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西島秀俊演じる夫は完璧な良い夫? 『奥様は、取り扱い注意』それぞれの夫婦の形

2017年11月03日 00:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「君の一度きりの人生において、一番大切なものは何だい?」。11月1日に放送された『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)のエピソード05「太極拳教室」。物語は、夫・啓輔(石黒賢)の何気ない一言がキッカケで、これまで溜まり続けていた不満を爆発させた優里(広末涼子)が、家出を決意することから始まる。優里に誘われた伊佐山菜美(綾瀬はるか)と京子(本田翼)もまた、夕食の支度を放り出して家を出ていってしまう。


参考:『奥様は、取り扱い注意』が描く“不倫”と“女の愛” 西島秀俊演じる夫が朗読した本の意味とは?


 しばらく経ってから、妻の家出に気づき、慌てて外に飛び出す啓輔、勇輝(西島秀俊)、渉(中尾明慶)の三人。偶然家の前で居合わせた彼らは、家出したのが自分の妻だけじゃないことを知り、「三人一緒なら、そんなに心配する必要はないかもしれませんね」とホッとする。安心している勇輝と渉に対して、「心配すべきなのは、そんなことじゃないでしょう。もめるたびに家出をされたら、たまったもんじゃありませんよ」と険しい口調で指摘する啓輔は、きつく叱った方がいいと続けた。それを聞いた勇輝は「彼女たちにも、たまには家から離れて、息をつく時間が必要なんじゃないでしょうか?」「僕たちが思ってる以上に、家事をこなすのは重労働で、自由と呼べるような時間は、少ないと思いますよ」とやんわり反論。


 優里は家出をする理由について、「これ以上家の中にいたら窒息する」と言っていた。一見、我が家は自由の場所であるように思えるが、家族もまた社会(の最小単位)なのだ。家庭とは、家族が生活を共有する場。ある意味では最も“不自由”な場所なのかもしれない。ちなみに、菜美が家を出る時に「家出します」というメモを置いた玄関には、大きな白い羽の絵画が飾ってあった。羽のデザインには、“自由”という意味もある。まるで、菜美たちが「“羽”を伸ばしてきます(抑えられた状態から解放されて、のびのびと振る舞う)」と言っていることを表現しているようだ。


 一方、菜美たちは優里が「昔、ちょっとだけ通った所」というクラブに行くことに。そこで、若い男性にナンパされる優里。「人生は一度きりだよ。後悔しないように、俺を試してみない?」と口説かれるも、「一度しかない人生だから……あんたみたいな男は願い下げ」とキッパリ断る。


 第5話では、この“一度きりの人生”という言葉が頻繁に使われていた印象だ。優里の主婦友である佳子からのメールには「人生、一度しかないぞ。笑」という文面があり、優里が啓輔に働きに出たいと再度お願いする時も、その理由について「一度しかない人生だから、悔いのないようにやってみたいの」と口にする。優里が「働きたい」と力強い瞳で真っ直ぐに訴えかけるも、啓輔は「君の一度きりの人生において、一番大切なものは何だい? 僕や啓吾(息子)じゃないのか?」という最もズルイ言葉で投げ返す。そして「君は、目をそらそうとしているだけだ。主婦として、僕と啓吾をもっとしっかり見つめてくれ」と続ける。


 だが、優里はいつだって“しっかりと見つめていた”。夫にも息子にも、必ず真っ直ぐ見つめながら話しかけていた。いつも背を向けて、目をそらそうとしているのは啓輔の方だ。息子の水泳教室の送り迎えを頼みたいと、優里が相談してきた時も、パソコンの画面から一瞬たりとも目を離さない。優里が家に戻ってきた時も、彼女が目線を向けると、瞬時に目をそらしていた。優里の真っ直ぐな瞳を見ないように、避けるように視線を外す。啓輔が彼女を見る時は、最もらしい理由をつけて、自分の意見を通す時だけなのだ。どこまでも“卑怯でずるい”。彼女の本当の願いに気づいていながらも目を瞑り続け、自分が彼女を“幸せにしてあげてる”と思い込んでいる。家という檻に閉じ込め、窒息寸前までに空気(自由)を奪う。


 勇輝は言っていた。「彼女たちが求めているのは、妻としてではなくて、人として、きちんと愛されることなんじゃないでしょうか?」と。経済的に困らせたことも浮気も、一度だってしたことないのに、不満を持つ優里が悪い。彼女が外に出たいと言うのは、僕と息子を愛していないからだ。とすべて優里のせいにして、自分の願いだけを一方的に押し付ける啓輔は、優里を妻としてしか見ていない。彼女は啓輔の妻である前に、大原優里と言う一人の人間である。彼女は夫の啓輔のためだけに、息子の啓吾のためだけに生きているわけでは決してない。


 さて、それぞれの夫婦関係と抱えているものが段々と見え始めてきた同ドラマ。だが、不思議と伊佐山家だけ見えてこない。それもそのはず、勇輝が完璧すぎるくらいに良い夫なのである。伊佐山夫婦の良好な関係性はこのまま続いていくのだろうか。(文=戸塚安友奈)