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松坂桃李、お茶の間とスクリーンを制す! 『わろてんか』から『かの鳥』まで驚異の振り幅

2017年11月01日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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  始まったばかりのNHK連続テレビ小説『わろてんか』で、ヒロインの相手役を茶目っ気たっぷりに演じ、毎朝お茶の間に「笑い」を届けている松坂桃李。ところがスクリーン上では、立て続けに「闇」のある姿で佇んでいるのがとても印象強い。松坂は、連続して公開されている、沼田まほかる原作映画『ユリゴコロ』と『彼女がその名を知らない鳥たち』でいずれも二面性のある重要なポジションのキャラクターを演じ上げ、“映画俳優”としての力量を見せているのだ。


(参考:松坂桃李 画像


『侍戦隊シンケンジャー』(2009ー2010)で主演デビューした彼は、そのまま一気に人気若手“イケメン俳優”の仲間入りを果たした。健康的な肌にハツラツとした声、憂いを帯びた目。モデル出身でもあるそのルックスを活かし、話題作に次々と出演。戦隊モノ以降さっそく大役をつかんだ『銀河英雄伝説』の舞台シリーズ『第一章 銀河帝国編』(2011)では、こぞって出演するイケメン俳優らの先陣切って主演のひとり、ラインハルトを演じて話題をさらった。茶髪に金髪、特撮スーツに学生服と、いろんなスタイルがはまる松坂だが、外見上のことだけではない。似た役回りばかりでなく、豊富な演技のバリエーションも魅力のひとつだ。『エイプリルフールズ』(2015)で虚言癖のセックス依存症の天才外科医という怪役に挑んだかと思えば、『日本のいちばん長い日』(2015)ではベテラン俳優陣に囲まれて純真な陸軍少佐を演じ、『パディントン』(2016)ではクマの声の吹き替えまでやってのける頼もしさ。ここ最近は脇にまわる形で出演作を増やし、“映画俳優”としてのキャリアを着実に積み上げている。『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)で演じたヒッチハイカーの青年・向井拓海は、表向きは好青年だが、どこか陰のあるキャラクター。パワフルな母ちゃん・幸野双葉(宮沢りえ)に心の内を見透かされ、感情を吐露する場面への、自然な演技の落差が印象的だった。


 このたび先に封切られた『ユリゴコロ』で演じる亮介というキャラクターは、男手ひとつで育ててくれた父の病と、婚約者の失踪という重なる失意の中、実家で「ユリゴコロ」と題された殺人者の告白文を見つけてしまい、その真相に迫っていくというものだ。そこに記されている恐るべき真実と、自分との関係性に少しずつ気づいていく彼の葛藤を、松坂は露骨な感情表現で示した。とりわけ彼が表向きに見せる笑顔と、「ユリゴコロ」を前にした、歩き方や目つきの変化は見事だった。原作には登場しない車のアクセルを勢いよく踏みしめるシーンでの、彼の憂いを帯びた目が、いつもより強調されていることを特筆したい。


 いっぽう『彼女がその名を知らない鳥たち』で演じる水島というキャラクターは、表向きは家庭のある常識人だが、自身の欲望のためには平気で嘘をつく男。バックグラウンドが見えない分、『ユリゴコロ』の亮介とは対照的な、感情の見えにくい人物でもある。ここでの松坂は、表情や言葉の中に、複数の意味は含ませず、微笑みは微笑みのまま、甘い言葉は甘い言葉のまま、といった表層的なアプローチに徹しているのだ。陣治(阿部サダヲ)や十和子(蒼井優)によって、「裏」の顔が観客にも見えてくるのであるが、水島自身としては徹底して「表」の面しか見せていない。彼の甘い言葉に心底ウットリなるも、「裏」の顔がのぞいたときに「ああ、やっぱり」と感じざるを得ない、この余白のある演技に、まんまとやられてしまうのだ。


 たしかに“イケメン俳優”の枠からスタートした松坂だが、いよいよその領域にとどまる存在ではないことを証明した。年明けには早速、『不能犯』『娼年』と主演作が続くが、ますます日本映画界に欠かすことのできない存在となっていくはずだろう。


(折田侑駿)