今シーズンは結果として4度のポールポジションを獲得したホンダNSX-GT。ライバルのウエイトハンデが重くなった中盤戦で2勝を挙げ、未勝利に終わった2016年シーズンを越えるパフォーマンスを見せた1年となった。それでもホンダ陣営としてのドライバーズランキングトップはRAYBRIG NSX-GTの7位。この1年をどう振り返り、そして2018年シーズンに向かうのか。ホンダモータースポーツ部の山本雅史部長、そして佐伯昌浩GTプロジェクトリーダーに聞いた。
「今年を振り返りますと、私たちは去年の結果を踏まえて、開幕前のテストからチャレンジャーの立場。レクサスさんがすごくいいクルマを作られたので、とにかく、そこに追いつけと開発を進めてきました。開発体制の変更もあり、若干、例年よりスタートしたのが遅れましたが、なんとかこのウエイトハンデのない最終戦の予選でレクサスさんと対等に戦えるくらいにしたいということで開発を進めてきて、Q2に2台(KEIHIN NSX-GT、RAYBRIG NSX-GT)残れるところまでは来れました。ただ、まだ負けている状況です」と、今シーズンを振り返るのは、ホンダの佐伯昌浩GTプロジェクトリーダー。
今年のホンダ陣営は昨年までのGT、スーパーフォーミュラそれぞれのプロジェクトリーダー制から、両カテゴリーの開発を佐伯リーダーがまとめて管理するという開発体制の大きな変更を行った。その体制変更もあって、ライバルに比べて新規定となる『クラス1』に合わせた車両開発に遅れた出てしまった。
それでもシーズン当初から予選一発の速さ、そして苦手の富士でも好パフォーマンスを見せ、シーズン2基目のエンジンが投入された中盤戦以降、序々にライバルとの差を縮めはじめ、開発の順調さを伺わせた。
「エンジン側、そして車体側、セットアップの熟成、どれもレギュレーションで触っていい範囲はほぼすべての部分で開発を加えました。見た目であまり変わっていない感じはしますが、速くさせるために、やれることはすべて徹底的にやりました。その分、結構な開発費も使いました(苦笑)」と、佐伯リーダー。
「レクサスさんとはある程度、戦えるというところまで見えては来たと思います。でも、まだトップを獲れているわけではない。来年に向けては、昨年以上に早い段階から準備を進めています。オフのテストでも、どんどん新しいモノを投入していく予定です。やはり今シーズンに関しては、開発のスタートが遅れて、実戦に新しいモノを投入しても使い方などが熟成できず、テストをしながらレースをしていたような形になってしまった。そこは私といいますか、ホンダ陣営としての反省点です」と今季を振り返る。
そんな現場の開発力、そしてシーズンのパフォーマンスを、昨年からモータースポーツ部の部長に就任した山本雅史部長も高く評価する。
「今シーズンのスーパーGTはホンダとしては昨年よりもHRD SAKURA(研究所)のGTの開発メンバーが頑張ってくれたと思います。開幕でポールポジションは獲れましたがトラブルでレースではみなさんが走れなかったり、出だしに躓いたなかでは中盤の2戦、富士と鈴鹿1000kmで勝たせてもらって、勝ってくれたチームと研究所の開発力に感謝しています」
「何よりこの1年、クルマも変わって、研究所の体制もスーパーGTとスーパーフォーミュラのプロジェクトリーダーが佐伯に代わって、両カテゴリーを掛け持ちで今年1年、本当によく頑張ってくれたと思います。体制を変えた中でやはり最初はいろいろ躓きもあったので、そういう意味ではシーズン中盤からチームと研究所がいいチームワークを築けた年だったと思います」と現場を労う山本部長。
「この最終戦ツインリンクもてぎも、23号車(MOTUL AUTECH GT-R)だけズバ抜けていましたけど、17号車(KEIHIN NSX-GT)と100号車(RAYBRIG NSX-GT)は戦えるレベルに来ていた。もちろん、それでもまだまだアドバンス(先んじている部分)はないので、このオフは来年に向けて研究所と一緒にしっかりとやっていきたいですね」と来年に向けての抱負を語る。
山本部長はドライバーラインアップを含め、体制面での責任者でもある。来シーズンに向けて、ジェンソン・バトンの加入が噂されているが、どのような体制を築く予定なのか。
「来年に向けて、ドライバーラインアップはまさに今、最終調整をしているところでして、なるべくお客様に喜んで頂けるように、そして勝てるようにチーム体制を強くしたいと思っています。そこは今、まさに調整をしているところです。鈴鹿1000kmでは(ジェンソン)バトンが乗りましたけど、外国人としてはバトン以外のドライバーも考えています」
カテゴリーは異なるが、今季はスーパーフォーミュラでピエール・ガスリーを招いたホンダ陣営。明言はなかったものの、バトンのレギュラー参戦を含め、来年も国内カテゴリーでビックネームを期待したいのはホンダファンだけでなく、国内モータースポーツファンの願いでもある。
「他のチームとの契約もあってなかなか難しところもあるんですけど(苦笑)、いろいろポジティブにやりたいと思っています。来年は今年以上にホンダ一丸となって、チーム・ホンダとしてアグレッシブにレースがやれるような1年にしたいと思っています」と締めくくった山本部長。
今年は鈴鹿1000kmにバトンをスポット参戦させたり、開発中のNSX-GT3をお披露目したりと、これまでになかったようなアグレッシブな企画で国内モータースポーツを盛り上げた。そのNSX-GT3についても「GT300はカスタマー契約になりますけど交渉を進めているチームがいくつかありまして、GT300にもGT3のNSXが走るようになると思います」とポジティブな進捗を語った山本部長。
山本部長が推進するモータースポーツファンが楽しめるような新しい企画は、まだまだ来年も続きそうで、今年以上のサプライズを期待したいところ。今年のホンダは話題性だけでなく、レースのリザルトに対しても勝利に向けて新しい国内開発体制を作り上げ、その成果が徐々に見え始めてもいる。来シーズンはこれまでの低迷からV字回復となるか。まずは、このオフのアプローチが重要になる。