第19戦ブラジルGPの木曜FIA会見は、母国グランプリを前に今年限りでのF1引退を表明したフェリペ・マッサのためにあったと言っても過言ではなかったでしょう。
去年ここで引退宣言をして盛大なセレモニーをやりながらも撤回したマッサですが、「今回がブラジルでの二度目の引退レースだけど、今回は間違いなく最後だよ」と苦笑い。
去年のレースではリタイアを喫し、レース途中にも関わらずピットレーンへ歩いて帰ってきて各チームのスタッフに暖かく出迎えられるという場面もありましたが、今年はそういったことは考えているのかと聞かれると、今年は完走したいと言いながらもマッサは含みを持たせます。
「今年はできればきちんとフィニッシュして良い結果を出したい。まずはそれが一番。その後で、何がどうなるかだね」
ブラジルでの一番の思い出は、あのブラジルカラーのレーシングスーツで走り初めての母国優勝を果たしたことだと言います。
「あれはまさに夢が叶ったような気分だった。特にここは僕が生まれ育ったサーキットだったしね。僕のキャリアでも最も素晴らしい1日だったし、一生忘れることはないだろう」
15年間のキャリアを振り返って、F1を引退することに悔いはないとマッサは言います。
「僕はタイトル争いまでしてとても成功に満ちたキャリアを送ることができた。F1を夢見ていた頃は、こんな素晴らしいキャリアになるなんて想像すらしていなかった。自分が成し遂げたことを誇りに思うし、何よりも多くの人からリスペストしてもらえた。それが最も大切なことだ」
ウイリアムズのシート喪失が決まった時点で一度は引退を決意しながら、ランス・ストロールの教育役を必要としていたウイリアムズからの求めに応じてF1復帰を決意したマッサにとっては、自分を評価し必要としてくれる『リスペクト』こそが重要な要素でした。
今年ウイリアムズが契約を更新しないと決めた時点で引退を決めたマッサにとって、最後の一言は彼らのリスペクトを感じられなくなったことをチクリと言ったものだったように感じられました。
最後の愛弟子として育てたストロールは、アゼルバイジャンGPで表彰台を獲得するなど目立った結果も残し成長を見せましたが、予選一発やタイヤマネージメント、マシンセットアップや開発といった総合的な実力としてはまだまだ。
そんなストロールの成長ぶりについて聞かれたマッサは様々な事例を挙げながら「F1は様々なことを学ばなければならない複雑な世界だけど、彼はどんどん成長し、その成長ぶりは必要以上に速かった」と延々と評価。
しかし最後には「彼には良い先生がいたからね!」と言って会場の笑いを取ります。それが言いたくて長々とおだてたんですね(苦笑)。
会見の前には、会見の出席者たちが集まって待機していたのですが、同席していたストロールはF3時代から仲の良いエステバン・オコンと楽しそうに談笑していて、それを見るマッサは少し寂しそうな表情を見せていました。
自分を必要としリスペクトしてくれる人がいないのなら、無理してまでF1にしがみつきたいとは思わない。常日頃そう語ってきたマッサが引退を決めた理由が、それを見てはっきりと分かった気がしたのでした。