アベノミクスの影響か大手企業の業績が好調だが、企業が利益を上げても、従業員にはなかなか還元されないようだ。
企業が抱える現金と預金は、2016年度末に過去最高の211兆円に上った。16年度の純利益は50兆円で、5年前の2.6倍になっている一方、人件費は5年前から1%しか増えていないという。朝日新聞が、財務省の法人企業統計を分析し、11月12日に報じた。
ネットでは、
「だから、何でその金を給料に回さないんだよ。大多数の労働者の暮らしが良くならなきゃ、イザナギ景気超えなんて言っても何の意味もないんだよ」
「人件費に回すように税制を変えて欲しいな」
といった怒りの声が上がる。純利益が増加している以上、それを従業員に還元してほしいと思うのは当然だろう。しかし賃上げは、そう簡単ではないようだ。
「リスクや将来への不安」から人件費に回すのを躊躇
経済評論家の平野和之さんは、
「財務省の統計によると、利益から配当や税金を差し引いた内部留保は約400兆円で、そのうち約200兆円を設備投資や株式投資に回しています。残りが現預金の200兆円となるわけですが、これとは別に借金を抱えている企業もあるので、企業が自由に使えるのはそのうち100兆円程度ではないでしょうか」
と指摘する。とはいえ、借金を差し引いても100兆円ほど残るのであれば、なぜそれを人件費に回さないのか。
「つい先日も神戸製鋼で不祥事がありましたが、どの企業でも何らかのトラブルが生じるリスクがあります。そのため、一時的に利益が上がっても、人件費に回さない企業が多いのだと思います。また現在、日本企業には将来への不安が根強くあります。」
現在、純利益は増加しているものの、この先どうなるかわからないため、企業としては現預金を積み立てておきたい。不安が先走り、結果として賃上げは先延ばしになる、ということのようだ。
「社員が大学院に進学したら減税」といった制度があればいい?
しかし、これでは利益を上げるために働いている従業員が報われない。数字として結果を出しているのだから何らかの形で報われるべきだろう。平野さんは、賃上げ以外の解決策として、企業が社員のキャリアアップを支援できるような制度を提唱する。
「社員のスキルに見合った賃金しか支払えないわけですから、企業が社員のキャリアアップをサポートしやすくなるような税制が必要でしょう。例えば、日本では社会人の大学院進学率がとても低い。社員の進学費用を企業が負担した時に、減税をするといった制度があればいいでしょう」
他にも、「企業が従業員にストックオプションを付与しやすくなるような制度の改善」が必要だという。利益の増加を直接給与に反映させることができなかったとしても、何らかの方法で還元してほしいものだ。