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ロッシが生み出した『足出し走法』の意味とは?/ノブ青木の知って得するMotoGP

2017年11月08日 15:02  AUTOSPORT web

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ロッシが生み出した足出し走法
スズキで開発ライダーを務め、日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレースにも参戦する青木宣篤が、世界最高峰のロードレースであるMotoGPをわかりやすくお届け。第6回は、流行りの足出し走法とライダーが空力カウルをつけて走る感覚について語る。

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 第17戦マレーシアGPでは、ポイントランキング2位のアンドレア・ドビジオーゾ(ドゥカティ)が優勝! ランキング首位のマルク・マルケス(ホンダ)が4位だったため、チャンピオン争いは最終戦バレンシアGPまで持ち越されることになった。

 が……。マルケスは第18戦(最終戦)バレンシアGPで11位以上入りさえすれば、ドビの順位に関わらずチャンピオンが決定する。一方のドビがチャンピオンを獲得するには自身の優勝が絶対条件で、なおかつマルケスが12位以下でなければならない。事実上、2017年の王座はマルケスのもの、と言ってもいい。

 だから、というワケでもないが、今回はチャンピオン争いからちょっと離れた話をしてみたい。ひとつは、足出し走法。もうひとつは、改めての空力カウルについて。このふたつ、関係ないようでちょっと関係がある。

■『足出し走法』の意味とは
 足出し走法とは、ブレーキング時にイン側の足をステップから大きく外す走り方だ。2009年あたりからバレンティーノ・ロッシが始めて一気に広まった。レーシングライダーは、基本的に「速ければ何でもOK」という人種だ。「理屈はよく分かんないけど、足を出してみたらうまく走れた」というロッシを見て、「オレもマネしてみたらうまく行った」ということで、瞬く間に広まったのだ。……単純なのである。かなり。


 足を出したからと言って劇的に速くなるわけじゃない。ただ、いいフィーリングで走れることは、多くのライダーが採り入れることから間違いない。もし何か狙いがあるとすれば、ブレーキングでリヤタイヤをほどよく外に出したいのだ。後で説明するが、コレ、滑らせるのとはちょっと違う。

 あくまでもフィーリングの話だが、何か理由が隠されているとすれば、いち早く向きを変えるため、ということになる。常に「早く曲がりたい!」と願いまくっているライダーの性のようなものだ。

 ちょっとだけ歴史的な経緯を説明すると、GPマシンが4ストローク化してからしばらくの間の課題は、「ケツが出ない=リヤタイヤが外に出ないマシン」作りだった。それまでの2ストローク500ccマシンに比べ、4ストロークのリッターマシンは想像以上にパワフルで、なおかつエンジンブレーキも強烈。アクセルを開けても閉じてもケツが出てしまうという厄介なシロモノだったのだ。

 そこでマップを切り替えることでエンジン特性を変えられるようにしたり、トラクションコントロールやらエンジンブレーキコントロールやらが進化していったワケだが、いずれもケツが出にくくなる制御で、ライダーとしては不満もあった。

 そんな時に、「足を出すとなんかイイ!」と気付いたのが、ロッシだったのだ。それはまさに「なんかイイ」レベルのものではあったが、確実によいフィーリングが得られるということで、バッと広まったワケだ。

 バイクに乗る人なら、「そんなにケツを出したいならリヤブレーキやエンブレを使えばいいじゃん」と思うかもしれない。それで確かにケツは出る。しかしどちらもブレーキ、つまり減速してしまうのだ。無駄に減速してしまうことは避けたい。でもケツは出したい。というジレンマのなかで、ワラをも掴む方策としての足出し走法なのである。

 付け加えておくと、車体作りの方向性もリヤブレーキやエンブレを多用してもあまりケツが出ず、速く走ることもできない仕様になっていた。基本的にケツを出すことはタイムロスになり兼ねないアクションだからだ。それでもライダーにとっていいフィーリングならより安心して走れるわけだから、結局はタイムロスではなくタイムアップにつながりやすい。

 さっきから「ケツを出す、ケツを出す」と繰り返して少々お下品でスミマセン。このケツを出すということは、リヤタイヤを滑らせることとはちょっと違う。「リヤタイヤが通常ラインよりコーナーのアウト側に出る」という感覚だ。だからやっぱり「ケツが出る」という表現がしっくりくる。滑っているのとは違って完全にライダーのコントロール下にあるから、安心感も高いのだ。

 いいことづくしのような足出し走法だが、観察しているとすべてのライダーが必ず駆使しているわけじゃないのがまた面白い。ライダーによってはあまり足を出さないし、足出し走法を多用するライダーもコーナーによっては出さないこともある。それはもう、ケースバイケース。このバラつき、まさに定量化できないフィーリングに関わるものだからこそ、と言えるだろう。

■空力カウルはライダーの感覚次第
 さて、お次は空力カウルについて。シーズン終盤になって各チームとも新型の空力カウルを登場させた。その効果のほどは第1回でイヤというほど詳しく解説したが、新型空力カウルもめざすところはまったく同じ、フロントの無用なリフトアップを避け、接地感を高めることだ。

 風洞実験をすれば空力カウルと標準カウルで間違いなく数値上の違いは出るはずだ。でも、こちらも足出し走法と同様、すべてのライダーが空力カウルを使っているワケじゃない。同じマシンに乗るチームメイトでも、例えばドゥカティのホルヘ・ロレンソは新型空力カウルを多用している一方、ドビはそうでもない。

 ホンダのマルケスは新型空力カウル派で、ダニ・ペドロサはアンチかと思うほど空力カウルを使わない。さらにロレンソやマルケスも、コースやセッションによって新型空力カウルとスタンダードを使い分けていたりする。バラバラなのだ。

 空力カウルは、足出し走法以上にライダーおのおのの感覚頼りなのだ。四輪の場合はシミュレーターでほぼ正確に空力パーツのパフォーマンスを読むことができるが、二輪の場合はそう簡単じゃない。バイクはあまりにも繊細にして微妙な乗り物なので、ライダーは数値化できないほどわずかな差異を感じ取り、それがモロに走りに影響するのだ。

 さらに言えば、トップライダーたちは物理の限界さえ超えてしまう。ドビとマルケスが激しいトップ争いを展開し、すっかりタイヤが摩耗した最終ラップでベストタイムを叩き出すなんて、完全に理屈を超えている。

 いずれ、ライダーの感覚とマシンの挙動が完全にリンクして、より高い精度でセットアップできる日が来るかもしれない。でも、そのためには信じられないほど膨大なビッグデータが必要になるだろう。そしてその時のトップライダーは、やはり数値化できない部分まで感じ取り、物理の限界を超えた走りをしているに違いない。

 あるライディングテクニックや、あるテクノロジーがすべてのライダーに適合するわけじゃない。必ずバラつきがあって、だから先の読めないドラマが生まれる。ここがバイクレースの素晴らしいところだとワタシは思う。

 間もなく始まる最終戦、マルケスとチャンピオン争いをしているのがドビだなんて、誰が予想しただろう。冒頭に「ほぼマルケスで決まり」なんて書いたが、いやいや、やっぱり何が起こるか分からない。定量化も数値化もできない運や流れは、間違いなくドビに向いているのだ。

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■青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。