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BUCK-TICK櫻井敦司とジュエリーブランド『GRAVITY』の邂逅ーーこうづなかば氏に聞く

2017年10月27日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 アートディレクターのこうづなかば氏が、新ジュエリーブランド『GRAVITY』を立ち上げた。こうづ氏は、HONDAやYAMAHAなど数々の広告デザインを手がけた後、1992年に株式会社コーリングを設立。以降、HYや稲垣潤一、TM NETWORKなどのCDジャケットのアートワークを担当し、BUCK-TICKのWEBサイトも制作した。


 主に音楽分野の第一線で活躍してきたこうづ氏が新たに手がける『GRAVITY』は、「宇宙」や「引力」をコンセプトに生まれたジュエリーブランド。『GRAVITY』における全てのアートディレクションとコラージュ作品もこうづ氏が手がけ、ジュエリーデザイナーの範疇を超えたクリエイティブを発揮している。イメージキャラクターにはBUCK-TICKの櫻井敦司氏を起用するなど、そのビジュアルやプロダクトには、デヴィッドボウイを敬愛する氏らしい美意識が反映されている。今回のインタビューでは『GRAVITY』構想の背景から、SFやロックをキーワードとする新しいジュエリーへのアプローチを訊くことができた。(編集部)


・人間の精神のなかにもGRAVITYがあるんじゃないか


ーーこうづさんは、HYなど音楽関係のアートディレクターとして知られた存在ですが、ジュエリーデザインは、いつ頃からなさっていたのでしょう?


こうづなかば(以下、こうづ):実はアートディレクターという仕事をしながら、「宇宙」をテーマとしたアート作品をずっと作っていました。「宇宙」をテーマにすると、何を描いても自由ということになってしまうので、ストーリーをまずは作ろうと思って。それでGRAVITYのホームページに掲載しているようなSci-Fiの物語を作って、その物語に出てくる場面を絵に描いたり、オブジェで表現したりしていたんです。そして、そういう活動をしていたら、あるときswarovski gemstonesさんから、「宇宙をテーマに指輪を作ってみませんか?」というお誘いがあって。それまでジュエリーなんて全然作ったことなかったんだけど、「それは面白そうだな」と思ってやらせていただきました。


ーーそこで初めてジュエリーデザインを?


こうづ:そうです。その後、そのジュエリーを掲載したサイトを見たswarovski gemstonesのオーストリア本社の人たちから、「今度、ティアラだけの冊子を作る予定があるので、あなたも作品を出品してみませんか?」というお誘いを受けました。せっかくの機会なので作品を作って提出してみたら、それがその冊子の表紙になったという。それは、世界中で配られているswarovski gemstonesのカタログだったんですけど、その表紙に採用していただいたものだから、日本のswarovski gemstonesの人もビックリしてました(笑)。そのとき、宇宙的なジュエリーっていうのは、何か今まで自分がやってきたことの集大成として、すごく素敵なことかもしれないなという思いが、僕のなかで出てきて……そこからですね、本腰を入れてやり始めたのは。


ーーそれが、いつ頃の話になるのでしょう?


こうづ:swarovski gemstonesのカタログが2015年だから、その年の秋ぐらいですかね。その頃に、「GRAVITY」というブランドを立ち上げて……それは完全に自分のなかで勝手につけていただけなんですけど(笑)。今のように、ちゃんと商品化した形で世の中に送り届けられるようになったのは、今年になってからですね。


ーー「GRAVITY」というブランド名には、どんな思いが込められているのでしょう?


こうづ:GRAVITYは、普通「引力」と訳されることが多いんですけど、僕は、人と人や人と場所、人と時代にもGRAVITYが働いているんじゃないかと思っていて。初対面の人に何か惹かれるものを感じたり、初めて行った場所なのに「懐かしい」と思うことってあるじゃないですか。そういうことにも、実はGRAVITYが働いているというか。物理的な法則だけじゃなくて、人間の精神のなかにもGRAVITYがあるんじゃないかと思っているんです。あと、大体ジュエリーは、男性だったら好きな女性にプレゼントしたりとか、その人とのリレーションを強めるためだったり、逆に呪術の魔除け用にリレーションを断絶するために使うじゃないですか。そういう「引き付けあう力」と指輪というものが、僕のなかで非常に整理されて飲み込めたので、ブランド名は「GRAVITY」にしようかなと。その「引き付けあう力」を大事にして生きていこうよっていうメッセージを込めています。


ーー具体的には、どんな人たちを対象にしたジュエリーなのでしょう?


