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映画興行、秋の変? R指定ホラー『イット』が『ラストレシピ』を上回る2位に初登場

2017年11月09日 16:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 映画興行界に「秋の変」が発生中だ。11月4日、5日の動員ランキング。首位争いは、今年最後の3連休の初日となった3日(文化の日)に公開日が重なった、二宮和也主演、滝田洋二郎監督の『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』とマーベル・シネマティック・ユニバースの最新作『マイティ・ソー バトルロイヤル』の一騎打ちになると思われたが、そこに両作を脅かす伏兵が現れた。トップ3を作品ごとに検証していこう。


参考:社会への問題意識と潜在的な恐怖ーー『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』が描く文学的テーマ


 土日2日間で動員14万9000人、興収2億3100万円をあげて初登場1位となったのは『マイティ・ソー バトルロイヤル』。ディズニーのマーベル作品の中では、定期的に続編が製作されてきたシリーズとしてはこれまで最も弱かった『マイティ・ソー』シリーズだが、マーベル人気、アメコミ・スーパーヒーロー作品人気が日本でもようやく定着してきたことを背景に、この3作目で前作『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2014年)のオープニング興収比123.3%まで上げてきた。初日からの3日間の動員は25万9427人、興収は3億9795万円。これは今年1月に日本公開されたシリーズとしては新参者の『ドクター・ストレンジ』の初動3日間の成績の約77%という数字だ。


 一方、思わぬ苦戦を強いられたのが『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』。土日2日間の動員は10万7000人、興収は1億3800万円。この成績は、二宮和也出演映画としては前作にあたる『母と暮せば』(2015年)の興収比56.5%。土日に伸び悩んだのは、初日11月3日の舞台挨拶、及びそのライブビューイングに観客が集中したためでもあったが、それにしても初日との落差が激しすぎる。滝田洋二郎監督作品、そして作品の舞台の半分は戦時中の満州ということで、年配層の集客も期待されている本作。ウィークデイに入ってからは持ち直し傾向にはあるものの、スタートダッシュがはかれなかったことで今週以降は上映スクリーンの振り分けにも影響が出てくる見込みだ。


 それらディズニー、東宝の2作品よりもはるかに少ない202スクリーンでの公開ながら、『ラストレシピ』を上回って初登場2位につけたのがスティーヴン・キング原作、R15指定のホラー映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』だ。今年9月にアメリカで公開されると、歴代9月公開作の最高記録、歴代R指定作品の最高記録、さらには歴代ホラー映画の最高記録まで塗り替える爆発的なヒットとなった本作。今回の202という上映スクリーン数も、本国での結果を受けて配給のワーナーが急遽拡大したと聞いているが、それでも週末は各地で満席が続出。土日2日間の動員は13万8100人、興収は1億8400万円。1スクリーンあたりの動員数では1位となった。


 全米での『イット』の特大ヒットは突然変異というわけではない。今年の8月以降だけでも、『イット』の前には『アナベル 死霊人形の誕生』が、その後のハロウィン・シーズンにはジェイソン・ブラム製作の『Happy Death Day』が、さらにソウ・シリーズ最新作『ジグソウ:ソウ・レガシー』が全米1位を獲得している。今年は『ゲット・アウト』のようなこれまでのホラー映画の常識を打ち破るようなサプライズ・ヒット作も生まれ、ドラマ界ではこの秋、『ストレンジャー・シングス 2』が全米のみならず世界中を熱狂させている。数年前から予兆はあったが、2017年、ホラー映画は完全に時代のメインストリームに躍り出たと言っていいだろう。海外のメディアでは、その現象の背景にトランプ政権発足以降の社会的不安の蔓延などを読み取る論評なども出てきているが、今回の『イット』の日本でのヒットは、それがアメリカだけのものでないことを証明した。


 『イット』の集客は東京集中ではなく地方都市のシネコンでも好調、また高校生のグループ客が男女問わず大挙して押しかけているとのこと。「社会の先行きが見えなくなっていることでホラー映画がヒットするならば、不穏な世相も悪いことばかりじゃない」なんて思ってしまうのは、自分が根っからのホラー映画ファンだからだろうか。(宇野維正)