2017年11月14日 11:12 弁護士ドットコム
飲食店で「靴を履き間違えられた」「コートがなくなった」…そんな経験をしたことがある人は少なくないだろう。しかし、なくなったことに泣き寝入りするのではなく、客の行動を見ていなかったとして店側に弁償を求める人もいるようだ。
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弁護士ドットコムの法律相談にも、飲食店でコートを間違えて持って行かれたという人から、お店側に賠償してもらうことはできるか、という質問が寄せられている。店側に弁償して欲しいと伝えたところ「一人でやっているのでコートまで監視する余裕がない」「セルフ管理でお願いします」と言われたそうだ。
このように、飲食店で自分のコートなど身の回りのものがなくなった場合、客の行動を見ていなかった店側に法的責任はないのか。また「人質」ではないが、かわりに別の人のものを手にしたら問題になるのか。高橋裕樹弁護士に聞いた。
「このようなトラブルについては、次の2つのケースに分けて考える必要があります。
(1)飲食店側にコートなどを預けた場合
(2)飲食店側に預けず、隣の席の椅子などにコートを掛けていた場合
まず『(1)預けた場合』ですが、結論としては、ほとんどのケースで飲食店に対して賠償請求をすることができます。
飲食店の主人が、お客様から預かったコートのような物品を紛失してしまった場合や傷を付けてしまった場合、飲食店はその紛失や毀損が『不可抗力によって生じた』ことを証明できない限り、賠償責任を負わなければなりません(商法594条第1項、法律的には飲食店とお客様の契約は『寄託契約』となります)。
要は、大地震、洪水、落雷のような想定し難い天災などが原因となって、預かった物品を飲食店側の過失なく紛失してしまった場合や、毀損してしまった場合でない限り、飲食店は賠償に応じなければならないのです。
そしてこの責任は、飲食店がお客様から保管料をもらっている場合だけでなく、サービスで無償保管している場合にも負わなければなりません。また、『お預かりした物品の紛失・汚損等については一切責任を負いかねます』などと告示していても責任から免れることはできません(商法594条3項)
この責任の重さを知らずに、コートなどを預かっている飲食店も、かなりあるのではないでしょうか。
ご質問のケースが、『(1)飲食店に預けた』だった場合、コートが盗難や取り違えのような不可抗力とはいい難い原因によって紛失してしまったのであれば、飲食店側は賠償責任を負わなければなりません」
では、「(2)コートを預けていない」場合にはどうか。
「『(2)のコートを預けていない』場合ですが、この場合も、飲食店の主人もしくは従業員の不注意によって紛失や毀損してしまった場合には、飲食店は賠償責任を負わなければなりません(商法594条2項)。
『不可抗力によって生じた』場合ほど責任を免れるハードルは高くありませんが、飲食店側は、店内で起こり得るトラブルについては、目を光らせていないと、不注意(過失)による責任を負わされることになってしまいます。
そして、(1)のケースと同様、『お客様の持ち物についての紛失・棄損については一切責任を負いません』などと告示していても責任から免れることはできません。
ご質問のケースで、(2)コートなどを預けずに隣の席の椅子に掛けていた場合も、飲食店側が不注意によって不審者の入店や、客の不審な行動に気付なかった結果、盗難などが発生した場合、飲食店側は賠償責任を負わなければなりません」
賠償金額はどの程度になるのだろうか。
「損害賠償責任を負うとしても、すでに着て歩いているコート等の評価額(=賠償額)は新品に比べて相当低い金額になるでしょうから、弁護士費用をかけてまで回収するという人は少ないと思います。
一方、大手のホテルや飲食店では、悪評が立つのを恐れてさらっとある程度の賠償金を払ってくることもあるようです」
コートがなくなった場合、盗まれたというケースだけでなく、酔っ払いなどが間違って別人のコートを着てしまったようなケースも含まれそうだ。その場合、酔っ払いのコートは店に残されることになるが、そのコートを仕返しに着て帰ることは法的に問題になるのだろうか。
「さすがにそのコートをもらうことはできません。取り違えをされてしまった方は、自分のコートを取り戻すことと、盗んだ相手がコートを汚したり転売してしまったような場合に損害賠償請求をすることができるだけで、取り残されたコートを自分の物にしたり、売却して賠償金に充てたりすることはできません。
なお、お互いが自分ものと取り違えて持ち帰ってしまったような場合は、『自分のコートを返してもらうまで相手のコートを返さない』といって返還を拒むことができます(留置権、民法295条1項)」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
髙橋 裕樹(たかはし・ゆうき)弁護士
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