こうづ:メインのラインナップは「KING」と「QUEEN」なのですが、いわゆるメンズ/レディースという分け方ではなく……「宇宙」をテーマにしているので、そこはもう性別関係ないと(笑)。年齢も、特に何歳ぐらいをイメージしているわけではなく。僕がずっとやってきた音楽の世界と一緒ですね。男性向けとか女性向けとか、何歳ぐらいをターゲットにとかではなく、そのミュージシャンが作った世界観が、新しいマーケットを生み出すという。音楽って、そういうところがあるじゃないですか。それと同じで、まず最初にきっちり構築された世界観を世の中に出して、それをいいねと言ってくれる人たちが、お客さんになって頂ければ幸せです。


・「カッコいい」と形容されるジュエリーは、すごく少ない


ーーその意味でも、イメージキャラクターとなったBUCK-TICK・櫻井敦司さんの存在は、非常に重要であるように思いますが、今回櫻井さん起用した理由は?


こうづ:以前、お仕事をご一緒させていただいたという縁はもちろんあるんですけど、僕が作っているSFの世界と櫻井さんがパッと繋がったのは、去年BUCK-TICKが出した『アトム 未来派 No.9』というアルバムなんです。僕はBUCK-TICKのタイトルがいつも大好きなんですけど、アトム、未来派、No.9って、全部僕のストーリーのなかにも入っているんですよね。アトムは手塚治虫の「アトム」が僕のSF原体験ですし、未来派は僕が学生時代に知った芸術運動として影響を受けたものだし、僕の物語には9人の探索者が登場するんです。それで、やっぱり自分の世界観と、すごく近いんだなっていうことに改めて気づいたというか……そう、僕の物語には、永遠に生き続ける両性具有の王様が出てくるんですけど、「これって櫻井さんだよね?」って思って。そこで全部繋がったんですよね。それでダメ元でお願いしたら、快諾してくださいました。


ーー本当にピッタリだと思います。高津さん自身は、今後「GRAVITY」をどんなブランドにしていきたいと考えているのでしょう?


こうづ:そうですね……これまで、ロックな感じのジュエリーっていうのはあったと思うけど、ちょっとバイカーっぽいものが多かったというか、ロックのジャンルで言ってもグレイトフルデッドとか、アメリカ系のロックなイメージのものが多かったと思うんですよね。でも、僕の「GRAVITY」はハードロック系ではなく、もう少しインテリジェントのあるロック、それこそデヴィッド・ボウイから派生していったようなもの……現代で言ったら、ちょっとテクノロジーを使ったようなものをイメージしているんです。それこそまさに、BUCK-TICKのサウンドのような。だから、ロックが好きなんだけど、ハイクオリティで上品なものが好きな方たちに、是非つけて頂けたらと思ってます。


ーー男らしさや強さを演出するようなジュエリーではなく。


こうづ:そう、「かわいい」とか「クラシカル」とか、いろんな形容詞があると思うんですけど、「カッコいい」と形容されるジュエリーは、すごく少ないと思うんですよね。クラシカルで綺麗だとか、かわいらしいとか、ごつくて男っぽいとかはあるけど、現代アート的というか、デザインをそぎ落としたような「カッコいい」ジュエリーって、案外無いのかと思って。そういう感じのものを、創っていきたいなと思っています。そういえば2001年宇宙の旅というSF映画のラスト直前で主人公のボーマン船長が宇宙服のままクラシカルな部屋に現れるというシーンがあるんだけど、そのイメージはGRAVITYに非常に強く反映していると思う。つまり未来的な世界と過去的な世界をワンセットで見せるというイメージ。これが僕にとって「かっこいい」の原点なのかもしれないなぁと。デヴィッドボウイやBUCK-TICKにも同じ感覚を感じるんですよね。


ーー先ほどおっしゃっていたような、物語の一部を身につける楽しみもありますよね。


こうづ:まさにそうですね。ただ、僕が作った物語っていうのは、もちろんあるんですけど、買って頂いた方のストーリーを、そこに乗せて頂いて構わないというか、それが混ざっていく感じなのかな。だから、僕の世界観がすべてということではないんですよね。そこに入って楽しんでもらうのもいいけど、そこにみなさんの独自の物語を加えてもらえたら、嬉しいですね。ある部分だけ自分の誕生石にしたりとか、そういうカスタマイズはできるようにしようと思っているので、そういうことを、ご自分の人生の物語のアクセントとして楽しんでもらいたいですね。


ーーある世界観に自分の物語を重ね合わせる……それも音楽と似ていますね。


こうづ:そうですね。僕は単純にロックミュージックファンなので(笑)。それが何か色々やっているうちに、ジュエリーになったということなんです。だから、そういう意味でも、音楽好きの人につけてもらえたらとても嬉しいですね。(取材・文=麦倉正樹)