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『刑事ゆがみ』Pが語る、浅野&神木バディに萌えるワケ 「二人の関係性の作り方は恋愛ドラマと同じ」

2017年11月09日 09:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 10月クールの各局連続ドラマも中盤に差し掛かり、数字的にも評判的にも大まかな評価が定まってきた。そんななか、にわかに注目を集めているのがフジテレビ系木曜10時から放送されている『刑事ゆがみ』だ。浅野忠信&神木隆之介という非常に魅力的なキャストの組み合わせは、放送開始前から大きな話題になっていたものの、初回視聴率は7.6%(数字は関東地区、ビデオリサーチ調べ)という数字だった。


参考:高梨臨と池端レイナ、2人の秘密が生んだ殺人事件 『刑事ゆがみ』第4話レビュー


 その後も、やや数字は伸び悩んでいるものの、逆に「なんでこんなに面白いのに数字が出ないんだ」とSNSを中心に興味深い反応が巻き起こっている。そんな現状の反応や、本作の企画意図を藤野良太プロデューサーに聞いた。


■大人の色気のある男性と、それに振り回される若い男というコンセプト


 これまで『恋仲』や『好きな人がいること』など、「月9」枠で恋愛色の強い作品を手掛けてきた藤野プロデューサーが初めて挑んだ刑事ドラマ。そこには最初から多くのチャレンジがあったという。


 「『刑事ゆがみ』という原作をドラマにする時にまず制作ノートに書いた言葉が『自分が見たい刑事ドラマ』を作るというものでした。面白い作品をつくりたい、という想いはあったのですが、企画の骨子が見つかるまで、本当に悩み苦しみましたね。そんな時、ある方から『上司部下萌えがいいんじゃない?』という意見をいただいたんです(笑)」。


 この助言によって藤野プロデューサーは「大人の色気のある男性と、それに振り回される若い男」というバディものにするアイデアが浮かんだという。さらに「木10という枠は、女性が主役で、女性のライフスタイルを描いて、大人の女性に届けるというコンセプトがあるのですが、僕は男性層にも見てもらえるような作品で、新しいことも取り入れていきたいという思いがあったんです。そんなとき、“弓神適当”というユーモア溢れる刑事を浅野忠信さんが演じたらとてつもなく面白い刑事ドラマができるんじゃないかと、ピンときたんです」と語る。


■映画俳優・浅野忠信だからこそテレビドラマを面白くできる


 すぐに浅野にアプローチをしたものの、結果はスケジュールが合わずNGだった。しかし、その後、予定が変わり、浅野と話をする機会が巡って来たという。


 「初めてお話をさせていただいたとき、普通、俳優さんと最初に会う時は企画の説明をするのですが、浅野さんとは企画の話というよりもテレビドラマについて語りあった覚えがあります。浅野さんと言えば、映画俳優というイメージですが、ご本人は『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)」に出演されたときテレビの面白さを体験できたと話をされていて『長年映画をやって来た僕だからこそ、いま過渡期にあるテレビドラマで面白いことができるかもしれない』と非常に興味を持って下さっていたんです」。


 さらにバディものの相手は「神木隆之介くんがいい」と藤野プロデューサーが浅野に話したところ、浅野も「ぜひ神木くんと一緒にやりたい」と意欲をみせたという。こうして浅野&神木という刑事バディものの企画が立ち上がると、神木サイドからも快諾の知らせが来る。「神木くんの事務所にプレゼンに行ったんですが、その場で出演を決定していただけました。思わず『やった!』と叫んじゃいましたね(笑)。浅野忠信さんと神木隆之介くんのバディって、まず僕が心から“見たい!”と思えるバディ。心からワクワクしました。僕のモットーは『まずやってみよう』なので、浅野さんに断られると思っても連絡してみたことが功を奏したと思います」と笑顔をみせる。


