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Beverlyの歌声に宿るスペシャルな魅力ーーシンガーとしての対応力と熱意を読み解く

2017年10月29日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 10月から地上波でも放映されるようになった野島伸司脚本による連続ドラマ『パパ活』(dTV・FODでは6月に配信開始。好評だったためフジテレビでの放送が始まった)。その主題歌「Unchain My Heart」を歌っているのは、「規格外の歌唱力」「今、最も勢いのある新時代の歌姫」と言われる実力派シンガー、Beverlyだ。彼女が主題歌を担当したドラマはこれが3作目。まずdTVのオリジナルショートドラマ『キス×kiss×キス』。今年1月から配信が始まったその番組の主題歌「Just once again」は切ないバラードで、見た人・聴いた人をキュンとさせた。続いて4月から6月まで放送された小栗旬と西島秀俊初共演の『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(カンテレ・フジテレビ系)。まだその名前が世に知られていない段階での大抜擢であり、「この主題歌を歌っているのは一体誰なんだ?!」「日本人アーティストなのか、海外アーティストなのか」と世間をざわつかせた。自分が初めてBeverlyの歌を聴いたのもその曲「I need your love」で、スリリングな曲のムードがドラマ内容に合っていたし、何よりサビ部分の力強いハイトーンボイスが鮮烈だった。「誰なんだ、この女性」とすぐにクレジットを追いかけたことを覚えている。因みに同ドラマの挿入歌「Empty」はハードボイルドな雰囲気にマッチした哀愁漂うバラードで、これもドラマのトーンにピッタリだった。そして現在放映中の『パパ活』だ。この先の展開にドキドキする場面で流れる「Unchain My Heart」はMISIA作品をプロデュースしていた島野聡が作曲やアレンジを手掛けたミッド・バラードで、主人公のギリギリの心理状態や胸の痛みがもの悲しいトーンの歌声によってリアルに表現されたもの。ドラマを見た人がBeverlyの主題歌に気持ちを重ねるのは必至であり、間違いなく彼女の名前と歌声はさらに多くの人に記憶されることとなるはずだ。


 ドラマのほかにも、「Sing my soul」が日テレ RESORT seazoo2017のイメージソングとして使われたり。「Tell Me Baby」がカラオケボイスドリンクのCMに使われたり。「Never Ever」がテレビ東京系列『たけしのニッポンのミカタ!』のエンディングテーマ曲に使われたり。Beverlyが日本での活動を本格化させた今年に入ってからだけでも、こうして様々な番組やCMなどに彼女の歌が使われているわけだが、それは一体どうしてなのか。単にエイベックスの宣伝力が強いというだけではない、その歌声そのものが持つ強い力があるはずなのだ。じゃあ、それはなんなのか。彼女にしかないスペシャルな魅力、特性とはどういうものなのか。それを考察してみたい。


 まずは彼女のプロフィール的なところを記しておこう。Beverlyは1994年6月20日、フィリピンのカランバシティー生まれ。ビヨンセやホイットニー・ヒューストンに影響を受けてシンガーを志した。ボイスレッスンに通って歌唱力を磨き、2013年7月にはアメリカの「World Championship of Performing Arts」でボーカリスト・パフォーマンス最優秀賞を受賞。翌2014年2月にフィリピンの「National Commission for Culture and the Arts」で“Harvest of Honors”賞を受賞し、さらに同年9月には「A Song of Praise Music Festival Year 3」で最優秀演出賞を受賞した。その後彼女は、フィリピンの有名作曲家であるベニー・サトルノ氏に師事。本格的な歌唱トレーニングを重ねたのち、2016年に日本に移住した。


 エイベックス主催『a-nation』のシューティングアクトに抜擢されたのは2016年8月のこと。そして同年11月にリリースされたディズニーのコンピレーションアルバム『Disney Magical Pop Christmas』(フレッシュな注目新人たちがディズニーの名曲を歌ったもの)に3曲で参加し、12月には自身名義の初作品『Tell Me Baby EP』を配信リリース。2017年に入ると先の『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』主題歌「I need your love」で着火し、そのインパクトが功を奏して5月リリースの1stアルバム『AWESOME』はたちまち5万枚を超えるヒットに。7月には「レコチョク 上半期ランキング2017」新人アーティストランキング1位を受賞し、8月にはなんとアリアナ・グランデの来日公演『デンジャラス・ウーマン・ツアー』のサポートアクトに抜擢されて大勢の観客たちに力強いパフォーマンスを印象づけたのだった。


