2017年10月24日 09:53 弁護士ドットコム
「不用品を買い取るというので家に来てもらったら、強引に貴金属を買い取られた」。こういった買取業者が自宅へ訪問する「訪問購入」についての相談が、高齢者を中心に国民生活センターに相次いで寄せられている。
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具体的には、
・「不用品の買い取りキャンペーンをやっている」と自宅に訪問して来て、いらない洋服やバッグなどを出したが、「壊れた宝飾品があれば出してほしい」と言われた。指輪など2万5千円で買い取ってもらったが、契約書は渡されず、後から買い戻しも出来なかった。(60代女性)
・「不用品を回収している」という電話勧誘を受け、不用品を見せたら「貴金属はないか」と聞かれた。ブレスレットなどを見せると担当者が「500 円で全部買い取る」と言い、あまりに安い値段を付けられたので返事を迷っていたところ、担当者が突然1000円札を置いて商品を全て持ち帰ってしまった。(80代女性)
など、クーリングオフの説明を受けていなかったり、強引な買い取りにも関わらず物が返されなかったりといった相談事例が報告されている。
センターによると、訪問購入について今年度は既に2939件の相談が寄せられており、うち契約者が60歳以上のケースは66.7%(1961件)に上っているという。こうした悪質な「訪問購入」に遭ってしまった場合、どう対応したらいいのだろうか。鈴木義仁弁護士に聞いた。
訪問購入のルールはどうなっているのか。
「もともと特定商取引法では、訪問販売などで『不要な品物』を買わされるという被害を防止し救済する観点から、6つの取引類型について様々な規制がなされていました。
ところが、2010年頃から、無理矢理『貴金属』を買い取るという『訪問購入』の被害相談が、女性や高齢者を中心に各地の消費生活センターに爆発的に寄せられるようになりました。
そこで、2012年8月に、特定商取引法が改正され、2013年2月21日から『訪問購入』も7番目の取引類型として規制の対象となりました」
2012年の新たな規制では、具体的にはどういったことが定められたのか。
「・飛び込み勧誘(不招請勧誘)の禁止
・事業者名や勧誘目的を明示する、勧誘を受ける意思の確認義務
・一度断った消費者への再勧誘の禁止
・不実告知(事実と違うことを言う)、事実不告知(重要な事実をわざと知らせない)や威迫、困惑させる勧誘の禁止
・契約締結時の書面交付義務
・契約締結後(書面交付から8日間)のクーリングオフができる
・クーリングオフ期間中、消費者が物品の引き渡しを拒絶できる
・クーリングオフ期間中、業者が第三者に物品引き渡しする場合の消費者への通知義務
・クーリングオフ期間中、引き渡しを受ける第三者への通知義務
などの規制が定められました。原則としてすべての物品に関する訪問購入が対象となります」
クーリングオフは書面交付から8日間ということだが、それ以降は契約解除できないのか。
「クーリングオフ期間を経過してしまった場合には、原則として契約の解除が認められないため、物品の返還を求めることができないでしょう。業者の側もクーリングオフ期間が経過すれば、物品の処分は通知することなく自由に行えます。そのため、第三者の手に渡ってしまっていることがほとんどだと思われ、実際上物品の取り戻しは困難でしょう。
また、クーリングオフ期間中にクーリングオフをした場合でも、第三者の手に渡り、第三者が、訪問購入の事情を知らず、知らないことに落ち度がない場合には、もはや物品の返還を求めることはできません。
さらに、そもそも名刺もおいていかず契約書面も置いていかない業者の場合には、連絡先も分からないこともあり、クーリングオフをしようにもできないことも多いようです。
物品を業者にいったん渡してしまった場合には、取り戻すことは困難なことが多いので、とにかく自宅訪問や電話勧誘の段階で拒否することが肝心ですし、品物を渡さないようにするしかありません」
事業者が違反した場合、罰則はあるのか。
「特定商取引法の規制に違反した事業者は、業務停止などの行政処分の対象ともなります。また、クーリングオフができることを故意に告げなかったり、威迫・困惑させるような勧誘をした場合には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑事罰もあります。
法に定められた契約書面を交付しなかったりした場合にも、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰が定められています。
訪問購入の場合には、現金だけ置いて品物を持って行ってしまい、連絡先すら分からないようにする業者が多いので、被害に遭わないように気をつけなければいけません」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
鈴木 義仁(すずき・よしひと)弁護士
神奈川大学大学院法務研究科教授。横浜市消費生活審議会会長。著書に「悪徳商法にご用心」(共著:日本評論社)、「訴える側の株主代表訴訟」(共著:民事法研究会)「くらしの法律相談ハンドブック(共著:旬報社)」
事務所名:鈴木法律事務所