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府中刑務所の文化祭で獄中メシ&プリズンツアーを体験 中は「比較的きれいな中学校」みたいだった

2017年11月06日 13:41  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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「文化祭」といえば、何を想像しますか? 出店の焼きそばやビール、喫茶店、ステージでの公演、教室での展示などでしょうか。府中刑務所でも11月3日、文化祭が開催されました。

受刑者の食事を再現したお弁当や、刑務作業で作った特製パンが食べられたり、刑務所の中に入れる「プリズンアドベンチャーツアー」に参加できたりするのだとか。ちょっと様子を見に行ってきました!(取材・文:市ヶ谷市子)

受刑者弁当に長蛇の列、午前だけで数百食が売れる

筆者と友人は開場時間の10時に府中刑務所に到着。しかしフジロックの開場待ちを彷彿させるほどの長蛇の列です。ただ来場者は若者より、高齢の方や家族連れが多いようです。

前情報によると、名物の「弁当」「パン」は人気ですぐ完売してしまうこともあるようです。開場すると筆者は弁当、友人はパンと二手に分かれ、販売場所に走りました。にも関わらず、両方とも大行列です。

一体なぜこんなに人気なのか。前後に並んでいるたちに話を聞くと、

「『刑務所の中』という映画の中に出てくるムショグルメが気になって……食べてみたいなあと思ってきました」(30代女性)
「天気もいいし、バイク飛ばしてこのへんまで来てみたんだよね。弁当買ったらボートレースでも観にいこうかなあと思ってる」(50代男性)

ということだそうです。

30分後、やっと弁当を購入することができました。今年は1200食が用意されているということですが、人の列はまだまだ増えるばかり。

パンは40分近く並んでやっと購入できたとのこと。午前の部は800食売られ、開場と同時に並んだ友人で750人目くらいだったようです。ムショグルメ人気、恐るべし。

受刑者人気NO.1「チリソース味の唐揚げ」が堪能できるけど……

並んで勝ち取った「麦飯弁当」(800円)。今年は、チリソース味の唐揚げ、プルコギ、春雨の酢の物、麦飯となっています。この唐揚げは受刑者人気No.1のおかずなのだそうです。

いざ食べてみると、コメントが難しいほど普通な味でした。ローソンのからあげクンにザーサイ味があって、なおかつ冷めてしまったらこんな感じかな?みたいな。思ってたより美味しかったけど、これが人気No.1なのか……(※個人の感想です)。

でもプルコギは味がしっかりしみ込んでいて、これだけで麦飯全部たいらげてしまうほど美味しかったです。春雨は「小学校の給食の小さいおかずで出たよね!」と、郷愁を感じました。

続いて、受刑者お手製パン(2個入り100円)。製造者はやはり「府中刑務所」になっています。レーズンパンは、持ったときのどっしり感がすごい。スーパーで5個入り158円のレーズンパンをすべて圧縮してひとつにしました級です。コッペパンは、給食で出ました!という味。マーガリンとかチョコジャムとかほしくなりました。懐かしかったです。

府中刑務所のメインは上記2つですが、広場には焼き鳥や焼きトウモロコシなど、文化祭でよく見かける食べ物が売られていました。しかしどこを見渡してもビールの販売はありません。さすが法務省管轄施設の文化祭。

中では撮影禁止、携帯やタブレットは指定の袋の中へ

そして文化祭の目玉「プリズンアドベンチャーツアー」。こちらはメインの開場から5分程度歩いた先で受付をしています。こちらも長蛇の列ですが、20分程度で入ることができました。今年のツアー参加者は、受付開始1時間で2300人に上っていたそうです。

このツアー、入場時に氏名と住所を書いた入場券を渡すのですが、中では撮影はもちろん禁止。そして携帯電話やスマートウォッチ、タブレットを出しておくのも禁止で、荷物はすべてビニール袋に入れて、結束バンドでロックした状態での見学になります。

刑務所に入るには、2つの大きな扉をくぐる必要があります。1枚目の扉が開き、全員25メートル四方程度の空間に移動します。周囲は5.5メートルの壁と扉に囲まれていて、映画で出所するときのカットそのまんま。壁の上に青空が広がります。

2枚目の扉が開き、ついに刑務所の中へ。敷地面積26万平方メートル、周囲1.8キロメートルぐるっと塀に囲まれている府中刑務所ですが、足を踏み入れた感想は「比較的きれいな中学校みたい」といったもの。渡り廊下があり、プレハブのような工場があり、校舎のような建物があります。しかし人気は全くなく、始業式の日を1日早く間違えて登校した気分になります。

受刑者の年間休日は120日以上 労働時間は遵守され、生活の心配はないけど……

最初に見学したのは、革製品などを製作する工場です。窓から光が差し込み、空間も広々としていました。筆者が昔、日雇いで働いていたどの工場より労働環境がよさそうで、何とも言えない気分になります。

次は浴場。ここも街にあるちょっとそっけない銭湯のような作りですが、受刑者の入浴は週2回、夏場は週3回、入浴時間は15分、使用していいお湯の量は洗面器12杯までという徹底っぷり。風呂好きの筆者としては、刑務所に入ったら一番堪えるのは風呂だな、と思いました。ちなみに風呂の温度は43度程度と少し熱めのようです。

体育館も中学校のそれとほぼ同じ。ここでは1日40分程度、運動の時間があるようです。印刷物を作る工場には、作られた商品が飾ってあり、中には「ヒット商品」というポップが付けられたものも。

その他、刑務所の中には「将軍の孫」という石像や、金魚の泳ぐ池がありました。また中庭にはバラなどの花も咲いていて、気がほぐれます。しかし基本的に立ち入り禁止の黄色いテープが貼ってありましたし、収容棟が見えるだろう場所はブルーシートで覆われていました。

友人がポツリと「二度と入りたくない、とは思えない綺麗さだよね」とこぼします。たしかに全体的に綺麗だし、1日の労働時間は決まっていて、三食と寝床の心配は要りません。また土日祝日、盆、年末年始は休み、つまり年間休日120日以上のホワイトっぷり。

もし自分にお金がなくなってしまったら、わざと罪を犯して塀の中へ入ってしまうのでは、と一瞬思ってしまいました。しかし口座の残高がゼロになっても犯罪に走らないのは、ひとえに親や恋人、友人たちに迷惑をかけたくないからなのかもしれません。

ツアーで刑務所内に入っただけなのですが、やはり出所するときは外に出られることが嬉しかったです。それだけ刑務所には閉塞感と、少し緊張した空気が流れている気がしました。

「地域の方に温かい手を差し伸べてもらえるよう開催しています」

その他、文化祭にはステージでの演奏や、白バイに乗ったり、子どもが刑務官のコスプレをしたりできるコーナー、動物ふれあいコーナー(ふれあい代100円が必要)などがありました。しかしやはり刑務所、刑務作業で作ったエプロンや靴、ぬいぐるみ、家具などの購入、ろくろや大工など、刑務作業を体験できるコーナーもありました。

同刑務所の広報担当者によると、毎年来場者数は1万人程度で、刑務作業製品を愛用している人たちのリピート参加が多いといいます。文化祭を実施する理由については、

「ここ数年、犯罪件数自体は下がっています。しかし再犯率は上がっています。受刑者に対して再犯防止の働きかけをしていますが、社会復帰するには地域の方のご理解が必要。地元の方に彼らのがんばりを伝え、温かい手を差し伸べてもらえるように開催しています」

と話します。楽しむだけでなく、「今後も罪を犯さずに文化祭を楽しむ側でいたい」と決意を新たにできる文化祭でした。