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尾上松也が語る、歌舞伎俳優とアニメ声優の共通点 「アフレコは歌舞伎のセリフ回しとどこか似ている」

2017年10月30日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 10月28日より、アニメーション『映画キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと!想い出のミルフィーユ!』が公開されている。2004年2月にテレビ放送が開始された『プリキュア』シリーズ。本作は、シリーズ通算14作品目にして12代目のプリキュアとなる『キラキラ☆プリキュアアラモード』の劇場版最新作だ。想いのつまったスイーツを守るため、スイーツ大好きな主人公・宇佐美いちかたちが、伝説のパティシエ・プリキュアとなって戦う模様を描く。


参考:シエルが‘’顎クイ’’されるシーンも 劇場版最新作『キラキラ☆プリキュアアラモード』予告編


 リアルサウンド映画部では、キラ星シエルの師匠であり、劇場版の重要なキャラクターとなるジャン=ピエール・ジルベルスタインの声優・尾上松也にインタビュー。本作への想いや、撮影秘話、歌舞伎とアフレコの共通点など、じっくりと語ってもらった。


■「大人も楽しめる要素がふんだんに含まれている」


ーー『プリキュア』シリーズは、2004年から10年以上続いてる人気アニメです。松也さん自身は『プリキュア』に対してどういうイメージを持っていましたか?


尾上松也(以下、松也):おそらく、僕らよりもだいぶ下の方たちが『プリキュア』世代ど真ん中だと思うんです。なので、僕自身は『プリキュア』という存在は知っていましたが、「次世代のお子さんたちが観ている人気が高いアニメ」という印象でしたね(笑)。ですが、『プリキュア』を観ていない方たちの多くもまた、『プリキュア』というアニメーションがあること自体は認知していると思います。それはすごいことですよね。


ーー松也さん自身は幼少の頃どんなアニメを観ていたのですか?


松也:『幽遊白書』はよく観ていました。それから僕らの世代で言うと、『まじかる タルるートくん』、『みどりのマキバオー』、『スラムダンク』、『蒼き伝説 シュート!』、『おぼっちゃまくん』、今でもやってますが『ドラゴンボール』などが流行っていましたね。女の子たちは『ママレード・ボーイ』や『姫ちゃんのリボン』に夢中になっていた記憶があります。


ーー松也さんが実際に観ていたアニメと『プリキュア』の違いは何だと思いますか?


松也:そうですね……、『プリキュア』はシーズンによって毎回テーマが変わるということが一番の魅力だと思います。『プリキュアアラモード』に関しては、スイーツが題材になっているということ自体が新鮮でしたね。こんなにもスイーツに特化したアニメーションは他ににあまりないと思います。その上、ただスイーツをやるだけじゃなく、ベースにある、ヒーローというか戦隊モノ的な要素との組み合わせ方が絶妙なんです。これは『プリキュアアラモード』でしかできないことだろうなと思います。大人も楽しめる要素がふんだんに含まれているなとも感じました。


ーーどこに大人も楽しめる要素を感じましたか?


松也:もちろん、ビジュアルやお話の内容はお子さんが観ることを前提に作られているので、とてもわかりやすいのですが、その裏にしっかりとしたメッセージ性がある印象を受けました。仲間の大切さや諦めない心の強さなども描かれているので、『プリキュア』を通して大人でも何かを感じたり、自分と照らし合わせて振り返ったりできる気がします。僕自身は観ていてそれを強く感じましたね。


ーー松也さんが演じているジャン=ピエールは、今作のカギを握る重要なキャラクターです。印象に残っているシーンやセリフは?


松也:ジャン=ピエールは普段クールなのですが、美味しいスイーツに出会ったり、作り上げたりした時にテンションが上がって、「トレビアーン!」とすぐ言ってしまうんですよ。そこが気持ち悪くて好きですね。一気にキャラが変わってしまうので、そのギャップが魅力的です。普段はカッコいいのに、ふとした時にめちゃくちゃカッコ悪くなってしまうところが可愛いんですよ。大家さんにすごくビビってるところも。それから、職人肌ですよね。自分の評価のためやお金儲けのためには、スイーツを作らない。そこがすごくカッコよくて憧れる部分でもあります。一番好きなのはカラスを避けながらスイーツを作るシーンですね。ここは一つの見せ場です。


ーーカラスを避けながら?


松也:はい。家に穴が空いてしまって、そこから大量のカラスが入ってくるというシーンがあるのですが、ジャン=ピエールはシエルたちの前でそのカラスたちを避けながらスイーツを作るんです。その動きが見事なのと同時にツッコミどころも満載です。


ーーそんなジャン=ピエールを演じる上で意識したことを教えてください。


松也:普段の彼が持つ、スイーツに対しての真摯な姿勢や生き方があってこそのギャップだと思いますので、その辺りのベースをしっかり築くことを意識しました。基本スタイルがブレないからこそ、ギャップがより活きてくるのかなと思います。あとは声を聞いただけで、ジャン=ピエールがどういうキャラクターなのか、ある程度想像できるようにはしたいなと思っていました。しっかりキャラクターが立つよう心がけていました。


■「声優も歌舞伎も基本的にはオーバーリアクション」


ーー声だけで表現することに苦労はありましたか?


松也:映画やドラマのお芝居は、全身の動作や声で表現しますが、アフレコは声だけという限られた中で伝えなければならないので大変でした。今回声優をやらせていただいて気づいたことは、自分の中で大きめにイメージを膨らませておかないと、表現するのが難しいということです。特にアニメーションは僕らが普段演じているお芝居よりも、一つひとつの動作やリアクションがオーバーになっています。ですので、セリフを大袈裟かつ様々なバリエーションで表現することを強く意識しました。ただ、僕が普段出演している歌舞伎というジャンルのお芝居もまた基本的にはオーバーリアクションなんですよ。そういう点では僕はやりやすかったと言いますか、とてもやりがいを感じました。


ーージャン=ピエールに関して、どういうイメージを膨らませましたか?


