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日本が先頭に立てる?「AIのビジネス活用」現場で直面する法的課題…柿沼弁護士語る

2017年11月03日 09:32  弁護士ドットコム

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AIを活用したビジネスが様々な分野で本格化しようとしている中、政府もAIの利活用促進に向けて、様々な課題を検討している。現状で、AIを活用したビジネスを推進しようとした場合、法的に何が課題になるのか、今後、本格的に普及した場合、どのような問題が生じる可能性があるのか。AIと法律の問題に詳しい柿沼太一弁護士に聞いた。(編集部・新志有裕)


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●「生成フェーズ」データを収集するうえでの法的ポイント

柿沼弁護士によると、AIとは「人間の知的活動の一部または全部をコンピュータで代替すること」で、情報を入力すれば、「判断モデル(学習済モデル)」が認識や予測、翻訳、推薦、コンテンツといったものを出力する。



その判断モデルを作る方法として非常にざっくりと分類すると3段階がある。まずは人間自身がアルゴリズムを作る第1段階だ。この段階では人間自身がアルゴリズムを設計するため人間の知見・経験を超えられないという限界がある。そこで機械学習を取り入れ、AI生成用プログラムが自動的に判断モデルを作る第2段階がある。もっとも機械学習の場合は特徴量自体は人間が設計する必要があったため精度向上に限界があった。そのため人間が行うしかなかった「特徴量設計」自体をコンピュータが自動的に行う「ディープラーニング」という第3段階へと進化している。



さらに、AIに関する法律問題は「生成フェーズ」と「利用フェーズ」に分けて考えるとよいという。データを収集して、機械学習やディープラーニングを通じて「学習済みモデル」を作るための「生成フェーズ」と、その学習済みモデルに対して、何らかのデータを入力して、アウトプットを生み出す「利用フェーズ」だ。



AIの法律問題というと、アウトプットされたものの権利関係(例えばAIコンテンツの著作権など)に注目が集まりがちだが、柿沼弁護士は「現在のところ『生成フェーズ』に関する相談を受けることが一番多い。特に、生成フェーズに関する問題の中でも、学習済モデルの権利帰属に関する相談、具体的には、データを提供する事業者と、データの提供を受けてモデルを生成する事業者とが異なる場合、どちらが学習済モデルに関する権利を保有するか、という点への関心が非常に高い」と話す。



相談が寄せられるのは、実際には、コンテンツ事業者に加えて、製造業や医療といった事業者もかなり多いという。「たとえば医療AIに関しては、日本には国民皆保険制度があるため、データが大量に存在し、それらを利用して精度の高いAIを生成することが考えられる。また日本はものづくり大国なので、製造業のデータもたくさんある。この2つの領域は、データがフィジカル空間(リアル空間)に存在しているため、ネット界の巨人であるGoogleやFacebookも容易に手が出せない。また、言語が関係ないという点でグローバルに展開もしやすい。現在政府も日本の強みを生かしたAIをいかに普及させていくか、という点について真剣に考え、様々なバックアップをしている」と語る。



さらに、コンテンツ系のAIを生成する際のデータを収集するうえで法的に重要なポイントとして、柿沼弁護士は、「著作権法47条の7」の存在を挙げる。これは、情報解析のために、第三者が著作権を持っているデータの記録や翻案が一定限度で可能になるというもので、営利・非営利は問わない。情報解析の名目で、原則として無許諾でデータを収集することができる(ただし、記録・翻案のみ)ため、「日本は機械学習パラダイス」(早稲田大学・上野達弘教授)と指摘する意見もある。



柿沼弁護士がよくAIの法的問題を説明するために例に挙げるものとして、「MakeGirlsMoe」(http://make.girls.moe/#/{target=_blank})というサイトがある。これは、髪の色や髪や目の色など、顔のパーツについての各種オプション情報を入力して、好みの萌えキャラを自動的に作ってくれるサービスだ。





この「MakeGirlsMoe」の判断モデルを生成する際には大量の生データが必要となるが、その際に利用されたと思われる生データが掲載されているサイトがある。生データが掲載されたサイトから、仮に無許諾でデータをダウンロードして判断モデルを生成しても法的には問題ないのか。



柿沼弁護士によると、そのような行為は著作権法47条の7によって著作権侵害にはならない、ただし、もしデータ収集先サイトとの契約(利用規約)でそのような行為が禁止されている場合に契約違反かどうかは、意見が分かれる可能性もあるということだ。



