると思います。それと、最初の曲作りで、お互いのやり方が分かってきたからこそ、次の曲を進めやすかったというのもあったのかなと。最初は「さぁ、どうやって作っていこう?」っていうところから始まってますからね。それが、まず1曲作ってみたことで、お互いの出方が分かったというか。「あ、そんなに遠慮しなくていいんだな」「もっとアイデアをどんどん出して、取捨選択していけばいいんだな」と思えたことで、次の曲がすごく作りやすかったし、作っていて楽しかったのだと思います。


ーー共作者としての、お互いの相性も良かったのですね。


ホリエ:僕、ジャッジが結構早い方で、きっと秦くんもそうだと思うんですよね。「これはどうかな?」って思ったことは、とりあえず試してみて、そうするとアリかナシかがすぐわかる。


秦:ホリエさんはメチャクチャ早いと思いましたよ、ジャッジが(笑)。「ここ、こういうメロディにしてみたらどうですかね?」っていうと即答で「前の方がいいかな」って返ってくる(笑)。でも、僕もその方が助かるんですよ。新しいアイデアが、必ずしも前のアイデアを「更新」してくれるとは限らない。でも、アイデアを出した方は「新しい方が良い」ってつい思いがちなので、そういうホリエさんのジャッジはありがたかったし、やりやすかった。


ホリエ:ガチガチに締め切りが決まっていたわけでもないので、「今日はここまでにしようか」という見切りも早かったし、変に粘らないで済んだんだよね。


■歌詞表現における「空間」と「時間」の捉え方の違い


ーーこの曲は3拍子ですが、それもクリスマスっぽさを醸し出していますよね。


ホリエ:そう。最初に作っていたのは4拍子で、今時のR&Bを土台にしつつポップな曲というのを目指していたんですけど、秦くんが「灯り」のサビのコードを3拍子で弾いた時に「こっちの方が良さそうだな」ってすぐ思ったところはありますね。


ーー歌詞はどんな風に書いていったのでしょうか。


秦:「灯り」のコードとメロディがある程度決まった日に、そのまま2人で飲みに行って。そこで「歌詞はどうしようか?」っていう話を軽くしました。半分くらいは忘れちゃいましたけど(笑)。「ここのメロディには、こういう言葉が合うんじゃないかな」とか、割と具体的な話も結構していましたね。


ホリエ:そこから先は、メールのやり取りで作っていきました。


秦:まず、歌詞の大きな世界観みたいなものはホリエさんが投げてくださって。メロディを作った時点で「歌いわけ」はある程度決まっていたので、まずは自分が歌うところを各自で書いていきましょうってなったんですよね。最初にホリエさんから1コーラス分の歌詞が送られてきて、それに応える感じの歌詞を僕が用意して。それを擦り合わせながら仕上げていきました。


ホリエ:最初は主人公が2人いて、それぞれの描写があってもいいのかなと思ってたんですけど、やっぱり同世代の男子が作るものだから、そんなに大きな違いも出なくて。気がついたらお互いにどんどん寄せてきちゃって、結果的に主人公は1人になりました。


秦:途中からは、「自分が歌うところに歌詞をつける」っていう縛りもなくなりましたよね。僕が歌うところの歌詞をホリエさんが書いていたりするし、その逆もある。


ーー特に苦労したのはどこですか?


ホリエ:2回目のサビですね。そこに行くまでに結構、物語の時間が進んじゃっているんですよ。2サビはそれを踏まえた内容にしなきゃ、と思ったら悩んでしまった。3回目のサビはまとめに入るから、まだ作りやすいのだけど。


ーーつまり2サビは起承転結の「転」の部分だったわけですね?


秦:ええ。その前の展開として、どういう景色があればこの曲にとって一番いいのか、見つけるまでには時間がかかりました。


ホリエ:でも、その悩んでいた時間も今考えると楽しかったですね。1人じゃ思いつかないアイデアが出てくるし、例えば曲の中での時間の流れ方みたいなものに、秦くんがこだわる様子などはすごく新鮮でした。それって僕の、今までの歌詞の書き方にはあまりなかったものだから。セクションごとの時制とかあまり気にせず、バラバラで作ることも多いですし。


秦:今回、情景描写が多かったので、余計に時制が気になったんでしょうね。あと、譜割のセンスもお互いかなり違っていたんです。ホリエさんからメールで送られてくる歌詞を見ながら、「ここはこうやって歌うのかな」と予想していたのが、実際にお会いして歌って聞かせてもらったら、全く違って。ものすごくカッコいい歌詞の乗り方で、驚くこともありましたね。


ーー時間の流れだけでなく、空間の捉え方にも違いがあったり、新鮮だったりしました?


