中高生の中に、教科書や新聞の文章を正確に把握できていない生徒が多数いる懸念が出てきた。国立情報学研究所の新井紀子氏を代表とする研究チームが、2016年4月から今年7月にかけて実施したリーディングスキルテスト(以下RST)から明らかになった。全国の中高校生を中心に約2万4000人が受験した。
RSTは、教科書や新聞に載るような200字未満の短文を読み、その論理構造を正しく理解できているか見るテスト。被験者の事前知識の多寡に左右されずに、読解力を見ることができる。
主語と目的語を正しく捉えているか、同じ意味を持つ文かどうかの判断に暗雲
調査では、係り受けや同義文など7項目に関して測定した。例えば、主語と目的語を把握できているかを調べる「係り受け」の問題では、
「仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている」
という文を読み、「オセアニアに広がっているのは(空欄)である」の空欄内に入る言葉を
1:ヒンドゥー教 2:キリスト教 3:イスラム教 4:仏教
の選択肢から選ぶ。正解は2番のキリスト教だが、中学生の正答率は62.4%、高校生の正答率は72.1%だった。
提示された文章と同じ内容を選ぶ「同義文」では、
「幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた」
「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた」
の2文が同じ意味か問う問題などが出された。1文目で言われている「幕府から大名へ」の命令関係が、2文目では「大名から幕府へ」と方向性が変わっているため、これら2文の意味は同じではない。正解を選んだ中学生は57%、高校生は71%だった。
社会人のデータも収集中「統計的に十分に自信のあるデータが揃ったら発表」
研究チーム代表者の新井氏は、11月2日に一橋講堂で行われた研究成果報告会で「中学を卒業するまでに中学校の教科書を読めるようにすることが義務教育の課題」だと訴えた。
実は、新井氏は元々、IT活用の研究を主とする研究者だ。2011年から2016年までは、東大に入学できる人工知能を持つロボットの開発プロジェクトに携わっていた。ロボットが受けた模試の結果から「文を読めない子ども」の存在に気づき、RSTテストの開発と実施に着手した経緯がある。
教科書が読めなければ、予習も復習も自力では行えない。大学では塾のように勉強を教えてくれる施設はないため、自学する際、読解力の数値が大きな支障になる可能性もある。このままでは人工知能に職を奪われると危惧している。
読解力と聞くと、読書習慣の有無や学習習慣と関連があるように推測されがちだが、今回の研究では、読書の好き嫌いやスマートフォンの利用時間、新聞購読の有無や科目の得意・不得意とリーディングスキルの間に相関は見られなかった。文構造を把握する能力に何が寄与しているのかなど、詳しい調査結果は今後明らかにしていくという。
今回のテスト受験者には社会人も含まれるが、社会人に関する充分なデータはまだ揃っていないという。新井氏は自身のツイッターで、
「今、社会人も調査しています。統計的に十分に自信のあるデータが揃ったら発表しますので、お待ちいただけますか?」
と、今後の公表に関して言及していた。