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なぜ勉強をしなければいけないのかーー櫻井翔主演『先に生まれただけの僕』が模索した答え

2017年10月29日 15:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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「なぜ勉強をしなければいけないのか」。誰もが学生の頃に一度は感じたことのある疑問を、はたして直接大人に向けたところで、求める答えが出てくるとは限らない。数学教師の及川(木下ほうか)を辞職させた責任を感じた鳴海(櫻井翔)は、校長という立場でありながらも、自ら教壇に立つことを宣言する。


 10月28日に放送された日本テレビ系土曜ドラマ『先に生まれただけの僕』は、新たな教え方によって浮き彫りになった、「なぜ勉強をしなければならないのか」という問題への答えを見出すための、ある意味では“模索”のエピソードであったように思える。どうやって授業を進めるかに悩んだ鳴海は、たまたま本屋で見つけた“アクティブ・ラーニング”を実践しようとして、大失敗に陥り、挙句に生徒から投げかけられた疑問にも答えることができず、他の教師との亀裂が深まっていく。


(参考:櫻井翔のコメディセンスは想像を超えていたーー『先に生まれただけの僕』制作陣インタビュー


 この“アクティブ・ラーニング”とは、従来の学校教育の基本的な形である、教師が生徒に教えるというメソッドを崩して、生徒を主体に、それぞれが対話をしながら学びを深めていくという作業である。たしかに、授業の進度は速くなりようがないので、受験を前提とした教育には不向きではあるが、ひとつひとつの問題に対する姿勢が変わる。


「みんなの先生はみんなの中にいます」と鳴海が言うように、誰かに教えるという行為は、非常に理解度を高めてくれるのである。余談ではあるが、筆者の中高時代の英会話の授業や、地理の演習授業はまさにこのような感じで、それによって、「なぜ勉強をしなければならないのか」という疑問をあまり抱くことはなかった。与えられるだけの授業では、どう活かしていいのかわからないようなことも、与える立場に少しでも入るだけで、多面的に、かつ現実的なものに置き換えて向き合うことができるようになる。


 閑話休題、劇中では海外の大学で“アクティブ・ラーニング”に繋がる研究をしたという島津(瀬戸康史)の登場により、実践的に成功例を見せつけられ、かつ生徒の投げかけた疑問への理想的な回答を目の当たりにする鳴海。鳴海がこれまで目指していた、生徒を子供として扱うことなく現実を正直に教えることをやってのける島津の姿に、鳴海は生徒の疑問の答えを「正しい判断をする力を養う」ものだと見出すのだ。


 もっとも、その島津の授業と鳴海の授業の大きな違いについて明確に提示されない点や、鳴海が数学の教員免許を持っていたこと、保健室の綾野(井川遥)が学校のOGであること、そして体育館に掲げられた校歌など、設定のディテールの出し方や描き方がまだ少々散らかっているという印象を受けないでもない。


 それでも、鳴海の方針に賛同する島津が急激に存在感を伸ばしたことや、「デジタル万引き」のくだりによって、真柴(蒼井優)の教育の方法が見えたことによって、徐々に作品としての確固たる形を作り始めている。“模索”の回を通過して、次週以降でどう“改革”されていくのか楽しみなところだ。


(久保田和馬)