 さらに、9月には小室哲哉と浅倉大介の新ユニットPANDORAにフィーチャリングボーカルで参加。EDM調のその曲「Be The One」は『仮面ライダービルド』の主題歌となり、一段とファン層が広がることに。10月には2016年に続いて再びディズニー楽曲のコンピレーション盤『Thank You Disney』にも参加した。また11月15日に発売となる村上佳祐のアルバム『Beautiful Mind』で、そのうちの1曲「RED」を村上とデュエット。まさに引く手あまたの状態であり、しかもそのジャンルと参加の仕方が非常に多様であることが面白い。加えて書いておくと、これまでBeverlyは実に様々なイベントやフェスに出演。大規模な音楽フェスもあるが、例えば神宮外苑花火大会、みなと横浜ゆかた祭り、名古屋城夏祭りといった「お祭り」にもフットワーク軽く出演し、どこでも必ず最大限に気持ちのこもった歌唱を披露している。


 以上のことから見えてくるのはBeverlyというシンガーの対応力と、歌うことに対する純粋な熱意だ。あたたかで普遍性の高いディズニーソングを歌える人でありながら、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』のようなサスペンスフルなタッチのドラマ主題歌ではそれに相応しい歌唱の表情を見せ、PANDRAでフィーチャーされればEDM的なトラックに乗せてパッションを表現する。そこで求められているものに瞬時に対応できる力が予め備わっているというわけだ。それは単に「歌が上手い」というだけのことではない。どんなムードで、どれぐらいの温度で、どれぐらいの力の押し引きで歌えば、求められているものに合った歌になるのか。それを一瞬で理解する勘の良さがあるということだ。ならば、これからもっとドラマ主題歌やCM曲の依頼は増えていくに決まっている。


 そして、そのように様々な場所でいろんなタイプの曲を歌えることを、彼女自身がとても純粋に楽しんでいるというのも大きい。こういうタイプの歌は私には合わない、なんてことを彼女は恐らく考えることがない。ヒップホップR&BでもバラードでもロッキッシュなものでもソウルでもEDM調でも、洋楽的な曲でも邦楽的な曲でも、どんなものでも歌ってみたい、自分ならどう表現できるかどんどんチャレンジしてみたい。そういう意欲とそれを楽しんでいる様子が彼女の活動の仕方から強く伝わってくるし、10月5日の渋谷WWW公演を観ていてもそれは大いに感じられた。先に記したように音楽フェス以外の「お祭り」などにもフットワーク軽く出演して活き活きと歌うのも、とにかく歌うことが好きで好きでしょうがない、歌を聴いてほしくてしょうがないという非常に純粋な思いが彼女の表現の根っこにあるからだろう。要するに歌える場所がそこにあるということが、彼女にとっては最も幸せに思えることなのだ。


 そんなBeverlyのシンガーとしての個性を、自分はR&Bシンガー的なところとポップ(または歌謡)シンガー的なところの同居であると考える。何しろ歌唱スキルが高く、声の音域の広さもとてつもない上、彼女はブラックミュージックのノリを身体に持っている。ビヨンセやホイットニーを聴いて育ったからなのか、あるいは別の要因があるのかわからないが、とにかく声の出方に弾力性があって、R&B的なグルーブにカラダで乗っていけるシンガーなのだ。自分はそれを10月5日のワンマンで強く実感した。ロックよりもジャズよりもきっとR&Bを好きで聴いてきて、そのノリを体得しているに違いない。


 しかしながら、BeverlyはR&Bシンガーですと言いきってしまうことには抵抗がある。もっと大衆性がある。まあR&B自体、アメリカの大衆音楽ではあるわけだが、だったらこう換言しよう。Beverlyのボーカルは例えば渋谷センター街を歩いている女の子たちにもズバっと響く感覚があるし、郊外で暮らす中高生や20代に響く(または刺さる)感覚もある。要はミュージックラバー以外の人たちにもすぐに親しまれるであろう成分が予め声にあるということだ。わかりやすく書くなら、浜崎あゆみを筆頭とするエイベックスの歴代の女性シンガーたちから受け継がれているような何か。それを歌謡と呼べばいいのかポップと呼べばいいのかわからないが、何しろそういった大衆性と言うべき成分が彼女の歌にはあり、なおかつR&Bシンガー的なスキルとノリもしっかり持っているというそのことがBeverlyの新しさなのではないかと自分は思う。


