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『奥様は、取り扱い注意』が描く“不倫”と“女の愛” 西島秀俊演じる夫が朗読した本の意味とは?

2017年10月26日 21:02  リアルサウンド

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 「世界中のものを投げ出したって構わない」。10月25日に放送された『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)のエピソード04「読書会」。同ドラマの中で、伊佐山菜美(綾瀬はるか)の夫・勇輝(西島秀俊)が作家・ツルゲーネフによる『初恋』の一説「一方、少女の身ぶりには…(中略)自分も、あの天女のような指で、おでこをはじいてもらえさえしたら、その場で、世界中のものを投げ出しても構わないと、そんな気がした」を朗読する。これは『初恋』の主人公・わたし(ウラジーミル・ペトローヴィチ)が、初恋の相手(ジナイーダ・アレクサンドロウナ)に恋に落ちた瞬間の一説だ。


参考:綾瀬はるか、ママ友いじめ問題をどう解決? 『奥様は、取り扱い注意』が示す“本当の強さ”


 そして、同小説はどうしようもなく好きな初恋の相手が、自分の父親に初めての恋をしてしまうという物語。つまり、自分の父親と初恋の相手が“不倫”する話である。同小説には、「女の愛を恐れよ。かの幸を、かの毒を恐れよ」という一文があり、これは実際にツルゲーネフの父が遺した言葉だという。エピソード04「読書会」でも、“不倫”と“女の愛”がきっかけで、誘拐事件へと発展していく。


 菜美らは、近所の豪邸に住む主婦・美佐子(星野真里)が開いている「読書会」に参加していた。ある日、美佐子の息子・悠斗が誘拐されるのだが、その犯行を企てたのが悠斗の家庭教師・真純(佐野ひなこ)である。なぜ、彼女は罪を犯してしまったのか。その原因は美佐子の夫・光雄(古屋隆太)にあった。真純と光雄は不倫関係にあったのだ。しかも、真純は妊娠までしていたが、光雄に中絶を強いられ、子どもをおろしたという。そのショックから立ち直れず、悠斗を誘拐したと明かしていた。さらに、妊娠がきっかけで彼女は光雄から別れを切り出され、その話がもつれていたことも推測できる。


 愛する人(光雄)との“幸せ”な時間を過ごしていたからこそ、“愛する人”と“愛する人の子”両方を一気に失ってしまった真純の傷は深い。夫の浮気にすら気づいていない、つまり誘拐された本当の理由を知らない妻・美佐子を、真純は“少しの敵意と多くの優越感に満ちている”目で見ている。それほどまでに歪みきってしまっていた。“幸”が大きかった分だけ“毒”も増えていく。この先の人生を棒に振ってもいいほど、彼女は光雄を愛して(憎んで)いたのだ。女の愛は深ければ深いほど恐ろしい。“世界中のものを投げ出したって構わない”ほどに、真純は光雄を愛し、一方で美佐子は息子の悠斗を愛していた。だからこそ、事件が解決し、すべての真相が明かされた時、美佐子は光雄との別れを決意したのだろう。何よりも悠斗が大切なのだ。もしかしたらまた、光雄の女関係が原因で、悠斗を傷つけられるかもしれないから。


 今回のテーマが「読書会」ということで、『初恋』のほかにも、ギュスターヴ・フローベールの長編小説『ボヴァリー夫人』、山本周五郎の時代小説『ちいさこべ』、ジェーン・オースティンの長編小説『高慢と偏見』という本が登場する。これらの小説の内容もまた、同ドラマとリンクしているから面白い。『ボヴァリー夫人』は田舎の平凡な結婚生活に倦んだ主人公の若い女が、不倫や借金地獄に追い詰められていくが、彼女の夫は一切気づいていないという物語だ。エピソード04「読書会」で描かれていた、夫が浮気していることを妻は知らず、夫は“身代金一億円”を周りから借りて解決しようとする模様と通じる部分がある。


 一方で『ちいさこべ』は両親を失ってしまった主人公が、仕事と人助けの狭間で悩みながらも奮闘していく話だ。これは、冒頭の菜美のモノローグ「私たちは正義の味方を気取っていたわけじゃない。ただ誰かに必要とされる存在になりたかっただけだ」を思い出す。


 そして、一番初めに「読書会」の題材になっていた『高慢と偏見』。同小説の作者ジェーン・オースティンが執筆した小説のほとんどは、イングランドにおける田舎の中流社会を舞台にしており、結婚を中心とした女性の私生活を皮肉と愛情を込めて描いている。まさに、『奥様は取り扱い注意』を彷彿とさせる。平和なこの町に暮らす主婦たちに、次はどのような事件が襲いかかるのだろうか。(文=戸塚安友奈)