2017年10月22日 11:13 弁護士ドットコム
福井県池田町で今年3月、町立池田中学2年の男子生徒(当時14歳)が校舎から転落して亡くなった。町が設置した学校事故等調査委員会は10月15日、担任や副担任から繰り返し叱られるなど厳しい指導を受けたことで、追い詰められ自殺したと結論づける報告書を公表した。
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報告書によると、男子生徒は亡くなる数か月前から、課題の提出が遅れたことなどで担任や副担任から、大声で叱られるなど、厳しい指導を繰り返し受けていたという。登校も嫌がるようになったため、家族が担任らと話し合ったが、その後も指導方法は変わらず、ほかの教員も適切な対応を取らなかったという。
報告書は、(1)男子生徒が追い詰められて自殺した、(2)当時の学校側の対応に問題があったと結論づけている。今後、学校や担任・副担任の法的責任はどうなるのだろうか。学校問題にくわしい舟橋和宏弁護士に聞いた。
「学校側が負う法的責任としては、国家賠償法に基づく損害賠償責任が挙げられます。
報告書では、家族だけでなく、ほかの生徒からみても、厳しい叱責であったことなどが指摘されています。そのため、仮に、家族から訴訟が提起された場合、この責任が認められる可能性があります。
ただ、国家賠償法に基づく場合、裁判の相手方は、学校の設置者である公共団体(池田町)です。担任や副担任など、個人に対して直接責任を追及することは、裁判例上、認められていません」
直接責任を追及できないのはなぜだろうか。
「個人責任を認めることは、公務員の萎縮を生むことにつながり、公務の適切な執行の妨げになるからです。
一方で、本人に代わって公共団体が訴訟を受けるというのは、直接の責任を負うべき公務員に対して、責任の重さを自覚させることができず、違法行為の抑止ができないということも批判されています。
なお、公務員に故意または重大な過失があったときは、公共団体はその公務員個人に対して求償することができます。その場合、求償の可能性はありうるでしょう。とはいえ、町が本当に求償権を行使するかは、不透明です。遺族が求償権行使を求めて、訴訟提起をおこなう可能性もあるとは思います。
男性生徒の遺族がどのような対応を取るのかはわかりませんが、いずれにせよ、自殺事件が起きたことを学校、教育委員会など関係機関が真摯に受け止め、対応していかなければなりません」
今回のようなケースを防ぐためにはどうすればよいだろうか。
「中高生であれば、特に学校は彼らにとって人生の中で大きなウェイトを占める居場所です。
教育をおこなううえで、生徒を叱責することがあるとしても、その学校での居場所をなくしてしまうことがないよう注意しなければなりません。
そのためにも、カウンセラーなど、教職員以外の機関とも連携し、適切な指導を考えることが、同じような事件を繰り返さないために必要だと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
舟橋 和宏(ふなばし・かずひろ)弁護士
学校内トラブル(いじめ、停学退学問題、学校事故など)を専門的に取り扱うほか、いじめ・非行予防授業も精力的に行っている。その他にはインターネットトラブル(SNS上のトラブル、発信者情報開示請求など)等を扱っている。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/