いま人々は、かつてないほど「普通」に憧れを抱いているのではあるまいか。2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』(村田紗耶香/文藝春秋)は、36歳で異性との交際も就職もしたことがなくコンビニでバイトを続ける女性が、周囲の「普通になれ」という圧力に困惑する様子が描かれていた。
はてな匿名ダイアリーには11月6日、「『普通の人』のハードル、上がりすぎてませんか?」という投稿があり注目を集めている。
投稿者は、「普通の人」といえばどんな人を思い浮かべるか訊ね、それは、ありていに言えば
「大卒で正社員で、フルタイムで働く人」、「共働きで、子育てと仕事を完璧に両立する人」
ではないですか?と問いかけている。(文:okei)
「楽しそうなのはレジャーに出かける老人か外国人観光客だけ」?
もし、自分がそれに当たるなら、「あなたは『普通の人』ではなく、本来『すごい人』なのです」と書く。投稿者は、
「今の世の中で、これをクリアするのは相当な運と努力が必要だったはずです。それで普通だなんて、明らかに正当な評価じゃありません」
と主張している。
しかし、今の社会で求められる「普通」は、自分をすり減らし努力しなければ得られず、何か欠ければ「だめな人、変な人」「だめだった人」になってしまうと指摘。通勤通学では皆辛そうな顔をしていて、楽しそうなのはレジャーに出かける老人か外国人観光客ばかり。当たり前の努力をクリアして「普通」になるのが、こんなに大変だからだと嘆く。
さらに、「本来、なんの取り柄もない人間が普通のはず」とも訴える。自分が普通だと思っている人も、何か欠けているという人も、「すごい人」「普通のレベルはクリアしています」などと励まし、「大丈夫です」と締めくくっていた。
この人の言う「普通」の基準は、「(日本の)一般的な認識」ということだろう。確かに、いまだに「フルタイムで正社員」は特に男性に求められる「普通ライン」だと思われるが、男性でも非正規雇用が増えている現在、このハードルが辛い人もいるだろう。
女性にしても、自分が望んで独身だとしても「30代半ばには結婚して子どもがいないと可哀想」のような、「普通の押しつけ」にぶつかることは多いと聞く。結婚すれば「出産」、子どもがいれば「共働きして家事と両立」など、こうした「普通らしき価値観」を、苦々しく思う人は多いだろう。
ハードルが上がったのではなく、「乗り越える力が弱まった」のでは
この投稿には、300以上のはてなブックマークが付き、様々なコメントが寄せられている。
「"みんながいうふつうってさ、なんだかんだで実際はたぶん 真ん中じゃなく理想に近い"ってPerfumeがうったってただろ(※原文ママ)」
とのコメントが人気ブックマークの1位だった。今や「普通」は「理想」と感じる人が多いのだ。
「一億総中流」と言われた時代を振り返る人も。
「かつて、磯野家や野原家は本当に『普通の家庭』だった。夕暮れと共に帰宅して19時からの野球中継を見る人も、バイト代を学費に充てず車やバイクを買う人も、工場勤務で妻子を真っ当に養う人も、本当に普通だった」
いずれも専業主婦世帯で、「サザエさん」のような3世帯同居や、「クレヨンしんちゃん」のような、郊外に一戸建てを構え、子ども二人で夫は正社員のサラリーマン世帯だ。
今と比較すると、ハードルが上がったのではなく、「乗り越える力が全体的に弱まった」ということではないかと感じる。ただそれも、決して個々人のせいではないし、そのハードルもこれなら絶対誰でも幸せということでもない。1人ひとり「理想」の形は違うのだから、他人が設定したハードルばかり気にするのではなく、自分の価値観をしっかり持って生きなくてはならないのだろうと考えさせられた。