吉田修一の小説『悪人』が舞台化され、2018年3月29日から東京・三軒茶屋のシアタートラムで上演される。
2010年に妻夫木聡、深津絵里の共演で映画化されている『悪人』。佐賀の紳士服量販店に勤める光代と、長崎の港町に住む解体業の男・祐一が携帯サイトを通じて知り合って恋に落ちるが、祐一が殺人を打ち明けたことから2人の逃避行が始まる、というあらすじだ。
2人芝居として上演する今回の公演では、祐一役に中村蒼、光代役に美波がキャスティング。台本・演出を合津直枝が手掛ける。「光代をもう少しだけ救ってやりたい」という思いで合津が書き上げた上演台本に吉田が共感し、舞台化が実現したという。チケットは1月14日に一般発売。
中村蒼は「初めてのふたり芝居は未知の世界ですが、今はその不安と期待が入り混じっている感覚です。小説、映画共に多くの人に愛された作品で今回の舞台もそれに並ぶ、もしくはそれ以上のものになったらいいなと思っています」とコメント。
美波は「祐一と光代の物語は胸がきつく張り裂けそうになるお話です。自ら進んで覗きたくない心の小箱を開けることになるかもしれません。でもそこには一瞬でも煌めく光があります。この光を見ることのできる人生は少ないのではないかと思います。今回、舞台という密な空間の中、みなさんとその希望を見つけ、共有できたら、どんなに素敵なことだろうと思います」とのコメントを寄せている。
また原作者の吉田修一は脚本にも参加している映画版に触れ「僕の中で『悪人』は2度完結している」としながら、舞台版の台本について「小説と映画と同じ“根っこ”を共有していることがうれしく、二人の演技も楽しみでなりません。原作にはない言葉が役者から生まれれば、それはそれでいいと思っています。稽古場にもうかがいたい。“根っこ”を同じくした、新しい『悪人』が生まれる瞬間に立ち会えるわけですから」と語っている。
■中村蒼のコメント
初めてのふたり芝居は未知の世界ですが、今はその不安と期待が入り混じっている感覚です。
小説、映画共に多くの人に愛された作品で今回の舞台もそれに並ぶ、もしくはそれ以上のものになったらいいなと思っています。
美波さんと演出の合津さんとコツコツ作り上げていきます。
■美波のコメント
私は生きていて、孤独が常に側にいます。それは今まで敵のような存在でした。
逃げようとして、更に深く傷ついた経験もしました。
心の溝が深いほど、愛する喜びも強くなりました。
吉田修一さんの「悪人」を読んだ時、今まで怖くて見れなかった孤独を直視したようでした。
祐一と光代の物語は胸がきつく張り裂けそうになるお話です。自ら進んで覗きたくない心の小箱を開けることになるかもしれません。でもそこには一瞬でも煌めく光があります。
この光を見ることのできる人生は少ないのではないかと思います。
今回、舞台という密な空間の中、みなさんとその希望を見つけ、共有できたら、どんなに素敵なことだろうと思います。
■吉田修一のコメント
新しい「悪人」が生まれる
「悪人」は、僕にとって“たいせつ”な作品です。初めての新聞連載でしたが、書き終えた時に、ひと回りもふた回りも世界が大きく見えたことは鮮明に覚えています。作家として世界が広がったと感じた初めての小説でした。
デビューから10年の間に見てきた世界とは、まったく違う光景が広がっていました。映画化の話をいただいた時は、もう少し「悪人」のそばにいたいと思い、脚本への参加も申し出ています。だから、僕の中で「悪人」は2度完結しているのです。
今年で作家生活20年を迎えますが、このタイミングで舞台化のお話をいただき、正直なところ驚いています。というのも、普段はあまり舞台を見ないのですが、新しい連載のために努めて劇場に足を運ぶようになった時期でしたから、舞台でも「悪人」を見てみたい、とすぐに思いました。
「悪人」の連載中は、祐一と光代の声がはっきりと聞こえていて、その声をうつし取るように小説を書いていました。舞台の台本を読ませてもらった時にも、祐一と光代の声が、そのまま同じように聞こえてきました。小説と映画と同じ“根っこ”を共有していることがうれしく、二人の演技も楽しみでなりません。原作にはない言葉が役者から生まれれば、それはそれでいいと思っています。稽古場にもうかがいたい。“根っこ”を同じくした、新しい「悪人」が生まれる瞬間に立ち会えるわけですから。
■合津直枝のコメント
3.11以降、働き方のスタイルを変えた。これまではテレビを中心に活動してきた。
「高い視聴率を―」「派手な仕掛けと展開を―」「超人気の出演者を―」と。
しかし、あっけなく濁流に飲まれる家や車の報道を突き付けられ、立ち止まった。「もっともっと」と突っ走ってきたけれど、それでよかったのだろうか...。「もっともっと」加えるのでなく、削いで削いでいくことで見えてくる純度の高い創造―ができないだろうか、と昨年から<ふたり芝居>を始めた。
昨年ご一緒した内野聖陽さんは「新しいものを探りあてた」、中井貴一さんは「演劇の新種目だ」と語った。昨年に続く3作目には、吉田修一さんの「悪人」を選んだ。小説は夢中で読み、映画も「見て見て!」
と宣伝をかって出たほどだ。しかし、光代のラストにだけ無念が残った。「光代は決してバッドエンディングではないはず」と思ったからだ。「もう少しだけ光代を救ってあげたい」と台本を書き上げ、吉田さんにお目にかかった。果たして、吉田さんは笑顔で受け入れて下さった。
中村蒼くんと最初に会った時、物静かだけれどしっかり目を見て話に耳を傾ける姿が、すでに<祐一>だった。パリで台本を読んだ美波さんからは「『悪人』は愛と孤独の物語ですね」とメールが届いた。
小説―映画―舞台と連なる「悪人」の物語世界に、触れ合う魂の尊さを描ききりたい。