 前述したように、藤野プロデューサーにとって初めての刑事もの。こだわったのは2点だという。「過去の刑事ドラマを片っ端から見てみたんです。そうすると自分の好みがわかってくる。僕は誰が犯人か?(WHO)ということや、どうやって殺したか?(HOW)というトリックよりも、なぜその人間が犯行を犯してしまったのか?(WHY)という動機に感情移入できるものが好きなんだと分かりました。あとは、原作に描かれている犯罪が時代性を内包しているものが多かったので、その時代性を描きたいなと思いました。この動機と時代性を描くことを念頭に、刑事ドラマを作ろうと思いました」。


■良いバディものは、セックスのない恋愛映画のようなもの


 こうしたメソッドに、浅野&神木という非常に魅力的なバディが組み合わさって出来上がった『刑事ゆがみ』。なかでも藤野プロデューサーは、浅野と神木のバディへのこだわりはとても強いという。「ハリウッドに『良いバディものは、セックスのない恋愛映画のようなものだ』という言葉があるのですが、確かにこの二人の関係性を作っていくとき、恋愛ドラマを作るリズムと一緒の所があるなと感じていました。このツーショットがいかに魅力的であるかが最大の焦点であり、もしうまくいけば、それだけで成功なんじゃないかと思っているんです」。


 この藤野プロデューサーの言葉の通り、劇中の浅野と神木のバディは、見ているだけで微笑ましくなるほど相性抜群だ。「極論ですが、浅野さんと神木くんのキャラクターが愛されれば、ストーリーや事件は起きなくていい。2人が道を歩きながら会話しているだけで面白いはずなので。それって恋愛作品と同じなんですよね。その意味で嬉しかったのは、本作に出演している山本美月さんが1話の台本を読んだときに『これってボーイズラブっぽくないですか』って仰ったんです(笑)。“上司部下萌え”狙い通りと思いました」。


■視聴率という仕組みのなかで生きているプレイヤーである以上、数字が出ないのは負け


 こうした狙いは視聴者の間にも伝わっている。作品の感想でも、圧倒的に浅野と神木の相性の良さを評価しているものが多いのだ。その点について「とても手応えは感じていますし、良い声も伝わってきます」と笑顔をみせるが、一方で「でも、あまり数字が出ていないんですよね」と苦笑いを浮かべる。


 確かに、視聴率の割には、ドラマの感想や記事には好意的なものが多く、作品の質という意味でも、批評家の評価も高い。「これほど面白いのに何で視聴率が出ないんだ。仕組みそのものに問題があるのでは」という反響も大きい。


 こんな声に藤野プロデューサーは、「視聴率という仕組みのなかで生きているプレイヤーである以上、数字が出ないのは負けですし、責任はプロデューサーの僕にあります」と現実を真摯に受け止めている。


 一方で「でも、高田プロデューサーや西谷監督とも良く話すのですが、自分たちがやりたいことは出来てるし、自分たちを信じてボールを投げ続けるしかないと思ってます。スタッフたちも厳しいスケジュールの中、面白いものを作ろうとモチベーション高く作品に向き合ってくれています。何より主演の浅野忠信さんの“面白いことをやろう”という気持ちがすごい。日々、パワーをもらってますね。まだ前半戦が終わったばかりですから。ここからが勝負だと思っています」と前向きだ。


 浅野の『面白いことをやろう』という意気込み、藤野プロデューサーの本作への熱意、そして西谷弘チーフディレクターをはじめとした現場のワンカットへのこだわり……こうした人たちの温度の高さが、作品の随所に表れているからこそ、視聴者に伝わるものがあるのだろう。放送が開始されると、“浅野忠信と仕事をしたい”と言ってくる俳優があとを絶たないという。藤野プロデューサーは「あっと驚くようなゲストも登場します」と期待を煽る。


 「反省点は多々ありますが、最後まで良い作品を送りだせるように頑張ります。浅野さんにまたテレビドラマに出たいと言ってもらうのがプロデューサーとしての使命です」と笑顔をみせた藤野プロデューサー。さらに「いまフジテレビは不振と言われていますが、真摯に本当に良い作品と思えるものを作っていくことが大事なんだと思います」と語っていた言葉が非常に印象に残った。(取材・文・写真=磯部正和)