2017年11月10日 10:43 弁護士ドットコム
今や社会問題となっている「パワハラ」。ある従業員のパワハラが原因で退職したり、うつ病になってしまったりする人も多く、パワハラをする従業員を解雇したいと考える雇用主もいるようです。
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弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも、同僚などを大声で怒鳴りつけ叱責する従業員の解雇について質問が寄せられています。
相談者によると、その従業員はパート従業員や事務員に対して、ビルの外にまで聞こえるような大声で「じゃまだからうろちょろするな」などと怒鳴り散らすといったパワハラを繰り返しているそうです。過去にはこの従業員の行動が原因で、新人数人とパート従業員複数人が辞めたそうです。
相談者は「個人面談の形をとって指導して来たのですが、治る類のものではなさそう」と解雇を検討しています。このような場合、解雇できるのでしょうか。鈴木謙吾弁護士に聞きました。
従業員を解雇する場合は、どのような手続きが必要なのでしょうか。
「解雇にあたって法律上必要な手続きは、解雇の種類により異なります。
例えば、いわゆる普通解雇の場合には30日前の解雇予告通知が必要など、法律で手続が定められています。他方、従業員に大きな責任があって、懲戒解雇手続がされた場合には、即日解雇も認められています。
業績不振による倒産回避のための『整理解雇』や処分がやや緩やかな『諭旨解雇』などの種類もあり、解雇時には労働基準法等で定められている手続は当然必要です。」
解雇する前には、いきなり解雇ではなく、事前指導をしておく必要があるのでしょうか。
「解雇前の事前指導については、法律上求められている手続ではありません。あくまで『パワハラがあったとしても、指導等もせずにいきなり解雇することが処分として妥当か』という解雇の有効性の問題になります。
パワハラの程度は事案によって異なるため、何回注意すれば解雇が有効かという明確な基準はありません。あくまでケースバイケースと言わざるを得ません」
今回の相談者は、個人面談の形で指導をしてきたようです。
「一般的には解雇が有効と判断されるには段階的処分が必要であり、戒告・けん責に基づく始末書作成、それでも改善が見られない場合に、減給、出勤停止、降格等の処分を行い、更に最終手段として解雇処分を行うという流れになります。
労働者保護の観点から解雇が認められるハードルは高く、解雇が1回目の処分では、相当な悪質性がなければ解雇処分は無効と判断される可能性が高いと言えます。
もちろん極めて悪質なパワハラの場合には、上記のような段階を踏まなくても、解雇が有効となる可能性はありますが、一般的には1回も会社としての正式な処分をしないで、いきなり解雇が認められるパワハラとは相当悪質と考えておくべきでしょう」
指導だけでなく、減給、出勤停止、降格など段階的に処分を行う必要があるということですね。
「はい。少なくとも複数回の指導に基づいて、戒告や降格、減給等の処分を経た上で、解雇手続を行うことが妥当と考えられます。
今回のケースでは、その従業員は大声で怒鳴り散らすなど、非常に問題のある行動を繰り返しているようです。しかし、会社が『個人面談の形をとって指導してきた』とはいえ、上記の明確な処分等ではなかった可能性が高いことからすれば、いきなり解雇処分をしても有効とは認められない可能性が高いでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
鈴木 謙吾(すずき・けんご)弁護士
慶應義塾大学法科大学院教員。東京弁護士会所属。
事務所名:鈴木謙吾法律事務所
事務所URL:http://www.kengosuzuki.com