ランキングトップの3台が予選グリッドで逆の順に並び、トップ3の直接バトルが期待されたスーパーGT500クラスの最終戦。しかし、スタートのシグナルが変わる直前の最終コーナーでPPのMOTUL AUTECH GT-Rと2番手のWAKO'S 4CR LC500がまさかの接触。2台とも外板部を破損し、WAKO'Sはスタート後にペースが上がらず、実質、この接触でタイトル争いを離脱。ランキングトップ3台による直接対決は幻となってしまった。
「スタートに向けてフォーメーションラップでサイド・バイ・サイドで隊列を組まなきゃいけないのに、ダウンヒルの裏ストレートから僕が並ぼうとしたけど、ロニー(クインタレッリ)が何度もブレーキングを繰り返した。それ自体は大きな問題ではないけど、(最終コーナーで)僕は左側に整列しようとしたのに彼は僕にスペースをまったく与えず、ドアを閉めた(スペースを奪った)だけでなくブレーキングをしたんだ。僕ができることは何もなかったよ」と話すのは、スタートでWAKO'Sのステアリングを握っていたアンドレア・カルダレッリ。
一方のMOTUL GT-Rはクインタレッリがスタートを務めていた。
「僕もビデオを見返さないと状況は分かりませんけど、普通に走っていたら後ろからクルマがスピンしそうなくらいの衝撃を感じました。ホームストレートでリヤタイヤから煙が上がっていたので、パンクすると思い、正直レースが終わったとも感じましたけど、慎重に1コーナーへ飛び込みました」とクインタレッリ。
「ただ、グリップはしていましたし、そのあと2周くらいはサイドミラーを見ながら走っていました。煙も場所によっては出るような状況でしたが、クルマのバランスは変わりませんでした。3周目くらいからは煙も出なくなったので、チームと連絡を取りながら、タイヤの内圧を確認して走っていましたね」と、スタートから序盤戦を振り返る。
カルダレッリはMOTUL GT-Rとの接触後「フロントやボンネットのエアロが破損してしまって、クルマのフィーリングは一変して悪くなって速く走るのが難しくなってしまった」と振り返り、「今シーズンは安定してポイントを獲得できたし3度ポディウムに上がることができた。なので、今日まではとてもポジティブなシーズンだったよ」と、悲喜こもごもの感情を明かした。
アクシデントの是非はともかく、この接触に関してはWAKO'S脇阪寿一監督の言葉が印象的だった。
「スタート前の接触はモニターのリプレイでしか見ていなくて、詳細はドライバーのふたりに聞かないと分からないですけど、たとえロニーが悪かったとしても、タイトルがかかっている我々のクルマがスタート前に傷つくことで、我々にポジティブになることは何もない。そういう見方で考えると、ものすごく残念でした」
今回のレースでは同じくタイトル候補だったau TOM'S LC500がレース序盤にGT300マシンの接触を受け、戦線を離脱するアクシデントも起きていた。
たとえどんなに相手に非があっても、それで自分自身が被害を被って結果が出せなければ、スーパーGTにおいては自分のミスになってしまう。チームスポーツでもあるスーパーGTにおけるドライバーの役割は何よりもまず、どんな危機も事前に回避し、コース上で生き残って戦い続けることが大前提となる。
特に、それがタイトルが懸かった一戦ならば、なおさらだ。
何度もタイトル争いを演じ、そして3度のチャンピオンに輝いた実績と経験を持つ『ミスターGT』の寿一監督だけに、その言葉にも重みがある。
「今シーズンは負けましたし、タイトルも獲れていませんけど、我々のやり方が間違っていなかったとは思いますし、その中で2年連続タイトル争いができていることにはチームのみんなの頑張りに感謝していますけど、同時に、現状としてはタイトル獲得までには力不足で、ミスもしている。そこはまだまだだということも忘れてはいけないと思っています」と今シーズンを振り返る寿一監督。
メーカーの意地、そして多くのスポンサーにチームメイト……それらすべてを背負って戦うスーパーGTならではの難しさ、そしてタイトル争いのプレッシャー。目には見えないスーパーGTのさまざまな要素が、まさにスタート直前の最終ビクトリーコーナーの2台の接触に凝縮されていたように感じた。