2017年F1第17戦アメリカGPは初日からトップを走り続けたルイス・ハミルトンが完勝。そんななか16番グリッドからマックス・フェルスタッペンが怒涛の追い上げを見せ、4位に入賞している。ニッポンのF1のご意見番、今宮純氏がアメリカGPを振り返り、その深層に迫る──。
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クリントン元大統領がいて、人類最速者ウサイン・ボルトさんも表彰台に上がった表彰式セレモニー。ルイス・ハミルトンが4冠王戴冠となっていたなら、主催者の演出は大いに盛り上がったのだろう。それに待ったをかけたのがフェラーリだ。コース外でのショーアップが派手だったアメリカGP、コース上でくいさがった名門チームとベッテルの意気地に『レーシング魂』を見た――。
金曜FP1から予選Q3セッションまですべて1位、今年ハミルトンにはなかった。さかのぼれば昨年開幕戦オーストラリアGP以来の絶好調ぶり、この絶対的スピードにあらためて驚かされた。前回も触れたように鈴鹿から彼は走りの理念を切り替え、コーナリングのリズムを一定に高く保つ攻めと守りの高次元バランスが素晴らしい。
はっきり分かった。それは強風が渦巻くCOTAでのマシンコントロールだ。とくにセクター1のS字はシルバーストーンや鈴鹿のコピーに見えても実は違い、上り下りやバンプが複雑に絡まる。
風×バンプ×低グリップ路面、非常にトリッキーなコーナー・ワークを強いられるのだ。FP1からハミルトンはそうした“トリック”にはまることなく、瞬時にラインを少しだけ変えつつ、アクセル開度を500回転くらい上下させていた。
細やかなバランス・スロットルだ。それができるのもこのセクターに過去2年圧倒的に強く、その経験値があるからだろう。比べては申し訳ないがバルテリ・ボッタスはこのセクターで自信が持てず、ハミルトンが“荷重移動”によってコントロールする感覚を試してもできなかった。
テレメトリー・データ数値でマシン挙動分析・比較はできるが、微細な“荷重移動”のリアクションを瞬時に行うのはコクピットの自分。おそらくまじめ(すぎる)ボッタスは毎晩、ベッドで悩んだことだろう……。
コース幅が広いハイウェイ・サーキットで見ごたえあるオーバーテイク・ショーが今年も。それだけにドライバー力がチーム戦略などより際立った――。
ハミルトンが見せたオーバーテイクはほぼセオリーなパターンに基づく。マシン&PUの強さを引き出し、手前のコーナー脱出から“オーバーテイク準備”にいき、加速時にスピードをプラス。リスキーな競り合いパスはしていなかった。
昨晩から雨が降り続き、コース上はグリーンな路面になっていた。偶数列でもグリップのハンデは減る。2位セバスチャン・ベッテルは五分五分の加速からまっすぐ加速、1コーナーには少しセンターよりへ移行。これが巧かった。
蹴り出しがその後の中間加速につながるCOTA、エンジニアは不利と言うインサイドラインを選んだ彼のドライバー力はさすが。
5秒ペナルティによる降格で決勝4位とされたマックス・フェルスタッペン(16番グリッド)も、凄みを随所で演じた。1周目13位から10周目6位へ、後方から確実に数台を撃墜する際は安全範囲内でかわした。
そして最後のキミ・ライコネンとのバトルではセクター3からリスク覚悟の一撃で17コーナーのインからダイビング、5秒ペナルティとジャッジされたがあれこそレーシング魂(ちなみにスチュワードはライコネンと同郷のミカ・サロ、元フェラーリで6戦)。
抜かれても表彰台3位に呼ばれた38歳ライコネン、燃費セーブに気を取られていたのは分かるがあの場面で油断していたのか。バックストレートまでフェルスタッペンを抑えこみ、もう大丈夫と判断した隙に差し込まれた(以前の彼ならそうはさせなかったろう)。
中間チームのPPはフォース・インディアのエステバン・オコンでウイナーもオコン。ルノー移籍ぶっつけ本番のカルロス・サインツJr.相手に実に巧く、賢いバトルをコース幅いっぱいで展開。
26戦完連続完走16戦入賞だ。彼の“視野の広さ”にはフランスでのカート時代から定評があり、スタートの順位アップや接近格闘戦でいま結果につながっている。ピエール・ガスリーやオコン、シャルル・ルクレールにフランス新鋭の風を感じる。
――残り3レース、まずコンストラクターズは決まった。ハミルトンはもう思い切りきりいける。ベッテルは今季のドライバーズタイトル争いで最後になるかもしれない勝負だ。メキシコGPでドライバーズ決定したのは1968年グラハム・ヒル、ハミルトンが4冠となればイギリス人としては初めてになる。