松也:歌舞伎もアニメーションも映画もドラマも、根本的にはイメージの作り方は一緒で、まず僕は演じる役の性根をある程度自分なりに考えておきます。ジャンルによって、自分が作ったイメージを、どのくらい出して、どう表現するかという違いだけかなと思います。『プリキュアアラモード』に関しては、自分の中の大まかなイメージを、現場で再構築していく感じでした。どの現場でも同じですが、やはり監督が思い描いているものが最も重要ですので、自分の中だけでキャラクター像を完結することはできません。ジャン=ピエールをどう表現するかは、監督と話し合って一緒に考えていきました。また、現場で実際のアニメーションの動きを見ることにより、当初イメージしていたものとは変わってくる部分もあったので、イメージ自体は大きめに膨らませておいたのですが、かっちり型にはめ込むようなことはしなかったです。


ーー先ほど、声優と歌舞伎の表現は似ていると言っていましたが、ほかに歌舞伎で学んだことをアフレコに生かしたことはありますか?


松也:たとえば、ドラマや映画だと自然な演技が求められますが、歌舞伎の場合はセリフに抑揚をつける必要があります。歌舞伎では、自分が何を伝えたいかということをハッキリと浮き彫りにしていく技術があって、それを先輩方から教えていただいてきました。その抑揚のつけ方や技術、意識というのはアニメーションのセリフの中でも活かせた気がしますね。


ーー逆に、歌舞伎、映画やドラマ、アニメーションを演じる上で、違いは感じましたか?


松也:僕は、あまり大きな差はないと感じました。お芝居をする時の標準をどこに合わせるのかという違いだけだと思います。たとえば、ジャン=ピエール役で歌舞伎に出た時の演じ方と、ドラマでのジャン=ピエール役、ジャン=ピエールというキャラクターに声を吹き込むのでは、確実に表現の仕方が変わってきます。ただ声優で言うのであれば、声だけで感情の機微や全身の動きが、なるべく明確に見えるようにすることを意識しました。同じことをドラマでしてしまったら、多分とても臭い芝居になってしまうんじゃないかなと思います。


ーー松也さんの中では、アフレコはドラマや映画よりも歌舞伎に近いイメージなんですね。


松也:そうですね。アフレコは歌舞伎のセリフ回しと、どこか似ている部分があります。


ーー『プリキュアアラモード』の台本は状況や設定などが細かく書いてあって、ドラマや映画のものとは少し異なる印象を受けました。台本という点では、歌舞伎との違いはありますか?


松也:ほとんど同じですよ。歌舞伎にもセリフの間に、“ト書き”があります。ここはどういう状況や格好で、どちら側から出てくるなどという細かい設定が記してあるんです。あえて違うところをあげるとしたら、アニメーションの台本には上の方にセリフの秒数が書いてあります。これは歌舞伎やドラマ、映画の台本には書いていないので、アニメーション特有のものです。


ーーアフレコは元々ある映像と喋る長さを合わせなきゃいけないため、時間はとても重要ですよね。


松也:そうですね。アフレコをする際にはどのタイミングで言うのか、上に書いてある秒数で判断することもあります。今回の場合は多少時間を越えてしまっても、調整していただくことが出来ました。ほかの吹き替えの現場では、時間通りぴったりに合わせないといけないことがほとんどだと思うので、台本に書いてある秒数はキモの部分ですね。これは歌舞伎やドラマなどのお芝居ではあまり経験したことがなかったので、最初は焦りましたね。中には、この秒数だと合わないと思う部分もあるんですよ。その限られた時間の中で、感情を込めないとならないので、試行錯誤しながら何回もやらないと合わせられないセリフもありました。


■「一俳優として絶対に無駄にならない」


ーー声優を経験して学んだことは?


松也:吹き込んだものを改めて聞いた時に、イメージ通りにできていない部分やもっとイメージに近い声の出し方があったのではと思うシーンがいくつかありました。普段は動きも含めて一つのものを表現しているので、声だけですとイメージとお芝居に差が生じることがあるんですよね。それは歌舞伎やドラマ、映画、舞台などでも、自分ではこんな風に演じていたつもりが、声だけ切り取ってみたらイメージとはズレていたなんてことや、本当はもっと適切な表現方法があったなんてこともあるかもしれないので、とても勉強になりました。


ーー今回の『プリキュアアラモード』もそうですが、松也さんは歌舞伎以外にも様々なことに挑戦していますよね。


松也:もちろん歌舞伎を中心にお仕事をさせていただいていますが、それ以外の方面でチャンスをいただいた時、これまで培ってきたものがどれだけ活かせるのかということに、とても興味があります。色々な経験をさせていただくことは、一俳優として絶対に無駄にならないと思っています。そこでしか学べないことを吸収して、役者としての幅を広げていけたらなと思います。僕が今様々なことに挑戦させていただけるのは、歌舞伎俳優として育てていただいたからこそです。歌舞伎にはとても感謝しているので、歌舞伎以外のところでも、自分という存在を少しでも多くの方に知っていただきたいです。たとえば、『プリキュアアラモード』を観たお子さんや親御さん方が、「ジャン・ピエールやってる人は歌舞伎俳優なんだって。今度、歌舞伎も観に行ってみようか!」という風に歌舞伎にも親しんいただけたら、とても嬉しいですね。


(取材・文=戸塚安友奈、写真=板橋淳一)