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僕は松本人志監督の大ファンなんだーー『シンクロナイズドモンスター』監督が語るアイデアの源泉

2017年11月02日 16:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 アン・ハサウェイ主演映画『シンクロナイズドモンスター』が11月3日より公開される。本作では、巨大な怪獣を操るダメウーマンのグロリアが、負け犬人生と世界の危機に立ち向かう模様が描かれる。今回リアルサウンド映画部では、メガホンを取ったナチョ・ビガロンド監督にインタビュー。独創的なアイデアが生まれた背景や、主演だけでなく製作総指揮も務めたアン・ハサウェイとの共同作業についてなどを語ってもらった。


参考:アン・ハサウェイ操る怪獣と巨大ロボットのバトル 『シンクロナイズドモンスター』予告編


ーー前作『ブラック・ハッカー』(2014)の時点で次の作品は怪獣映画になるかもしれないことをほのめかしていたそうですね。そもそも怪獣映画を撮るという構想はいつ頃からあったのでしょうか。


ナチョ・ビガロンド(以下、ビガロンド):いつ頃から怪獣映画を撮りたいと思っていたかを答えるのはなかなか難しいところなんだけど、自分は映画を作ることができるんだと思えた90年代に、今後こういうジャンルの映画を撮りたいというリストを作っていたんだ。そのリストの中には、初監督作の『TIME CRIMES タイムクライムス』に繋がっていったタイムトラベルものがあったし、今回の作品につながる怪獣映画もあったんだ。とにかくいろいろなジャンルを模索したいという気持ちがあって、実は今後作りたいと考えているゴーストハウスものやゾンビものもそのリストの中にあるんだ。ただ、まだスクリーンでどうやって表現したらいいかは決めきれていないところがあるから、ゴーストハウスものやゾンビものは先になるだろうね。怪獣映画に関してもずっと作りたいと考えていたものの、なかなかいいアイデアが浮かばなくて、数年前にようやく具体的な構想ができあがったというわけなんだ。


ーー怪獣映画といっても、一筋縄ではいかない非常にユニークな内容に仕上がりましたね。


ビガロンド:実は『シンクロナイズドモンスター』はいろいろな作品からインスピレーションを受けているんだ。ある映画を参照にしながら、まったく異なる映画を作り上げるというのは、映画作りの醍醐味だからね。本来は一緒にしたらいけないような作品をあえてぶつけてみるんだ。僕は古き良き怪獣映画が大好きだけど、コメディも大好きで、チャーリー・カウフマンからの影響なんかは避けようがない。そしてこの作品に関しては、何と言っても松本人志監督の『大日本人』が大きなリファレンスになっている。人生においての最も好きな監督と言えるほど、僕は松本人志の大ファンなんだ。彼の初監督作である『大日本人』を観た時に、この作品の種が生まれたとも言えるね。


ーー怪獣パートはもともと東京で撮影される予定だったそうですが、結果的に韓国のソウルになっていますね。韓国での撮影はどうでしたか?


ビガロンド:自分が惚れたロケーションで実際に撮影を行えるというのも、映画作りの醍醐味のひとつ。韓国に関しては、『TIME CRIMES タイムクライムス』のプロモーションで10年前にプチョンを訪れたんだけど、今回の映画に出てくる通りを歩いて、ぜひここで映画を撮ってみたいと思ったんだ。エキストラの人たちがモンスターから走って逃げるシーンを韓国で撮ることができたのは、この作品の一番大きな喜びだったね。東京にもラテンビート映画祭で来たことがあって、いつかこの場所で映画を撮ってみたいと思っていた場所のひとつだよ。今回は実現しなかったけど、いつかは東京で映画を撮りたいね。


ーーアン・ハサウェイ演じるグロリアが使っているラップトップに、葛飾北斎の「富嶽三十六景」のステッカーが貼ってあったのが気になったのですが、ここに監督からの日本へのオマージュが表現されていたりするのでしょうか。


ビガロンド:実はブランドのロゴが映ってしまうのを隠さなければいけなくて、ステッカーを貼ったわけなんだ(笑)。富嶽三十六景のステッカーは、美術部が5つぐらい提案してきてくれたうちのひとつで、僕自身が意図的に何かを狙ったわけではない。でも、直感自体がある種のステートメントだから、その場の直感で日本のアーティストの美しい絵を選んだのにも何か意味が含まれているだろうね。東と西、ふたつの文化の美的感覚がぶつかりあっているとも考えられるね。


ーーアン・ハサウェイが演じたグロリアは彼女がこれまで演じてきたようなキャラクターとは異なり、“ダメ人間”として描かれているのが印象的でした。彼女は今回、主演だけでなく製作総指揮も務めていますが、どのような経緯で本作に関わることになったのでしょうか。


ビガロンド:僕はビッグネームの映画作家ではないから、こういった企画を立ち上げても主演にアンを迎えることができるなんて夢にも思っていなかった。実際この作品も、僕がこれまで手がけてきたような、もう少し小さな規模の作品を想定していたんだけど、エージェントのおかげでアンの元に脚本が渡ることになったんだ。たまたま僕が家にいた時に、アンのエージェントからこの脚本を彼女に読ませてもいいかという電話がきたんだ。僕からしたら「もちろん! 読んでもらえるだけでも光栄だよ」という感じだったんだけど、その時点では「彼女に演じてもらえることができるかもしれない」と思うことすらしないほうがいいと思っていた。だからその後、彼女自身がやりたいと言ってくれた時は本当に驚いたし、こんなに運がよくていいのだろうかという感じだったね。本当におとぎ話のようだったよ。


ーー彼女とのコラボレーションはどうでしたか?


ビガロンド:彼女が関わってくれたことによって、すべてがやりやすくなったね。アンは、グロリアのモチベーションや細かいニュアンス、ユーモアやドラマ性などを瞬時に理解してくれた。実はグロリアのキャラクターは僕自身がもとになっているんだけど、アンと僕がすぐに繋がって、共感し合うことができたのが大きかったね。ある意味、アンと僕は似ているのかもしれない(笑)。だから現場ではまるでクラスメイトと一緒に映画を作っているような感覚だったよ。(取材・文=宮川翔)