2017年F1第19戦ブラジルGP、ルイス・ハミルトンが予選でクラッシュし最後尾から追い上げることに。今宮純氏がブラジルGPを振り返り、その深層に迫る──。
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4冠王ルイス・ハミルトンの予選クラッシュが、“消化試合”になりかけていた第19戦ブラジルGPを一変した。緊迫したインテルラゴス、あと2戦まさかの始まりだ。
年間チャンピオンが決まった後も直近ライバルに挑むのがF1スポーツ。勝ったセバスチャン・ベッテルだけでなく、初夏の暑さ(気温29度/路面59度)となったインテルラゴスを全者が全力疾走。濃厚なレースが最後まで見られた。
超速ペースアップの今シーズン、いきなり金曜フリー走行早々から速まり、予選PPも最速ラップもすべて新記録スピードが出るタフな“プレ最終戦”となっていった。
サンパウロはこの時期、雨が降るか暑くなるかのどちらかだ。昨年は3時間オーバーの大雨ウェットレースをハミルトンが制した。今年は逆にホットレースとなった。10年も気温25度/路面51度コンディションになったがそれ以上の暑さ、客席はTシャツ姿のファンで埋まった。
チームにとってこの週末は難しい天候の変化だった。金曜FP1からセッションごとに温度や風向きが変わり、降ると予報されていた雨は落ちてこない。
微細な冷却対策を施し、タイヤ特性の変化を想定するエンジニアたちのシビアな“ヘッドワーク”が日夜続けられていた(深夜にサーキットそばで強盗事件がメルセデスだけでなく数件発生。自分も身の危機を感じたことがあるが鈴鹿ゲート前で襲われるなんてありえないこと)。
コース外でも中でもなにが起こっても不思議ではないインテルラゴス。予選Q1開始早々、ハミルトンが6コーナーでクラッシュ。04年に現場で目撃したミハエル・シューマッハーの事故にかなり似ていた。
タイヤ内圧が十分に上がってなく、『車高が低い状態のままバンプを乗り越えた瞬間にボトミング』→『シャシー底面を流れる気流がスタック』→『リヤ・ディヒューザーのダウンフォースが限りなくゼロ』→『予期せぬスライドからスピン』→『ターマックいっぱいまでスピン』。どうしようもない……。
4冠王を決めた彼も(シューマッハーでも)やってしまう魔のコーナー。長かったシーズンに犯したほんの一瞬の“ミステイク”をハミルトンは大恥と受けとめたに違いない。
ピットスタートを選び、無欲のまま思い切り走るレースをするだけ、ポイント計算などもうどうでもいい……。
ベッテルの敵はバルテリ・ボッタスに変わった。ランキング2位こそが最大目標、4冠王はモチベーションを高めた。
Q3アタックで「1コーナーをセーブしすぎた」と言いPPをボッタスに譲ったがコメントの裏を深読みすれば、レースへの自信もうかがえるこれは駆け引き発言。真意は違う。『ただ無理はしなかっただけのこと』だ。
それはスタートで明らかになった。ややホイールスピンしたものの、ベッテルはそこから加速を伸ばしインサイドラインから1コーナーを占領。
おそらく2→3速で“マジック”を駆使、並行するボッタスはたじろぎブレーキングでブロックできなかった。
これがベッテルの勝因にほかならない。メルセデスのボッタスは後方乱流を浴びるとプッシュできない傾向がある。2秒前後のマージンを堅守、DRS圏内に入れないよう全力を傾注したベッテル。逃げるが勝ちだ。
ゲームの焦点はピットスタートのハミルトンにあった。8周目に10番手、20周目に6番手、30周目にはトップに。安全・安心なオーバーテイク模範プレーを続けた4冠王はベテランらしい。
マシンの速さに任せ強引に抜くのではなく、若手を相手に“実戦レーシングスクール”のコーチのよう。
トップ6は3強チームが占めた。その後方での7位対決、フェリペ・マッサ対フェルナンド・アロンソ対セルジオ・ペレスの“マッチレース”をもっとTV映像もフォローして欲しかった。
マッサはコーナーで曲がらず苦しく、アロンソはシャープにインをコンパクト・ラインで攻めるが抜けず、9位ペレスは前方の戦いをウオッチしながら直線加速スピードに賭けた。この分かりやすい駆け引き=ドライバーズ・レースがブラジルGPエンディングを盛り上げた。
――最後に表彰台で異例なマッサ引退セレモニーがあり、第45回ブラジルGPはしめくくられた。