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BIGMAMA、音楽を信じ続けた10年 “仕掛け尽くし”で迎えた日本武道館公演を観て

2017年10月25日 17:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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「お客様はもちろん関係者の皆様にも楽しんでいただけますよう
様々な仕掛けを用意しておりますので、
どうかお客様の気分で存分にライブをお楽しみください。」


 綺麗に折りたたまれた関係者向けのセットリスト用紙には、そう書いてあった。10月15日、BIGMAMAが日本武道館にて開催した『BIGMAMA in BUDOKAN』。今年、2017年は現在のメンバーになり、10周年を迎えた年。武道館開催を発表した2月の恵比寿LIQUIDROOMのライブから8カ月、アルバム『Fabula Fibula』、シングル『DOPELAND』、ベストアルバム『BESTMAMA』のリリース、ツアー『ファビュラ旅行記 2017』の開催と、怒涛の勢いで駆け抜けてきた。


「最後に一つささやかなお知らせです。2018年、BIGMAMAは引っ越します。下北沢から青山に。ユニバーサルミュージックにお世話になります」。すでに発表されているように、BIGMAMAはユニバーサルミュージックとパートナーシップを組み、バンドとしての第2章をスタートさせる。8人編成のストリングス、ド派手な特攻、レーザービーム、楽曲の世界観を表現したスクリーン映像。“様々な仕掛け”は、公演の至るところに見受けられたが、最大の仕掛けと言えるのは発表にある“引越し”だろう。そして、金井政人(Vo / Gu)の“ささやかなお知らせ”という言葉にはどこか聞き覚えがあった。武道館開催を発表した2月の恵比寿LIQUIDROOM。最後に多くを語らず、「until the blouse is buttoned up」へと繋げるその構成まで、憎らしいほどに全く同じだった。BIGMAMAの日本武道館は、バンドのフロントマン金井の遊び心と、真面目で直向きでありながら不器用で、儚くも美しくありながら天邪鬼なバンドを、合わせ鏡のように映し出していた。


ダブルアンコールを含めて31曲。2時間30分を超えるこの日のライブは、ベートーヴェン「交響曲第9番」をバックに「No.9」にて高らかにスタートした。リアド偉武(Dr)の咆哮にも似た叫び声により、会場の空気が一気に引き締まる。「the cookie crumbles」「#DIV/0!」「Paper-craft」……と、バンドの10年史を振り返るように、次々と楽曲を披露していく。まだメロコアの色が強くあった『and yet, it moves ~正しい地球の廻し方~』までの時期。2010年にリリースしたクラシックを大胆に取り入れた『Roclassick』をターニングポイントに、2013年リリースの『君想う、故に我在り』では表題曲に代表されるような北欧テイストを感じさせるサウンドへも傾倒していく。さらに、2015年『The Vanishing Bride』収録の「ワンダーラスト」では初の打ち込みを採用し、今年リリースの『Fabula Fibula』内の「MUTOPIA」ではダンスビート、いわゆるEDMを取り入れ多くのファンの意表を突くことに成功した。様々なサウンドが鳴り響くライブの中で、ふと脳裏に思い浮かんだのが、以前読んだ金井のインタビューでの一言だった。


 「僕らは独立遊軍にならなきゃいけない」「僕らとしては、誰かとの比較対象になってはダメだなと思ってるんです。やっぱり、長く続くバンドって、圧倒的に唯一無二だと思うんです」(参考:BIGMAMA金井政人が語る、音楽とエンターテイメントの未来「僕らは独立遊軍にならなきゃいけない」)


 一番の変化の時期と言える『MUTOPIA』リリースでのインタビューの頃。当時、このインタビューを読んで金井の考え方に衝撃を受けた。そして、今振り返れば一言では形容し難い、一癖も二癖もあるバンドとして存在している。どんな音を鳴らせばファンを楽しませられるか、どんな変化を見せればファンを驚かせられるか。BIGMAMAは、常に考えている。それはファンに寄り添うということ。筆者は、武道館の1階席後方からライブのステージを観ていたのだが、曲のイントロが始まるたびに一喜一憂するファンの後ろ姿が何とも印象深く、バンドと共に歩んできた彼ら、彼女らのこれまでが透けて見えた気がした。


 「いつも通りに。話すより、たくさん曲をやろうというバンドの気持ちをどうか汲んでください。言いたいことはちゃんと曲の中に入ってます」。金井のその言葉通りに、本編ではほとんどMCはなく、バンドは演奏に思いを込めてメッセージを伝えていく。ファンとの関係をありのままに歌詞に込めた「SPECIALS」、思いに“一点の曇りなし”と歌う「CRYSTAL CLEAR」。中でも、筆者が強く感銘を受けたのは「Sweet Dreams」での、<迷える子羊(僕ら)は/最後に心から笑おうぜ! 武道館!>と疑問の歌詞を肯定に変え歌っていたことだ。この楽曲がリリースされたのが2014年。当時、Zepp Tokyoにて壮大なバンドアンサンブルを鳴らす彼らを観た時に、アリーナ会場でのライブがどれだけ似合うだろうと思いを馳せた。時を経て、金井はハンドマイクで武道館のステージの先に立ち、遥か2階席を見上げながら心から笑っていた。夢にまで見た光景がそこにはあった。


 アンコール、「めちゃめちゃかっこ悪い話」と前置きして始まった金井の15分にも及ぶMCは、彼の不器用で天邪鬼で、それでいて誰よりも人間らしい性格を反映していたように思う。高校時代にバンドを組んだ話に始まり、金井はこれまでのバンドの歩みを振り返る。父親に言われた「お前が巻き込んだ人たちを、絶対に不幸にするな」という言葉が10年間心の支えにあったことを明かす。「不幸を遠ざける方法」の一つには、5人で信じた音楽を鳴らすこと。そして、二つ目は失敗だらけ、後悔だらけ、欠陥だらけだった自分の人生と同じ失敗をしないように、曲の歌詞に散りばめることだった。「いつかあなたが大切な人に出会えた時に後悔しないよう、その時からでは遅いんだよと、今から誠実であれと僕はそう後悔しているので、また歌おうと思います。<言葉は確かなものじゃない/明日が来るとも限らない/それでも僕らは約束しよう>。そういう歌詞があります。誠実な人間に、嘘をつかない人間になりたいと心から思ってます。それは次の歌を歌って約束しようと思ってます。その歌がまた誰かの不幸を遠ざけることを願ってます」。そう言って彼らが鳴らし始めたのは、今の金井の心境ともリンクした「We have no doubt」。柿沼広也(Gt、Vo)のギターソロ前に持たせた長い間が、金井だけではないバンドとして一心同体であることを感じさせる熱の込もった演奏だった。


 続く「HAPPY SUNDAY」が示す通り、この日が“日曜日”であったこと。ダブルアンコールにはまだ未完成の「新曲」、<過去に戻れる日が来たら/迷わず僕は今日を選ぶだろう>と歌う「I Don’t Need a Time Machine」をラストに。そして、終演後“号外”として会場外で配られた「巨母新聞」に至るまで、ニヤリとさせる“仕掛け”尽くしの武道館だった。「自分たちの音楽を信じなかった日はなかった」ーー金井はライブの中で武道館でできる感慨をこう語っていたが、“唯一無二”のバンドとして、次のステージを想像させるバンドの姿があの日、確かにあった。これからもBIGMAMAは、私たちの不幸を遠ざけてくれることだろう。(文=渡辺彰浩)