秦:ホリエさんは、情景描写のメリハリが非常に効いているんですよ。カメラワークでいうと、ものすごく俯瞰で撮っていたかと思えば、いきなりアップになったりして。サビではパーンと遠くまで飛んで行きますし。僕にはないものだったので、すごく新鮮でした。


ーーそれってストレイテナーの楽曲に、プログレッシブな展開が多いのとも関係しているのでしょうか。


ホリエ:どうなんでしょうね。ただ、歌詞を考える時にも“音感”を重視しているというか。内容や辻褄よりも、言葉がメロディの中でどう響くかに重きを置いているところはあるのかも知れないですね。こだわっていないところが沢山あって、だからこそ視点も色々飛ぶのだと思います。


ーーとなると、今回の歌詞は秦さんとホリエさんの「空間」と「時間」に対する捉え方の違いが、いい具合に混じり合ったものになったと言えますよね。


秦:確かにそうですね。そして、その違いを、自然と「いいな」と思えたことが重要だと思います。「え、そこでそう飛んじゃったら困るんだけど」とか、そういう違和感がなくて、「うわ、そこでバーンって飛んだら視界が一気に開けて面白いな」っていう風に、一つ一つを楽しめたんです。その感覚は、曲を書いている時も歌詞を書いている時もあったので、共作をしたことの意味はすごく大きかったですね。


ーー曲作りの後、バンドでのアレンジには秦さんも参加したのですか?


ホリエ:はい。ストレイテナーのメンバーと秦くんの5人でスタジオに入って。アレンジも僕らストレイテナーは早いんですよ。サクサクと決めていくし、あらかじめデモも渡してあったので、各々で考えてきたアイデアを持ち寄って作っていきましたね。


秦:それも新鮮でした。僕のいつものレコーディングでは、ある程度アレンジを固めたデモテープを作って、それを元に進めていくことが多いので、今回のようにイチから組み立てていくというのは初めての経験でした。しかも、「じゃあ、やってみようか」って言って合わせた瞬間に、大体カタチになっているからすごいなと。


ホリエ:メンバーはメンバーで、僕が作る曲にはない展開なので、アレンジをしていく上で「そこが難しくもあり、面白くもあった」と言っていましたね。僕の作る曲って、ギターだったらアルペジオのループが一つあれば、割りとそれだけで押し通せちゃう場合が多いんですよ。でも、そのやり方が「灯り」では一切通用しなくて(笑)。転調も多いので、ギターも最初から最後までずっと展開していくという。


ーーなるほど。本チャンのレコーディングはどうでした?


秦:僕のアコギのタイム感と、ストレイテナーのグルーヴを合わせるのに苦労しましたね。やっぱりバンドって独特のユレがあって、「え、なんでそこで全員がうまく合うんだろう?」って思うんですよ。それがそのバンドならではのグルーヴを生み出していると思うんですけど、そこに自分のタイム感でアコギを当てても、全然うまくいかない。「俺のアコギ、一体どこにいたら正解なんだろう?」ってなった(笑)。


ホリエ:特に秦くんのギターはカッティング中心だったから、リズムを合わせるのは大変だっただろうね。僕も、後からアコギをオーバーダビングするときとか、「難しいな」って思うことあるから。


秦:そうなんですよ。ハイハットとベースとアコギのストロークの位置関係が、なかなかつかめなくて何度もやり直しましたね。いや、バンドって不思議だなあってつくづく思います。


ホリエ:今回は、秦くんのアコギが入ったことで、結果的にこれまでのストレイテナーとも違う新たなグルーヴが作れたと思いますね。普段、歌いながらアコギをかき鳴らしている秦くんのグルーヴは、僕がたまに弾くアコギやOJ(大山純)のエレキギターにはないものだったので。歌い出しのところを僕のピアノと秦くんのアコギで始めたのは、「この曲は、いつものストレイテナーとは違うアンサンブルなんだよ?」っていうところを強調したかったからなんです。


■「この人となら一緒に曲を作りたい」と思えることが重要


ーー改めて、今回の共作を振り返ってどう思いますか?


ホリエ:やっぱり、今後の曲作りに大きく影響を与えるだろうなと思いますね。特に歌詞の作り方は今回、一番印象深かったので。すでに、最近書いた曲は秦くんからメチャメチャ影響を受けたものになったし(笑)。


秦:本当ですか? それは早く聴きたいなあ(笑)。


ーー秦さんはどうでした?


秦:僕も同じで、ホリエさんの持つ視点や、言葉の選び方からきっと影響を受けていると思います。それと、歌詞を書くときに結局何を一番大事にするかっていうのは、その時々であると思うんですけど、例えば辻褄じゃなくて語感が大事な時もあるし、逆に辻褄が合ってないとたどり着けない場所もある。そこは、今まで自分の物差ししかなかったところに、共作を経て新たな物差しが加わった感じがしますね。


ーー貴重な体験であると同時に、他人の物差しが入ってくるというのは、心からリスペクトしている相手でないと怖いことでもありますよね。


秦:そう思います。だから、最初に「この人となら一緒に曲を作りたい」って、心から思えるかどうかはすごく重要なことだと思います。その直感のようなものも大切にしていきたいです。