テレビではあまり伝わらないが、メキシコGPはエンジニアとドライバーにとって過酷なグランプリだ。理由は、舞台となるアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスが標高2250メートルにあるためだ。
標高の影響を最も大きく受けるのが、エンジン。標高が上がると気圧が下がり、空気の密度が低くなり、燃焼できる酸素が減少するからだ。
一般的に、標高が100m上がると、エンジン出力は約1%低下する。1992年のメキシコGPは自然吸気エンジンだっため、その影響はダイレクトに受けた。
エンジン出力は、標高49メートルの鈴鹿サーキットに比べて、アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスでの出力は約22%低くなったという。
ただし、現在のF1はターボチャージャーが付いているため、状況は異なる。ターボで空気を過給するので、標高の影響ほど、馬力は下がらない。
だが、別の問題がある。ひとつは、通常よりもターボを高い回転域で使用するため、ターボと同軸で接続されているMGU-Hとコンプレッサーの回転数も上がることだ。
2つめの問題は、空気の密度が低くなるということは、冷却も難しくなるということだ。そのため、インタークーラーの冷却効率も下がり、せっかくターボで空気を圧縮しても、空気が冷えにくく、ターボ本来の性能を出すのが難しくなるのだ。
影響を受けるのはパワーユニットだけではない。冷却能力が落ちるということは、エンジンそのものの冷却効率も下がるとともに、ブレーキ、ギヤボックスなど、空気に依存するシステムの冷却がすべて厳しくなるということを意味する。
そのため、マシンはいつもよりも冷却系の開口部を大きくとる。これによってドラッグ(空気抵抗)が増加するが、そもそも空気が希薄なためドラッグも小さいから、受ける影響も小さい。
だが、そのことは別のハンデを背負うことを意味する。それはメキシコGPではダウンフォース量が少なくなるということだ。あるチーム関係者は「メキシコGPでは高ダウンフォース・パッケージに近いものを用意するだろう」と語る。
それでも、金曜日のフリー走行での最高速は354.3km/h(ルイス・ハミルトン)だった。つまり、モンツァと同じようなダウンフォースレベルで走っているため、セクター2やセクター3で、コースオフしたり、スピンするドライバーが続出するのである。
空気の薄さはマシンだけでなく、ドライバーにも影響を与える。酸素の摂取量が通常よりも減少するため、肉体的なハンデが大きくなる。
もちろん、人間には順応性があり、メキシコで暮らしている人にハンデはない。あるフィジオによれば、「2週間もすれば、順応するだろう」と言う。しかし、メキシコGPはアメリカGPと2週連続開催であるため、ドライバーは4日間で対応しなければならない。
肉体的に最も厳しいのが、日本から移動して来たピエール・ガスリーだ。彼は高地対策ができていないだけでなく、14時間という時差とも戦わなければならないからだ!!