 そんなことを踏まえて非常に多彩な楽曲の並んだ1stアルバム『AWESOME』を聴くと、確かにこの部分はR&Bシンガー的、この部分はポップシンガー的と感じられるところがあるはずだし、先に述べた彼女の対応力、または柔軟性にも気づくことになるはずだ。例えば……。のっけから圧倒的なハイトーンに驚愕することとなるオープナーの「Tell Me Baby」はとことんポップで、聴いた女の子たちは間違いなくダンスしたくなるはず。太陽のような明るさを持つポップシンガーとしてのイメージ付けがこの1曲で完了するだろう。が、女性ラップも入った続く2曲目「Too Much」はというとヒップホップR&B的なノリがクールで、いわゆるポップシンガーには表現しきれないグルーブが歌に渦巻いていたりする。一方、AORやシティポップに熟達した鈴木雄大が作曲を手掛けて鷺巣詩郎がアレンジした4曲目「Dance in the Rain」などはEarth, Wind & Fire的なホーンがよく効いたブラコンテイストありのポップスで、Beverlyのここでのボーカルは大人のリスナーが反応しないではいられないもの。彼女が10代や20代前半の若い子たちの期待に応えるだけのシンガーではないことがこういう曲でハッキリするのだ。それはミトカツユキが作曲とアレンジを手掛けた「Mama Said」も同様で、ジャズとファンクとロックの要素が入ったこの曲で彼女は心底気持ちよさそうに音に乗りつつ自在に声で高低を行き来する。また彼女の師でもあるベニー・サトルノが作曲した7曲目「今もあなたが…」などはメロディが展開すると共に高く伸びていく歌声がMISIAを想起させたりも。このように強弱と緩急を自在につけながらヒップホップR&Bもソウルバラードもシティポップも豊かに表現できるのが、即ちBeverlyの持つ幅の広さであり、ポテンシャルの大きさであり、紛れもない個性なのだ。


 因みにBeverlyが歌詞を書いた曲もアルバムにはあるが、彼女は所謂シンガー・ソングライターではなく、基本的には作家の手による楽曲を歌う。自ら書くことで自身の世界観を限定してしまったりせず、どんな歌にもチャレンジして可能性を広げていきたい。そういう思いがあるのだろう。昭和の時代には、作家の書いた曲を歌で自分色に染め上げるシンガーがたくさんいた。が、いつの頃からかソロシンガーの多くは自分で詞や曲を書いて歌うようになった。それが当たり前のようになってしまった。それはそれの素晴らしさもあるが、自分で書くだけではそれ以上に世界観を広げるのが難しい。そこへいくとBeverlyはあくまでもシンガーであり、他者の書いた詞やメロディに命を吹き込んで躍動させる人。その才能に圧倒的に秀でた人なのである。述べてきたような対応力と歌うことへの純粋な思いで、これからもいろんな作家のいろんなタイプの曲を歌って、いろんな物語を表現していってほしい。そうやって世界観を広げていってほしい。彼女は歌の力だけでそれができる、今の時代においては稀有なアーティストだから。


 最後にもうひとつだけ。10月5日の渋谷WWWにおける初ワンマンのライブレポートで、自分は彼女の言葉を多めに紹介した。なぜかといえば、まさしくそうした言葉のひとつひとつに彼女の「歌っていくこと」に対する思いが表れていたからであり、そうすることでステージ上とフロアの間にある見えない壁を彼女が取り払ってもいたからだ。好きな食べ物について長く喋り続けるあたりには昭和のアイドルに通じる親近感のようなものもあり、最近の日本のアーティストが失ってしまったものを考えながら、どこか懐かしい気持ちにもなった。12月に行なわれる『Beverly 1st JOURNEY「AWESOME」』の追加公演で、圧倒的な歌ヂカラと共に、そのような彼女の人柄の魅力も感じてもらいたい。そうしたらきっと、Beverlyのことをもっと好きにならずにいられなくなるはずだから。(文=内本順一)