トップへ

UVERworld、10年連続の武道館公演に見た“ミクスチャーロックバンドとしての強靭さ”

2017年10月31日 11:42  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

「何もない、空っぽなUVERworldを愛してくれって言ってるわけじゃないんだよ。もし、俺たちの歌が何も響かなくなったら。そのときは正しく離れていってください」


 UVERworldが10月4日に日本武道館で行なったライブツアー『IDEAL REALITY TOUR』の最終公演は、最新作『TYCOON』を経たバンドの充実、音楽との情熱的かつシリアスな向き合い方を見せつけられたライブだった。


(参考:UVERworldはなぜ高水準の映像を生み出し続けるのか? 本気の“挑戦”と“遊び心”に迫る


 「大物・実力者」という意味合いが込められたアルバム『TYCOON』は、まさにその言葉を表すような作品。「赦し」や「それでも前に進む決意」など、どこか余裕や堂々とした態度を感じさせる言葉が並びつつ、音楽的にもさらに複雑なアンサンブルやサウンド構成へ果敢に挑戦するなど、UVERworldが持つ王者の風格をぐっと濃縮したアルバムだった。


 ライブはそんなアルバムの冒頭を飾る、The Prodigyのようなビックビートのダンストラック「TYCOON」で幕を開けると、真太郎(Dr)のドラムと彰(Gt)のギターを皮切りに、メンバーがポップアップで登場。ビートの勢いはそのまま、TAKUYA∞(Vo)がエフェクト付きのマイクとノーマルを使い分ける二刀流で、最新シングル曲「DECIDED」を歌い上げる。真太郎の激しいドラムソロと誠果(Sax)のサックスソロから幕を開ける「CORE PRIDE」、信人(Ba)がパーカッションを叩き、ブルージーなメロディとサッカースタジアムのような盛り上がりが同居した「WE ARE GO」、<好きなようにやれ そして俺に指図をするな>というリリックも刺さる四つ打ちのダンスロック「Don’t think.Feel」では、TAKUYA∞が客席に靴を蹴り飛ばすというサービスも。


 MCでは「俺の“情熱”が靴という形で飛んでった」と茶目っ気たっぷりに話し、観客から靴が2つとも返ってくると驚きの表情を浮かべる。実はTAKUYA∞、このツアーで靴が4足返ってこなかったそうで、そんな話を「全部俺のせいです!」と笑い飛ばしながら、<あれは僕のせいにしな>という歌詞も入った「一滴の影響」、ツアーのタイトルソング「IDEAL REALITY」へとスムーズに入っていくのは、さすがライブ巧者といったところか。武道館も10年連続となると、挑戦者というよりもチャンピオンの風格がそこには見えるし、緩急の付け方もホームグラウンドのように伸び伸びとしている。


 「誰が言った」から真太郎、TAKUYA∞、誠果のツアーにまつわるMCを挟み、『TYCOON』からセンチメンタルな一面を覗かせる「シリウス」、ビッグルームハウス的なサウンドも取り入れた最新系のミクスチャーロック「奏全域」、アーバンなギターカッティングが艶やかな雰囲気を醸し出す「エミュー」と、『TYCOON』から色とりどりの楽曲をパフォーマンス。そんな振り幅を見せたあとに演奏されるライブ定番曲「PRAYING RUN」は、いっそうストレートに力強く胸を打つ。せり出したステージにもドラムセットが設置され、より近くで音を届けていたことも、その一因だろうか。


「喜びを感じることは、本当の意味では誰にも奪えない」


 そんなTAKUYA∞の言葉から、克哉(Gt)と彰がアコースティックギターをかき鳴らし、メロウな雰囲気を纏いながら静かに、しかし情熱的に歌い上げる「ALL ALONE」を終えると、TAKUYA∞はこの日の観客に語りかける。


 「武道館のライブは10年連続でやってるんだけど、最初のうちは99%が女の子だった。それはすごい嬉しいことなんだよ。だって、女の子は美味しいものとかカッコいいものを見つけるのが早いじゃん。でもさ、男は遅えんだよ。だから集まってくれる1万人の女の子のほかに、入れない1万人の男のために『男祭り』をやったんだけど、それが今年はさいたまスーパーアリーナで2万3千人。こんなことUVERworldにしかできないらしいよ?」と集まった男女のファンに誇らしげに話し、続けて「もう“女の子のファンの多いバンド”と思われたり、わざわざ男を探す必要もない。これからは年齢も性別も国籍も関係なく、みんなでちゃんと歌っていい。だから(『男祭り』に)集まってくれた男どもに感謝してる。ありがとう。そして、それにたどり着くまで応援してくれた女の子。その感謝を伝えるためにどんな言葉がいいかなって考えたら、すげースウィートな甘いラブソングができた」と前置きし、ソウルミュージック的な響きや歌い方も新鮮で、『TYCOON』のなかでもとびきりの甘さを含んだ「SHOUT LOVE」を熱唱した。


 ライブ後半は、その甘い雰囲気を引き継ぎつつ、シリアスに死生観を歌い上げた「ほんの少し」、楽器隊による激しいセッションが繰り広げられたインスト曲「Massive」、トランシーなダンストラックとバンドのグルーヴが高揚感を生む「I LOVE THE WORLD」と観客を目まぐるしく熱狂の渦に巻き込む。そこからTAKUYA∞が「俺たちも武道館でいくつものアーティストを見てきて、眩いステージ立つアーティストに憧れてきた。今日は俺たちが『輝いてる。あんな自由な生き方がしてえ』って感じさせなきゃいけない」と自戒し、「もし今日、ほんの少しでもそう思ったら、次の瞬間にこれを思い出せ。『俺たちは昔、あなた方と同じ場所にいた』」と「Q.E.D.」でその輝きを“証明”してみせた。


 続けてTAKUYA∞が「このツアーで一番の熱い瞬間を俺たちで迎えようぜ!」と呼びかけ、ファンが熱狂的なシンガロングで応えた「IMPACT」を終え、「俺たちは、行けるところまで行こうじゃなくて、行きたいところまで行ってやる!」と不退転の決意表明から放たれた「RANGE」、最後に「7日目の決意」で公演を締めくくった。


 ライブを終えて改めて感じたのは、2014年から正式に6人体制となり、音楽的挑戦をさらに深化させたUVERworldが持つ、ミクスチャーロックとしての完成度の高さ。最新のダンスミュージックを貪欲に取り入れたうえで、同期もなるべく少なく、可能な限り6人だけでその音を表現しようとパフォーマンスしていた。各プレイヤーもJ-POPシーンにおいては屈指の演奏力を誇り、ナチュラルにハイレベルなプレイを次々と繰り広げてみせる。そこに青年漫画の主人公のような、どこかアウトローだけど優しくて、これまでの常識を覆してくれそうな、フロントマン・TAKUYA∞のカリスマ性と尖ったリリック、そしてMCでも触れていた「ここまでの年月で手にした声」が重なり、唯一無二のバンドへと到達した。


 この先はしばらく制作期間に入ったのち、また始動するという彼ら。ある種のマスターピースともいえる『TYCOON』を作り上げ、よりエッジーかつポップに大きくなったバンドは、この先どこへ向かうのだろうか。(中村拓海)