「これが本物の藍色です」。人類最古の植物染料と言われる藍を使用し約600年続く伝統製法による天然染料で染められた「スクモレザー(SUKUMO Leather)」の革は、ピュアで深みのある色としなやかさが特徴だ。それを初めて腕時計のベルトに用いたのが、デンマークの時計ブランド「ラースラーセン(LARS LARSEN)」。海を超えた合作はなぜ生まれたのか、本物の藍色とはどういったものなのか、京都で革の藍染を担う本藍染工房を訪ねた。
室内はツンとかすかに鼻を突く独特の香りが充満し、山のように蒅(すくも)のかますが積まれている。これを「本藍染の工房の証」と説明するのは、浅井ローケツの染師 浅井直幸氏。蒅とは、藍の葉を月日をかけて熟成・発酵させた天然染料のこと。徳島県阿波地方の阿波藍が有名だが、製造する藍師は5軒しか残っていないという。浅井氏が営む浅井ローケツは、その蒅と灰汁などを合わせて発酵させた染液による「天然灰汁発酵建本藍染」を守り続けている。"生きた染料"とも言われる通り、染液に「藍の花」と呼ばれる泡が浮かんでいるのが特徴。人や地球環境に無害で、染めた布は天然の殺菌効果などの機能性にも優れている。
堀井誠氏が代表を務めるホリイが展開するスクモレザーは、この「天然灰汁発酵建本藍染」によって染められているレザーブランドだ。「世界にないものを作る」という思いが、着物染色が専門だった浅井氏と一致し、失敗を繰り返しながら約8年がかりで藍染レザーを完成させた。熟練の技術によって、半身の牛革を染液に浸して洗うという作業を何十回と繰り返し、淡い色から深い色まで染め分ける。今年はパリの国際テキスタイル見本市プルミエール・ヴィジョンで評価を得て、ヨーロッパの高級メゾンブランドからも買い手がついた。
2017年は、日本とデンマークの外交関係樹立150周年。輸入代理店の大沢商会を通じて記念時計の製作が決まり、ラースラーセンとスクモレザーが出会った。日本を代表するもの作りとしてスクモレザーが選ばれた背景には天然本藍染という伝統技術があるが、市場で"ジャパンブルー"や"インディゴ"と呼ばれている製品を含めると全体の5%に満たない。一方でデンマークにも伝えていくべき職人技術がある。それらを守るために「本物を通じて本質を伝えていくことが必要」といった両者の考えが重なった。
濃淡さまざまな藍色を両国の海になぞらえた記念モデルの生産は、全て今年限り。中には、浅井ローケツが持つ技術で吹雪のような模様が特徴のろうけつ染めをレザーに応用したモデルもある。染色を手掛けた浅井氏は「伝統製法には未来がなくなってきている。それでは職人も楽しみがない。続けるだけではなく誰にもできないことをやっていかないと」と話し、伝統技術の今と未来を見据えている。
■LARS LARSEN × SUKUMO Leather:公式サイト