10月27~29日にツインリンクもてぎで開催される『2017 FIA 世界ツーリングカー選手権シリーズ JVCKENWOOD 日本ラウンド』。2017年からWTCCにフル参戦を開始した道上龍に、ホームレースにかける意気込みを聞いた。
道上は2016年のWTCCもてぎラウンドにスポット参戦してシリーズデビュー。今季からはホンダ・レーシング・チームJ.A.Sのレギュラードライバーとしてホンダ・シビックWTCCをドライブし、自身初の世界選手権に挑んでいる。
国内では20年以上のキャリアを誇る道上だが、初めて挑戦するシリーズで初走行のサーキットがほとんどという状況に、序盤から苦戦を強いられてきた。
「20年くらいホンダ一筋でレースを戦ってきて、一時は第一線を退いていましたが、こういった形で復帰しました。しかも挑むのは国内のレースではなく、世界選手権です」と道上。
「僕自身、この歳になって世界選手権に挑戦するとは思いもしませんでしたし、参戦しているドライバーたちも“クセが強い”というか、ツーリングカーのスペシャリストたちです」
「そのなかに、いきなり入ってレースを戦っている状況ですし、ほとんどが初めていく国、初めて走るサーキットで戦っていかなくてはならないという厳しさは開幕戦から感じてきましたね」
その一方で、すでに7ラウンドを終えた道上は「WTCCという環境やクルマにも慣れてきていますし、成績は上向いてきていると思います」という。10月13~15日に行われたWTCC中国ラウンドのオープニングレースでは、16番手スタートから自身最上位の9位フィニッシュを飾った点からも、成績が上昇傾向にあることは間違いない。
「ハイパワーなFF車の走らせ方も、走れば走るほど分かってきています。あとは予選1発の速さやタイヤの使い方など、予選セッションの組み立て方がもう少し上手くいけば順位は上げられるかなと思っています」
ベストリザルトを手にした中国ラウンドでは、エンジンに不具合があり、予選後にジョーカーによる載せ換えを余儀なくされた道上。しかし、この載せ換えたエンジンは「ドライバビリティなど、開幕戦仕様から全域で体感できる向上があった」という。
また、もてぎラウンドに向けては車体にもマイナーアップデートが加わるといい、この点でもホームレースでの活躍に期待がかかる。
■中国ラウンドでタルキーニと初対面。「カリスマ性がある」
そして中国ラウンドにおける、もっとも大きな収穫といえるのが、同じホンダ勢のティアゴ・モンテイロの代役として出場したガブリエル・タルキーニの存在だ。
2013~15年に渡り、ホンダ勢の一角を担ってきたタルキーニは、ツーリングカーレースの大ベテラン。今シーズンはWTCCに参戦していなかったが、9月に行われたテストでモンテイロがクラッシュして療養を余儀なくされたため、代役に起用された。
そのタルキーニは大雨で難コンディションとなった中国ラウンドで、初めて乗る2017年仕様のシビックWTCCを瞬く間に乗りこなし、FP1、FP2でホンダ勢トップタイムを記録している。
「中国でガブリエルさんが、ぽんと来てFP1で(ホンダ陣営)トップタイムを取ったんです。あの55歳のおじさん、ただ者ではないですよ(笑)。技というか、引き出しを多く持っていますよね。あのノルビ(ノルベルト・ミケリス)ですら、ガブリエルのタイムを見て焦ったと言ってましたから」
「FF車は、(コーナリングで)アンダーステアが出ていてもアクセルを踏めば行けてしまう部分があるんです。一方、リヤ駆動のクルマは(コーナリング中に)突然リヤがスライドした場合、アクセルを緩めたりして調整します」
「だから、FF車は自分がタイムロスしているかどうかが掴みづらいんですよ。特に中国ラウンドではハイドロプレーニングも頻発してトラクションも抜けがちでした」
「そういったところで、ガブリエルさんは『こんなところでギヤ上げちゃうの?』という感じで、うまく駆動力を路面に伝えるようにして、ホイールスピンを消しているんですよ。僕より1速高いギヤで走っているところもあるんです」
「感心している場合じゃないんですけど、上手いんですよ(笑)。これ(ツーリングカーレース)ばっかりやってきてるから、テクニックが勝っているなと思いますね。テクニックを持っている人がいっぱいいるんだなと思います」
「チームの雰囲気も変わりました。彼の発言を全員が聞いていましたし、カリスマ性がありますね。チーム全体の気も引き締まりました」
「ティアゴ(モンテイロ)やノルビ、ガブリエルさんも含め、世界のトップレベルを見ることができました。なかなか頭で考えてもすぐにできるものではないですけど、WTCCマシンの走らせ方などは、データや車載動画を見て、さらにイメージを掴めましたね」
■「流れは上向いていると思う。もてぎでベストリザルト、表彰台を」
そんな道上にとって、10月27日に開幕が迫ったWTCCもてぎラウンドは1年前にシリーズデビューを果たしたイベントであり、開催地も知り尽くしているツインリンクもてぎ。道上自身も「去年はWTCCのクルマに慣れることで終わってしまいましたが、今年はレースを戦ってきたので、去年よりは頑張りたいなと思います」と意気込みを明かす。
「(WTCCに参戦している)日本人は僕ひとりですし、周りからも注目されるでしょう。母国グランプリだと意識すると、そのあたりのプレッシャーもありますけど、自分では流れが上向いていると思っているので、さらにベストリザルト、表彰台を目指して頑張りたいと思います」
道上は大ベテランの走りに触発され、波に乗って状態でWTCCもてぎラウンドに挑む。またホンダにとっても、マニュファクチャラーズタイトル獲得に向けて重要な1戦となる。
今週末のWTCCもてぎではホンダ&道上を中心として、10月の“世界選手権上陸ラッシュ”を締めくくるにふさわしいバトルが繰り広げられるはずだ。