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座間9遺体事件、SNSで自殺募集「現実の人間関係よりもネットが頼りになっている」

2017年11月02日 10:23  弁護士ドットコム

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神奈川県座間市のアパートの一室で、男女9人の遺体が見つかった事件。行方不明になった東京都八王子市の女性のツイッターには「一緒に死んでくれる人を探している」などの書き込みがあったという。ツイッターでは、「自殺仲間」「自殺募集」「自殺オフ」などのキーワードを検索すると、同じような内容の投稿がいくつも見つかる状況だ。


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死体遺棄の罪で逮捕された白石隆浩容疑者は、ツイッターを通じて、女性と接触していたとみられている。「自殺願望がある人がネットで簡単に出会える」などと報じられているが、はたして、問題の本質はどこにあるのだろうか。自殺問題にくわしいフリーライターの渋井哲也さんに聞いた。(弁護士ドットコムニュース・山下真史)


●「ネットの中に話を聞いてくれる人がいる」

――そもそもツイッターは問題だったのか?


まったく関係ありません。むしろ、一番の驚きは、「ツイッターで自殺に関して書き込んでいる人がこんなにいるんだ」と騒いでいるメディアです。こんなことを知らずにSNSの取材をしていたのか、と思います。大きな話題になりましたけれど、そういう書き込みをしている人はこれまでも相当数いました。


――書き込む人たちは、何を求めているのか?


彼・彼女たちは気持ちが揺れ動いています。実際に「死にたい」と書いたとしても、数分後にはそう思っていないことも多い。一緒に死んでくれる相手を探す人、本当は死にたくない人、その自殺を止めたい人たち・・・近くに住んでいると実際に出会うことも多い。


――男女どちらが書き込むことが多いのか?


私が取材したかぎりでは、女性です。今回の被害者にも女性が多いと報じられています。一般的に、男性は自分の弱みを他者に見せたがらず、どちらかというと、議論を好む傾向にあります。議論は、排他的コミュニケーションになりやすい。一方で、女性は他者に共感を求める「共感性コミュニケーション」をとります。


――誰かとコミュニケーションをとりたいから書き込んでいる?


「死にたい自分をどうにかしてほしい」ということですね。一緒に死んでほしいということもあるし、あるいは改善に向かうように助けてほしいということもある。両方いますし、1人の個人の中にも両方の感情がある場合があります。


――なぜネットに頼るのか?


ネットの中に、彼・彼女たちの言葉を聞いてくれる人がいるからです。一方で、現実の人間関係の人たちは、自殺の話題を避けたり、遠ざけたり、ネガティブに受け止めて、「そんな話をするんじゃない」という態度をとったりします。


また、実際につながっているカウンセラーや精神科医、相談機関が、当事者にとって有効な解決を示していない場合、ネットに頼ってしまう。簡単にいえば、現実よりもネットのほうが頼りになっているのです。だから、今回の事件でいえば、「容疑者が悪い」というよりは、亡くなった人の話を現実に聞いていた人はどれくらいいるのか、ということに注目したほうがいいと思います。


●「自殺のことを考えている人が孤立しない報道を」

――今回のような書き込みに対策はとられている?


ツイッターを含めて、対策はとられていないわけではありません。たとえば、警察は、本当に自殺のリスクの高い人がいたら通報するよう呼びかけています。また、緊急性の高い書き込みについては、介入できるような仕組みもあります。掲示板などでは、プロバイダーや管理人の判断で、ユーザーの書き込みを削除したりしています。


――今回の事件がきっかけで規制はすすむ?


冷静に議論して、比較検討する必要があるでしょう。たとえば、ツイッターを規制しないことによって、不本意な亡くなり方をする人が増えているということになれば、規制を考えるべきでしょう。一方で、こうしたコミュニケーションがあることで、助かっている命が多いということになれば、規制はできない。また、仮にツイッターをつぶしたところで、LINEなど、別のソーシャルメディアにユーザーがうつるだけです。結局はイタチごっこで終わってしまうと思います。


――今回の事件は未然に防げたのか?


「どの段階で」というのがポイントです。そもそも行方不明になった女性が、ツイッターで投稿しないようにできたのか。現実の彼女を取り巻くサポート体制を検証する必要があります。また、ツイッターに投稿してからすぐに出会っているわけではないようなので、どの程度の監視なら防ぐことができたのかも検証する必要があります。


――「願望」が報道などで可視化されることによって、自殺が誘発されるのではないか?


その情報に接したからといって自殺するのではなく、ストレスや人間関係の不安定さがある中で、ヒントになるということはあります。たとえば、アダルトビデオを見たからといって、性犯罪をするわけではないでしょう? ストレスが溜まったり、人生の大きな不幸があって落ち込んでいるときに、アダルトビデオが性犯罪につながることがあるかもしれない。単に、報道をなくせばいいという単純なロジックではありません。


――報道の仕方に問題点は?


報道の仕方によっては、自殺したい人たちを余計に孤立させる可能性はあります。たとえば、「こんなことをSNSに書いてるの!?びっくり!!」という報道ばかりやっていると、当事者は孤立してしまう。少なくとも、こうした書き込みはこれまでも自然におこなわれてきたし、SNSはネットユーザーとの親和性が高い、という流れを押さえて報道すべきでしょうね。


(弁護士ドットコムニュース)