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別会社からの出向社員、問題起こしてばかりで大迷惑! 解雇するか、送り返せないか?

2017年10月23日 10:13  弁護士ドットコム

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別会社から出向してきた男性社員が、問題を起こしてばかりで困っているーー。インターネットのQ&Aサイトにこのような相談が寄せられています。


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相談者によると、男性社員はいつも自分の仕事から抜け出し、他の社員の仕事の妨害をしているとのこと。また、客からのクレームに対し、システムを理解しないまま勝手に対応し、火に油を注ぐ結果になったそうです。


上司が何度も注意しているのに、全く反省せず、屁理屈を言って自己弁護。手に負えず困っているそうです。


トラブルを起こしてばかりの出向スタッフを解雇したり、もとの会社に送り返すことはできないのでしょうか。古屋文和弁護士に聞きました。


●解雇は難しいが、出向元会社には送り返せる場合も

「結論からすると、出向先の会社は、ほとんどの場合、問題のある出向社員を解雇することができません。


出向(在籍出向)は、労働者が雇用先の会社に在籍しつつ、他の会社の従業員として相当期間にわたって、他の会社の業務を担当することをいいます。そうすると、出向中の社員については、出向元会社との関係で雇用契約が存続しており、出向先会社との関係では、労務の提供に関する服務規律等に服している状況です。


そうすると、出向社員を解雇(普通解雇や懲戒解雇)する権限があるのは、雇用契約の当事者である出向元会社であり、出向先会社ではありません。よって、出向先会社は、出向社員を解雇できないということになります。


もっとも、『懲戒処分として停職を命じる方法』はあります。出向先会社も、出向社員に対して、懲戒処分として停職処分を行うことが可能な場合があります。停職処分を行うことで、出向元会社に送り返すまではいかずとも、ひとまず出向社員が出向先会社に出社することを防ぐことができます」


では、問題の社員を出向元会社に送り返すことはできるのか。


「出向社員がいる場合、通常は、出向元会社と出向先会社の間では、出向に関する契約(以下『出向契約』といいます)が締結されているはずです。そして、出向契約の内容としては、『一定の業務遂行能力があり、出向先会社に対して適切に労務を提供できる(簡単に言えば、問題を起こさず、出向先の指示を受けて仕事をしてくれる)社員を出向させる』ということが前提になっていると考えられます。 そうすると、出向先会社としては、本件のような問題行動を起こす社員が出向してきた場合、出向元会社に対して、出向契約の内容に違反しているとして(このような約束違反を法律的には『債務不履行』といいます)、出向契約を解除できる場合があります。


よって、出向先会社が出向元会社に対して、出向契約の債務不履行を指摘して、問題行動を起こす社員と交代で別の社員を出向させるように求めることが考えられます。これに対して、出向元会社が適切に対応しないようであれば、出向先会社としては、出向元会社との出向契約を解除して、出向してきている社員について、これ以上労務提供をしないよう(出向先会社に出勤しないよう)通知することになります。


なお、通常は、出向契約を締結している会社同士は、グループ関係であったり、得意先の関係であることが多いと思いますので、出向元会社がある程度誠実に対応するのではないかと思います」


出向元会社は、出向先会社から出向社員の交代を依頼された場合、どう対応すればいいのか。


「そもそも、出向は、出向元会社から社員に対する出向命令に基づいて行われています。よって、出向の経緯や復帰の理由にもよりますが、出向元会社は基本的に出向社員を復帰させる命令を発することができます。復帰命令を発することにより、出向社員の労務提供先を出向元会社に変更することができます。その後、出向先会社での問題行動について、解雇を含めた懲戒処分等を検討することになります。


なお、懲戒解雇が有効となるケースは、従業員が会社の資金を横領した場合等の重大な懲戒事由が存在した上で、さらに、従業員からの意見聴取の手続がなされたり、他の懲戒事例との公平性が認められる場合など、かなり限定されますので、慎重に判断する必要があります。


なお、今回は詳しく述べませんが、出向先会社が懲戒処分を行ったのに加えて、出向元会社が懲戒処分を行う場合には、1つの懲戒事由に対して1つの懲戒処分しかできないという原則(『二重処罰禁止の原則』と呼ばれます)に反しないかという問題があります。この点について、どのような事案にもあてはまるわけではありませんが、1つの懲戒事由について、出向先会社が服務規律違反を理由に懲戒処分を行い、さらに、出向元会社が名誉毀損を理由に懲戒処分を行ったケースで、このような懲戒処分は二重処罰禁止の原則に反しないと判断した例があります(東京地裁平成4年12月25日判決)」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
古屋 文和(ふるや・ふみかず)弁護士
会社側の労働分野及び企業法務分野の案件を多く取り扱っている。最近では、企業向けに、平成30年4月以降に適用されるケースがでてくる「無期転換ルール」への対応セミナーや労働法関連のセミナーにも力を入れている。山梨県弁護士会所属。
事務所名:ひまわり法律事務所