終わってみれば5点差。スーパーGT第8戦ツインリンクもてぎを終え、2017年のGT300チャンピオンは、グッドスマイル 初音ミク AMGをドライブする谷口信輝と片岡龍也が獲得した。第7戦タイ終了の時点で9ポイントのマージンがあり、さらに予選でポールポジションを獲得したことで1点を加算。彼らには10点のマージンがあった。そして決勝では3位フィニッシュ。一見余裕をもってのチャンピオン獲得かと思われたが、実はかなり「ギリギリ」での王座獲得だった。
第1戦岡山で勝利を飾り、「どこへ行っても速い」グッドスマイル 初音ミク AMGは、今季取りこぼしも少なかった。しかし、タイトルを決するもてぎに入り、公式練習で走行を開始してから、ある異変があることに気付いた。
マーキングしたソフトめのタイヤは、予選一発こそ素晴らしいタイムが出るものの、ロングランでは厳しいということが分かったのだ。予選ではポールも獲れたが、片岡がスタートを担当し、わずか16周でピットインしたのは、そうした事情があったのだ。
後半、長いスティントを担当することになった谷口は、この週末一度も履いていないハードめのタイヤで走行を強いられた。
谷口が履いたハードめのタイヤは、レースでは今季使った経験はあったものの、この時季のレースで使うには少しペースが苦しく、さらにタイヤ交換本数を減らしたARTA BMW M6 GT3、LEON CVSTOS AMGに先行され、VivaC 86 MCにも眼前に入られてしまった。
タイトルを争うARTA、LEONが先行したとしても、その背後にいればタイトルは獲れる。しかし「勝ってタイトルが獲れれば最高だったけど、目標はチャンピオンだから(谷口)」と我慢の走りを強いられた。VivaCを駆る松井孝允は、マザーシャシーの特性を活かし加速も速い。抜くに抜けなかった。
さらに、このレースではタイトル争いの4台のほかにも、獲得ポイント数を下げてしまうライバルたちの存在があった。彼らに上位に入られると、必然的に得点が減り、逆転の可能性すらあったのだ。ただ今回のレースでは、それらのライバルにトラブルが相次いだのも、グッドスマイル 初音ミク AMGのタイトル獲得を後押しするかたちになったと言える。
まず、今週末上位を争っていたマネパ ランボルギーニ GT3が12周目にエンジントラブルのためストップ。
また、優勝を争うスピードをみせたD'station Porscheは、スヴェン・ミューラーがドライブ中、GAINER TANAX AMG GT3と争った際に接触し、ホイールのバルブを破損。リヤのみの二輪交換で藤井誠暢に交代した後、右フロントのパンクチャーに見舞われてしまった。
谷口が競った松井も、ギヤが入りづらいトラブルにより、先行を許した。ちなみに、松井は抜かれた際、ギヤが入らなくなってしまったという。
「レースはこんなものだと思う。10ポイントあっても、リタイアしたらそれで終わりだし」とチームの河野高男エンジニアはレース後、ホッとしたように語った。ライバルに起きたことは、グッドスマイル 初音ミク AMGにも起きうる。そして実際苦しいペースを強いられた。
「そういう意味では、みんなギリギリのなかで勝つために強い思いでやってくれた。片岡も(タイヤやマシンに)優しく走ってくれたし、谷口もなんとかコントロールして走ってくれた。ヨコハマさんが作ってくれたタイヤも、すごく速かったのは間違いない」
こうして谷口と片岡は、三度目のチャンピオンを得た。今年彼ら、そしてGOODSMILE RACING & Team UKYOのメンバーは、どうしてもタイトルが欲しかったのだ。
初音ミクGTプロジェクトの10年目、ヨコハマの100周年。そして、チームのメンバー全員にとって、チャンピオンが欲しいある理由があったのだ。その思いが結実し、ふたりのドライバーが実行してみせたのが、今シーズンの最終戦だった。