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浜田麻里からLOVEBITESまでーーガールズHR/HM、波乱万丈の30年史

2017年11月07日 10:43  リアルサウンド

リアルサウンド

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 日本のハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)シーンにおいて、女性ボーカルを擁するHR/HMバンドの歴史は80年代半ばを起点に本格化していったと言っても過言ではない。それは、浜田麻里が1983年に、SHOW-YAが1985年にそれぞれメジャーデビューしたことに起因する。歴史をさかのぼれば、70年代にもカルメン・マキ&OZなど女性シンガーが在籍するハードロックバンドは存在していたが、商業的な成功を収め、HR/HMファンの間で市民権を得始めたのが80年代半ば以降だった。


(参考:浜田麻里は『LOUD PARK』でどう評価されたか


 もちろん、この2組以外にも80年代前半から数々のガールズHR/HMバンド、女性メタルシンガーが活動している。浜田のほかにも本城未沙子、早川めぐみ、橋本みゆきといったソロシンガーがメジャーデビューしていたし、沖縄では喜屋武マリー(現Marie)率いるMarie with MEDUSAが活動を始めている。さらにJURASSIC JADEやTERRA ROSAといったバンドも一部では高い評価を獲得していた。


 そんななか、80年代後半に入るとBOOWYやREBECCA、THE BLUE HEARTSなどのブレイクをきっかけとした一大バンドブームに突入。お茶の間でもロックバンドの楽曲を耳にする機会が一気に増え、その波に乗るかのように浜田はそのサウンドを徐々にポップな方向に移行させ、一方のSHOW-YAはサウンドを硬質化させていく。その結果、1989年になると浜田がシングル「Return to Myself ~しない、しない、ナツ。」で初のチャート1位を獲得し、SHOW-YAは「限界LOVERS」「私は嵐」とヒットシングルを連発。彼女たちは自身の楽曲はロックファンのみならず、お茶の間の一般層にまで浸透させることに成功したのだ。


 彼女たちに続けとばかりに、PINK SAPPHIREのようなバンドもデビューしたものの、90年代に入りバンドブームは沈静化。HR/HMシーンに目を向けてもLOUDNESSの度重なるメンバーチェンジ、ANTHEMやVOW WOWの解散とネガティブな話題が続いた。そこに追い討ちをかけるように、1991年にはSHOW-YAから寺田恵子(Vo)が脱退。浜田もHR/HMシーンから離れ、ポップフィールドを主戦場に戦っていくことになる。


 SHOW-YAは新しいシンガーを迎えて活動を継続するも、以前ほどの成功を収められず、国内のHR/HMシーンも規模が縮小化していく。そういう意味では、90年代のガールズHR/HMシーンは“沈黙の10年間”だったのかもしれない。


 ところが2000年前後になると、ここ日本でも再びガールズHR/HMシーンが息を吹き返す。アイドルや女優として活躍したANZAをボーカルに迎えたヘヴィロックバンドHEAD PHONES PRESIDENTや、唯一無二の女性シンガー黒猫を擁する“妖怪ヘヴィメタル”バンド陰陽座などが結成され、その存在感を強めていった。また、浜田がこの頃から再びロック色を強めたサウンドに回帰し、作品を重ねるごとにHR/HM度を高めていく。


 さらに、2005年になるとSHOW-YAが寺田を含む編成で活動再開。時代が一周したのか、機が熟したのか、この頃から国内ガールズHR/HMシーンが再編されていった。同じ頃、LIGHT BRINGERやLIV MOONといったバンドもデビューを果たしているのも象徴的なトピックだろう。そして2010年代になると、Aldiousの登場を機にシーンへの注目度が一気に加速。“アゲ嬢”を彷彿とさせるビジュアルと親しみやすい楽曲と相まって、メディアで取り上げられる機会も増えていく。これに呼応するかのように、CyntiaやMary’s Blood、DESTROSEなどのガールズHR/HMバンドが続々誕生し、シーンの盛り上がりに拍車をかけた。


 そんな国内ガールズHR/HMシーンで今、もっとも注目すべき存在が今年5月にメジャーデビューしたばかりのLOVEBITESだ。asami(Vo)、midori(Gt)、mi-ya(Gt, Key)、miho(Ba)、haruna(Dr)の5人からなるLOVEBITESは2015年に結成されたばかりの若手だが、それぞれに別のバンドで活動していたというキャリアを持つ。特に、mihoを中心に結成されたこのバンドの強みは、生粋のヘヴィメタルバンドであるということ。「何を当たり前のこと言ってるんだ?」と思われるかもしれないが、特に2000年以降のガールズHR/HMバンドに多いのがヴィジュアル系経由で現在のバンドにたどり着いたケースが多く、そういった意味ではLOVEBITESのような“HR/HM純血種”は今の時代、稀だったりするのだ。


 また、ボーカルのasamiに関してはもともとHR/HMとはかけ離れた、ソウルやR&Bなどを歌ってきたという経緯があり、VAMPSやUVERworldをはじめとする有名アーティストの作品やライブにコーラスとして参加してきた経験を持つ。そういった異色のシンガーが英語詞、ストレートなヘヴィメタルを歌うことで、ほかのHR/HMバンドにはない“深み”が加わったのも事実だ。


 10月25日にリリースされたばかりの1stフルアルバム『AWAKENING FROM ABYSS』は、デビュー作『THE LOVEBITES EP』で提示した“古き良き時代の王道HR/HMに現代的なエッセンスを加えたサウンド”をより極め、さらに新たな可能性をところどころに散りばめた、とても1sアルバムとは思えない完成度の高さを見せている。実は『THE LOVEBITES EP』リリース時、とある音専誌のレビューに「現時点で国籍やキャリアの長短を感じさせない強烈な説得力が備わっていることに驚かされる。Iron Maidenばりのパワーメタルや初期スラッシュメタル、ドラマチックな北欧メタルなどさまざまな要素が散りばめられたそのサウンドに、唯一無二の個性が加われば一気に飛び抜けるはず」と書き残していたが、その個性が早くも確立されつつあるのだから驚きだ。


 この進化の裏には、8月に正式加入したmi-yaの存在がある。『THE LOVEBITES EP』ではサポートメンバーとしてサウンド面でバンドを支えた彼女だが、『AWAKENING FROM ABYSS』ではリードトラック「Shadowmaker」をはじめ全12曲中5曲の作曲、6曲のアレンジを担当。その非凡な才能を発揮させている。mi-yaという大きな武器を手にしたLOVEBITESは、間違いなくこの先さらに大きな進化を遂げることだろう。


 先人たちが築き上げた国内ガールズHR/HMシーンという枠を飛び越えて、純粋に1組の“ジャパニーズHR/HMバンド”として歩み始めたLOVEBITES。アルバムは11月6日付けオリコン週間アルバムランキングで初登場18位という好記録を残しており、11月17日からは東京・TSUTAYA O-WESTを皮切りに初の単独ツアー『AWAKENING FROM ABYSS TOUR 2017』も控えている。さらに、『AWAKENING FROM ABYSS』のヨーロッパおよび北米、メキシコでのリリースも決まり、11月下旬にはロンドンで初の海外公演も予定。NightwishやChildren Of Bodom、Amorphisなどを手がけたエンジニアチームが携わった『AWAKENING FROM ABYSS』は間違いなく、海外でも高く評価されるはずだ。近い将来世界をまたにかけて活躍するであろう国産ヘヴィメタルバンドの動向を、ぜひこれからも見逃さないでほしい。(西廣智一)