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米津玄師、MWAM、SWAY、delofamilia、チャランポ……洋楽シーンともリンクした新作

2017年10月31日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 “内向き”“ガラパゴス”と評されることも多い日本の音楽シーンだが、その中には海外のポップマーケットとナチュラルに同期している作品も少しずつ増えている。そこで今回は、国内のリスナーに強く訴求しつつ、同時代の洋楽ともリンクした新作を紹介したいと思う。


(関連:米津玄師が語る、音楽における“型”と”自由”の関係「自分は偽物、それが一番美しいと思ってる」


 「orion」(TVアニメ『3月のライオン』(NHK総合)第2クールエンディングテーマ)、「ピースサイン」(TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』(日本テレビ系)オープニングテーマ)、DAOKOとのコラボ曲「打上花火」(映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』主題歌)……前作『Bremen』(2015年10月)以降、映像作品のタイアップ楽曲やコラボレーションに取り組んできた米津玄師。その結果、彼の音楽は外部に向けて大きく解放されることになった。そのことを端的に示しているのが今作『BOOTLEG』の「灰色と青(+菅田将輝)」。フォーク、ギターロック、エレクトロニカが共存するトラックのなかで<どれだけ背丈が変わろうとも/変わらない何かがありますように>というラインを提示するこの曲からは、音楽の力でジャンル、時代、年齢を超えようとしている米津の姿勢が伝わってくる。海外のヒップホップ、EDM、ネオソウルを取り込みながら、J-POPを次のフェーズに押し上げるようなサウンドメイクも印象的。本作は2017年の日本のシーンを象徴する1枚であると同時に、世界のポップマーケットで十分に戦えるクオリティを備えていると断言したい。


 2017年9月から10月にかけて北米ツアーを行い、現在はさいたまスーパーアリーナ公演を含む国内ツアーを開催中。海外と日本の区別なく、当たり前のように世界中でツアーを続けているMAN WITH A MISSION(以下:マンウィズ)のニューシングル『My Hero/Find You』は初の両A面。「My Hero」のスタートは勇壮なオーケストラサウンド。直後にアグレッシブ&ラウドなサウンドが鳴り響き、クラシックとヘビィロックが刺激的に絡み合う。ワールドワイドな活動を続けるマンウィズの音楽がさらにスケールアップしていることを告げる楽曲と言えるだろう。一方の「Find You」は骨太のバンドグルーヴを軸にしたミディアムチューン。歌詞はすべて日本で、特に<世界が消えても/また見つけに行くから>というフレーズには強く心を揺さぶられる。シンプルで率直な言葉に普遍性を持たせることができるのも、現在のマンウィズの凄さだと思う。


 DOBERMAN INFINITYのMCとして存在感を示してきたSWAYがヒップホップ・アーティストとしてメジャーデビュー。名門レーベル<Def Jam Recordings>からのリリースとなる『MANZANA』表題曲は、トラップとEDMを融合させたトラック、ラテンフレーバーを感じさせるフロウ、<未来に手を伸ばそうよ><甘い夢をもう一口かじってみようよ>という快楽と背徳が混ざり合うリリックがひとつになったハイブリッドなヒップホップナンバーに仕上がっている。収録曲は全4曲。制作はDarren “Baby Dee Beats” Smith、SUNNY BOY、SALU、SHOKICHIなどが手かげ、SWAYは「Acting Myself」のリリックに参加。セルフプロデュースにこだわることなく、身近な仲間にプロダクションを任せることで、自分自身のポテンシャルを引き上げようとする戦略も興味深い。


 2007年にNAOTO(ORANGE RANGE)のソロプロジェクトとしてスタート。2ndアルバム『eddy』(2009年)のゲストボーカル・Rie fuが参加したことで、3rdアルバム『Spaces in Queue』(2011年)からNAOTO、Rie fuのユニットに変化したdelofamilia。約3年ぶり、通算6作目となる本作『filament / fuse』は、エレクトロニカ、シューゲイザー、ミニマルテクノなどを通過した穏やかで奥深いサウンドメイクとしっかりと抑制が効いたシックなメロディを軸にした、原点回帰と呼ぶべきアルバムとなった。ORANGE RANGEのメインコンポーザーとしてのNAOTO、ポップアーティストとしてのRie fuとはまったく違う表情を感じることができるが、おそらく二人の“素”に近いのはこちらのほう。delofamiliaは二人にとって、リラックスして好きな音楽を表現できる場所なのだろう。


 アコーディオンの小春がMr.Childrenの25周年ドーム&スタジアムツアーに参加、ボーカルのももは女優としてもキャリアを積む一方、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のオープニング曲「進め、たまに逃げても」を担当するなど、それぞれがさまざまなジャンルで経験を重ねたうえで届けられたチャラン・ポ・ランタンのニューアルバム『ミラージュ・コラージュ』には、“歌とアコーディオン”というミニマムな構成だからこそ実現した、ジャンルや年代を超えた音楽世界が広がっている。ジャズ、シャンソン、ラテン、歌謡曲などのルーツミュージックを自然に取り込んだサウンドメイクの中で現代を生きる人々の掴めそうで掴めない夢を描いた本作。そこには懐かしさと普遍性がしっかりと息づいているのだ。(森朋之)