●「利用フェーズ」どんな場合にAI生成物が著作物になるのか

「生成フェーズ」の次に課題になるのが、「利用フェーズ」の問題だ。例えば、AIが自動的に作ったコンテンツ(絵、テキスト、動画など)の権利は誰にあるのか、あるいはAIが第三者の権利を侵害した場合に誰が責任を負うのか、といったテーマだ。



前者の問題、つまりAI生成物に著作権が発生する場合について、柿沼弁護士は「著作物とは、そもそも『思想又は感情を創作的に表現したもの』だ。人間の創作意図と創作的寄与があるものが著作物となる。創作意図や創作的寄与がある場合には、AI生成物といえどAIを道具として人間が創作したものといえ、AI生成物は当該人間(創作者)が権利を保有する著作物となる」と指摘する。



ただ、人間が創作に関わっているかどうかを判断するのは難しいケースもある。例えば、前述した「MakeGirlsMoe」の場合は、11種類のオプションから人間が選び、その判断に基づいて、自動的に萌えキャラが生成されることから、柿沼弁護士は、オプション選択行為という創作的な寄与があるといっていいのではないか、つまり、著作物といえるのではないかと考えている。



しかし、今後は、人間が全く指示を出さなくても、完全に自動的にコンテンツを生成するAIが登場することも考えられる。「コンテンツ業界の場合、いまの法律論では、完全自律型のAIが生成した作品の権利は誰も持っていないことになる。つまり、誰が使ってもいいという話になる。そうなると、パクリ放題なので、誰もそこに投資をしないということになりかねません」とビジネス上の課題を語る。



●クリエイターは生き残ることができるのか?

今後、本格的にAIが普及すると、「生成フェーズ」、「利用フェーズ」ともに、様々な問題が噴出する可能性がある。例えば、もし、著作物だと認められるようなAI生成物がたくさん生み出されると、著作物が未だかつてない数に激増する時代がやってくることになる。



柿沼弁護士は「激増することは間違いない。既に『MakeGirlsMoe』でも、たくさんのコンテンツが作られて、SNSで拡散している。今後様々な形で広がっていくだろう。



そうすると、自由な創作活動が制限される可能性が出てくる。つまり、自分が作ったものが、ネット上で既に流通している大量のコンテンツと似てしまい、しかも『ネット上で流通していたのだからそれに依拠したのだろう』とされ、著作権侵害だと主張される可能性が高くなる。



そうすると、コンテンツを作ってウェブ上にあげておいて、同じものが出てきたら自動で照合して警告書を送って『金をよこせ』と脅すやり方が出てくるのも、そう遠い将来の話ではないだろう」と新しい問題の発生を予想する。



クリエイターに与える影響については、「BGMのようなものは、すでに人工知能が大量に生成できるようになっているので、影響はじわじわ出ている。絵を完全に自動生成するというのはまだできていないようだが、音楽だと進んでいる。使う側からしても、契約の手間がないので使いやすい。



今後は、草間彌生さんの作品のように、作った人間と結びついているようなアートじゃないと、人は価値を見出さないのかもしれない。もっとも、その一方でAIを使いこなすクリエイターが出てくる可能性もある。AIのチューニングをしたり、それについてアドバイスしたりという仕事も脚光を浴びる可能性がある」と見通しを語る。



AIの利活用に向けた課題については、国でも議論が進められている。今後の法規制の課題について、「経産省ではAI生成の際の契約のガイドラインを検討することになっているし、著作権法47条の7を人工知能に適用するための著作権法の法改正があるかもしれない」と語る。さらに、「世界的に見ても日本ではAIに関してはトップレベルの議論が行われているように思える。特に、製造業や医療では、AIをどこまで利活用できるのかが、今後各企業や日本という国の競争力に直結することになる」と、今後の議論の進展に期待を込める。



(弁護士ドットコムニュース)




【取材協力弁護士】
柿沼 太一(かきぬま・たいち)弁護士
兵庫県弁護士会所属。IT系・技術系ベンチャー企業からの相談・依頼案件が多い。またAI企業からの相談・依頼も近時とみに増加している。事務所サイトではAI、IT、知財、ベンチャー系企業に関する記事を多数掲載。
事務所名:STORIA法律事務所
事務所URL:http://storialaw.jp/