トップへ

Cornelius、世界水準の演奏力と映像美で描き出した“メロウ”な夜 新旧作つなげたツアーをレポ

2017年11月04日 15:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 Corneliusの新作『Mellow Waves』のリリースツアーも終盤にさしかかった10月26日。新木場STUDIO COASTは開演前から熱気に包まれていた。つめかけた観客は20~30代の若い世代が多く、海外のファンも目立つ。フロアは身動きできないほどだ。ステージには大きな白い幕がつり下げられ、そこに開演前から、球状の物体と揺れ動く波形の映像が映し出されている。思えば、7月にLIQUIDROOMで行われたリリースパーティも同じ趣向だった。そして、暗転。突然、幕の向こうでドラムが力強く叩かれると、それにあわせて映像が変化。まるでCorneliusという生き物が覚醒して、その心臓の鼓動が動き出したようだ。幕の向こうに4人のメンバーの巨大なシルエットが浮かび上がると、いっきに観客の興奮はマックスに。そして、幕が開き、最初に演奏されたのは新作収録曲の「いつか / どこか」。ミュージックビデオをアレンジした映像をバックにバンドが演奏するなか、小山田圭吾の激しいギターソロに観客の歓声があがる。時の移ろいをテーマにした歌詞やギターサウンドなど、新作のエッセンスを凝縮したような「いつか / どこか」は、ライブの冒頭を飾るにふさわしいナンバーだ。


 ステージにはメンバーが横一列に並んでいて、左から、堀江博文(キーボード、ギター、その他)、あらきゆうこ(ドラム)、小山田圭吾(ボーカル、ギター、テルミン)、新加入した大野由美子(ベース、キーボード)というラインナップ。全員が白いシャツに黒いボトムという衣装で、ステージのビジュアルもシンプルに統一されている。バンドの演奏も装飾を排した複雑で力強い構造(アンサンブル)で、新作を中心にしながら旧作からの曲もたっぷり披露。なかでも、『Sensuous』や『POINT』の収録曲が多いが、そんななかで手榴弾のように放り込まれた「Count Five Or Six」の爆発力といったら! オリジナルより強度を増したメタリックな演奏に圧倒される。


 コンサートの後半で印象的だったのは、リリースパーティではやらなかった新作の曲「Surfing On Mind Wave pt 2」だ。音のひとつひとつが際立つ細密画のような演奏が続くなかで、この曲では音の境界が融け合って抽象画のようなサイケデリックなサウンドスケープを作り出していく。そこから、メロディアスな「夢の中へ」と繋がっていくのはアルバムと同じ流れ。そして、コンサートはクライマックスへと突き進む。Corneliusのライブの醍醐味は映像と演奏が同期することから生まれる快感だが、とりわけ「Fit Song」「Gum」と続く2曲のシンクロ率の高さは驚異的。バンドの演奏のタイミングと映像の動きがピタリとあっている。映画の世界では登場人物の動きと音楽を完全に一致させる手法を“ミッキー・マウシング”(ディズニー・アニメでよく使われる手法だったので)と呼んでいるが、“コーネリアシング”と名付けたいほどの見事なテクニックだ。そして、打ち上げ花火のようにミラーボールが鮮やかな色彩を撒き散らす「Star Fruits Surf Rider」で会場は幸福感に包み込まれる。ラストナンバーは新作のオープニング曲「あなたがいるなら」で、アルバムの特徴でもあったメロウな余韻を残して、コンサートはひとまず幕を閉じた。


 コンサートの前半7曲とラスト6曲の流れは、リリースパーティと1曲を除いて同じで、鉄壁のセットリストだったのだろう。今回はリリースパーティで披露した曲をすべて演奏しながら、さらに曲を増やした見事な構成で、MCは一切入れずにミックステープのような心地良い流れで観客を引き込んでいく。あれだけ難しい曲を一糸乱れず、それでいて(見た目は)軽やかに演奏するCorneliusの凄まじさ。トリッキーなアレンジは入れずにストイックともいえる演奏だったが、それだけにライブバンドとしての逞しさがダイレクトに伝わってきた。アンコールに応えて出てきた小山田は初めて口を開いて観客に語りかけたが、コンサート中にMCを入れていたら、あの心地良い緊張感は途切れてしまっただろう。それだけに、アンコールはアフターパーティのような開放感があって、なかでも観客との掛け合いを楽しむ「E」の雑然とした盛り上がりが微笑ましい。2008年に行われた前回のツアー『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』のスタイルを受け継ぎながら、より演出も演奏もソリッドに研ぎ澄ませた今回のコンサート。アルバムを聴く以上に世界水準のクオリティを肌で感じることができて、最高にポップでメロウな夜だった。(文=村尾泰郎)