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出版社が回収した「ダーリンは70歳 高須帝国の逆襲」、メルカリやヤフオクで売るのはOK?

2017年11月13日 10:23  弁護士ドットコム

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名誉を毀損したり、プライバシーを侵害したなどの理由で、雑誌や本の出版及び販売に対し、差し止めの仮処分決定や差し止めを認める判決が下されるケースがあります。また、何らかの理由で出版社側が絶版を決定し、出版物を回収する場合もあります。


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もしも販売前のものであれば、通常は書店から回収され、本を手に入れることはできません。しかし、すでに販売してしまったものがあれば、全ての本の回収は難しいようです。


例えば、美容外科医の高須克弥さんと漫画家の西原理恵子さんの共著「ダーリンは70歳 高須帝国の逆襲」は、版元の小学館が2016年5月に発売したものの、約1週間で回収を決定、そのまま絶版になりました。しかし、その後は、メルカリやヤフオクなどで、定価より高値で取引されていました(現在は、同じ内容の電子書籍版が高須さんと西原さんから出されています)。


何らかの理由で裁判で出版差し止めになったり、出版社側が絶版、回収したりして正規の流通から外れた本を、一般ユーザーがヤフオクやメルカリで売ることはできるのでしょうか。林朋寛弁護士に聞きました。


●転売は購入者の自由だが、責任問われる場合も

「ダーリンは70歳 高須帝国の逆襲」は今でもメルカリやヤフオクで転売されていますが、問題はないのでしょうか。



「その『ダーリンは70歳 高須帝国の逆襲』は、私は回収前に購入しています。回収の際、出版社からは編集の不備で回収したというくらいで具体的な問題箇所の説明は無かったように思います。


さて、回収対象の出版物等を転売することについてです。適法に売買で取得した書籍や雑誌は、購入した人の所有物です。その書籍等を転売するのは、購入した人の自由です。


また、いったん販売した書籍等を何らかの事情で出版社が書店から回収する対象にしたとしても、そういった場合に売買契約を解除する特約が出版社あるいは書店と消費者との間では無いでしょうから、購入した人が回収に応じる必要はありません。


ただ、利用するサイトの規約に基づいて運営者によって転売が制限される場合はあるかもしれません」


では、どんな本でも転売できるのでしょうか。


「いいえ、出版社が自主回収を決めたものや、裁判で出版の差止めが認められたものを転売することが、必ずしも適法になるわけではありません。例えば、誰かの名誉やプライバシーを侵害したとして差止めになった出版物を転売する行為は、事案によってはその名誉やプライバシーに対する侵害を助長・拡大していると考えられるからです。



ヤフオク等で売る人は、転売で得られそうな利益ばかりにとらわれると、法的責任を追及される側に立つ危険もあるでしょう。転売すると問題になるかどうかの判断はケースバイケースですし、情報の受け手の自由等も考慮すると難しい問題です。


そして、時間の経過とともに状況は変化します。たとえば、いったん出版差止めが裁判所で認められても、その後にその裁判が覆る場合もあります。たとえば昨年出版された菅野完著『日本会議の研究』(扶桑社新書)は、東京地裁から出版差止めの仮処分命令を受け、出版社側の異議が認められて仮処分命令が取り消されています。


このとき差止め命令を受けて、出版社は裁判所から問題を指摘された箇所を黒丸の伏せ字にした修正版を出しました。付加価値があるかは知りませんが、今となっては修正版の方が珍しい物となったように思います。私は同書の初版一刷目を購入したので、問題になった当時は伏せ字の修正版がちょっと欲しくなりました」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
林 朋寛(はやし・ともひろ)弁護士
北海道江別市出身。大阪大学卒・京都大学大学院修了。平成17年10月弁護士登録。東京弁護士会、島根県弁護士会、沖縄弁護士会に所属の後、平成28年3月に札幌弁護士会所属。経営革新等支援機関。税務調査士(R)。登録政治資金監査人。

事務所名:北海道コンテンツ法律事務所
事務所URL:http://www.sapporobengoshi.com