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大きくて小さな9点差。複雑に絡み合うスーパーGT最終戦GT300プレビュー

2017年11月06日 16:42  AUTOSPORT web

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チャンピオンの可能性を残すのは4台。大きくリードするグッドスマイル 初音ミク AMGの『9点差』は大きい? 小さい?
いよいよスーパーGTの2017年シーズンも、最終戦ツインリンクもてぎを迎える。年々競争が激化するGT300クラスは、今季は4台にチャンピオンの可能性が残されている。タイトル争いの状況と、どんな展開になりそうなのかをまとめてみよう。

■大きなポイント差を築いた谷口/片岡組
 2017年のGT300クラスは、例年のように高いアベレージでポイントを積み重ねたチームがタイトル争いに残ることになった。現在ランキング首位は開幕戦岡山で優勝を飾り、第5戦富士、第7戦タイでも表彰台を獲得しているグッドスマイル 初音ミク AMGの谷口信輝/片岡龍也組。取りこぼしも少なく、65ポイントを積み重ねた。

 ランキング2位は、第2戦富士でレクサスRC F GT3に初勝利をプレゼントし、第7戦タイも戦略を的中させたJMS P.MU LMcorsa RC F GT3の中山雄一/坪井翔組で56ポイント。3位はポイント獲得が多い第6戦鈴鹿を制し、開幕戦岡山でも表彰台を獲得しているLEON CVSTOS AMGの黒澤治樹/蒲生尚弥組で52ポイント。4位は第5戦富士を制したARTA BMW M6 GT3の高木真一/ショーン・ウォーキンショー組で46ポイントとなっている。タイトルの可能性を残すのはこの4台のみだ。

 得点差を見てみると、谷口/片岡組は2位の中山/坪井組に対して9ポイントの差をつけている。3位の黒澤/蒲生組とは13ポイント。一方、4位の高木/ウォーキンショー組は19ポイント離れており、優勝が最低条件。状況を考えるとかなり苦しい。

 その意味では、2位の中山/坪井組も4位+ポールポジション以上が最低限。3位の黒澤/蒲生組も2位以上が最低限と、ポイントとしては谷口/片岡組が非常に優位なように思われる。

■追う側は「条件は厳しい。ベストを尽くすのみ」
 こうした状況で迎える最終戦もてぎだが、まずは車両面で見てみると、4台ともにFIA-GT3車両だ。メルセデスAMG GT3はもてぎは得意なのでは……と思われるファンの方も多いかもしれないが、メルセデスがもてぎを得意としていたのは先代のSLS AMG GT3の時代の話。現在のAMG GT3はコーナリング重視であり、必ずしも得意とは言えない。3種類の車両のなかでは、レクサスRC F GT3、BMW M6 GT3の方がどちらかといえばもてぎ向きだろう。

 一方、ご注目頂きたいのはタイヤとチーム力だ。グッドスマイル 初音ミク AMGはヨコハマ、それ以外の3台はいずれもブリヂストンだ。グッドスマイル 初音ミク AMGは今季向けに開発してきたタイヤが非常にパフォーマンスが高く、「どのコースに行っても速い」というのが全般的な評価。それに加え、谷口/片岡が性能以上の能力を引き出す力(特に予選で)も高く評価されている。また、ふたりはタイトルがかかる大一番を何度も経験しているのも強みだろう。

 逆に、中山/坪井組、黒澤/蒲生組が履くのはブリヂストン。こちらも全体的に非常にパフォーマンスが高く、特にブリヂストンはもてぎでは表彰台の獲得率が非常に高い。中山/坪井組は若さと速さ、これまで何度もタイトル争いに挑んでいる中山の経験が武器だ。

 ただ中山に最終戦について聞くと「チーム力もついていますし、自信をもって戦いたいと思っています。今までもタイトル争いではランキング2位が2連続で続いていますし、いい位置にはいる。ただ9点差というのは大きいですね。勝たないといけないですし、優勝を狙うのと同じくらい厳しいですね。チャンピオン争いのことは考えずに、ベストを尽くしたいと思います」という。

 また、黒澤/蒲生組も“ハマった”時のパフォーマンスは他の追随を許さないものがある。黒澤の高い安定度、そして蒲生の速さはもてぎでも大いに発揮される可能性が高いが、中山/坪井組と同様、王座獲得のための順位に届くのは、激戦のGT300では難しいチャレンジになるだろう。

■「雨が降れば9点差はあってないようなもの」
 ただ、これまで述べてきた話は、すべて「もてぎの天候が晴れていたら」の話だ。谷口/片岡組のチャンピオンは、限りなく近い位置にありながらも、谷口自身はある条件によっては、「9点差はあってないようなもの」だという。それは雨が降ることだ。

「路面が濡れているのか、乾いているのかが大きな問題。雨が降ると、ブリヂストン装着車が速く、ダンロップも速い。僕たちのヨコハマは、今年は少し雨だと苦しい。ブリヂストン、ダンロップが上位に行ったら、それだけでもう前に8台いることになる」と谷口は言う。

「そうなると僕たちはかなり厳しくなる。特に雨が降ると、ヨコハマ勢でもミッドシップやポルシェが速くもなる。もちろんドライだったら、9ポイント差をひっくり返されない自信はある。ライバルの2台とも近い位置にはいられると思うしね」

 実際、今季GT300でのウエットが絡んだレースでブリヂストンが圧倒的にペースが速かったことは、第4戦SUGOの決勝レースでのラップタイムをはじめとした多くの記録が裏付けている。また、少量の雨だった場合はダンロップが強い。

「だから、雨が降ったら9ポイント差は無いに等しい。でもドライだったら、9ポイント差はすごく大きい」と谷口。

■4台のドライバー以外にも複雑に絡み合う思惑
 ドライか、ウエットか。それによっても、注目のチャンピオン争いは大いに左右されそうだ。また、このもてぎでは毎年のように得意としているチームが複数いる。#31 TOYOTA PRIUS apr GTやHitotsuyama Audi R8 LMS、D'station Porsche、GAINER TANAX AMG GT3などは特にその候補に挙げられるだろう。

 また、昨年勝利で最終戦を飾り、悲願のチャンピオンを獲得したVivaC 86 MCも、今季はタイトルの可能性こそなくしたが、第6戦鈴鹿でのクラッシュの影響が少しでもなくなれば、上位に絡んでくる可能性は高い。

 チャンピオン争いに関係がなくなったチームたちも、2018年に向けて少しでもいい順位を残そうと上位を狙ってくるはずで、タイトル争いをしている面々にとっては、“やっかいな存在”なのは間違いない。

 タイトルを争う4台8名のドライバー以外にも、26台54名のドライバーの思惑が複雑に絡み合う最終戦。いったいどんなドラマが今年を締めくくるのだろうか。