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スーパーフォーミュラ2度目のチャンピオンとなった石浦宏明。会見で垣間見せた複雑な胸中

2017年10月21日 21:01  AUTOSPORT web

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台風21号の接近で荒天による中止となったが、石浦が2度目のタイトルを決定した。
超大型の台風21号の接近を翌日に控え、急きょ、決勝レースが開催中止になったスーパーフォーミュラ第7戦鈴鹿。中止の決定とともに石浦宏明(P.MU/CERUMO · INGING)のシリーズチャンピオンが確定し、石浦が会見に出席。そこで一瞬見せた表情に、石浦が抱えていたさまざまな重圧を垣間見た。

「(チャンピオン決定は)キッズウォークをやっている最中に突然聞かされて、実感がなくてびっくりしている状況です」と、チャンピオン獲得の率直な感想を語る石浦。

「明日がどうなるか決められる立場でもないですし、レースがどうなるかわかならかったですが、レースがないと考えてしまうと集中できなくなってしまうので、明日、全力で戦うつもりでいました。このような結果になってしまいましたが、チャンピオン獲得は素直に嬉しいです」

 急な決定に戸惑いながらも、喜びの言葉を並べる石浦。シーズンを振り返って、チャンピオンを獲れた要因を振り返った。

「今シーズンを考えると1戦1戦しっかりと戦えたことが結果につながっていると感じます。(ピエール・ガスリーやフェリックス・ローゼンクビストといった)才能あるドライバーたちと戦えたことは自分にとってもいい経験になったし、自信につながった。最終戦は残念でしたが、良いシーズンを送れたのでチームに感謝しています」

「時には僕もチームに多く要求することもありましたけど、毎レース、良いクルマを準備してくれて、常に万全の状態でした。そういった小さな積み重ねがチャンピオン獲得につながったと思います」

「チームにとっては3年連続のドライバーズタイトル、2年連続のチームタイトルです。自分でも不思議なくらいチームがすごく強くて、チームワークが良かった。チームタイトルとドライバーズタイトルは毎回獲れることではないですし、複数回タイトルを獲っているということは、自分、チームを含め、実力がしっかりついてきたというで嬉しいですし、チームには本当に感謝したいです」

 2015年に初めてスーパーフォーミュラのタイトルを獲得して今年で2度目。前回との違いはどのような部分にあるのか。

「(初めてタイトルを獲得した)2年前は岡山が初優勝で、そのときはチームも僕がチャンピオン争いをすると思っていなかったですし、僕も今よりはるかに緊張していました。前回は体が動かなくなるような感覚もありました。今は自分も自信を持っているので、そこまで緊張することはなかったです。自分の力とチームが一緒にクルマを作り上げれば、いい戦いができるとは思っていましたので、落ち着いてレースに臨めていたと思います」

 最終的に、どのレースがポイントになったか。

「第4戦のもてぎだと思います。去年もそうでしたがタイヤの2スペック制が導入されて、今シーズンのレースは見ているファンの方にも見応えがあるレースだったでしょうし、僕らにとっても難しくもあり、戦略の幅が広かったレースでした。(もてぎのレースでは)一時19番手まで下がったのですが、そこから3位表彰台が目の前という4位でゴールしました。自分たちもそこまで上がっていけると予想してはなかった」

「今シーズン、予選のポールは岡山の1回だけでしたが、決勝レースで強いクルマをエンジニアが作ってくれたので、レースで這い上がって行けた。前回チャンピオンを獲った時は予選で速さを出せたので、今シーズンは悩んでいましたが、もてぎだけでなく他のレースでも決勝で順位を上げることができた。2015年はオーバーテイクをした記憶があまりないのですが、今シーズンはオーバーテイクをたくさんできたので、自分のなかでも課題としていたところにチャレンジできた1年でした」

 今回で2度目のタイトル獲得。来年以降、3回目、4回目のタイトル獲得は視野に入っているか。

「(今日のグランドスタンド裏での)トークショーで同い年のアンドレ(ロッテラー)が『おじいちゃんになるまでスーパーフォーミュラに乗る』と言っていたので(笑)。僕も速いクルマに乗っているのはすごく楽しいし、特にSF14になってから乗っていて楽しくて攻めがいがある。このクルマになったタイミング(2014年)に僕がスーパーフォーミュラに復帰して、チームと速いクルマを一緒に仕上げて、良いシーズンを送れるようになった。今日、次期車両のSF19の概要が発表されましたが、タイトルを2回でやめるつもりはないので、3度目のタイトルを狙って、今のようにしっかり戦えるように僕もチームに貢献していきたいなという気持ちでいます」

 突然のタイトル決定に驚きながらも、クールにメディアの質問に答える石浦。2度目のタイトル、さすがベテランということもあるもあるが、会見で一瞬、タイトル争いの感情を表に出した瞬間があった。先に会見場に入り席に座った石浦に、あとから登壇したガスリーが石浦に手を差し伸べ、石浦のタイトルを祝福した瞬間、石浦の目頭から一瞬、涙がこぼれそうになったように見えた。

 驚異のルーキーであり、現役F1ドライバーでもあるガスリーと実質、一騎打ちの状態でこの鈴鹿を迎えた石浦。その背景で抱えていたプレッシャーと、ベテランでありタイトル経験者、日本育ちのドライバーとしての意地、そしてガスリーとの戦いに勝った喜び・・・さまざまな感情が、同じドライバーでもあるライバルからの祝福で解き放たれた瞬間だったように感じた。