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世良公則が体現する日本語ロックの“もうひとつの歴史” デビュー40周年記念アルバムを読み解く

2017年10月20日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 世良公則は、日本語によるロックの歴史の中でまだ評価が足りないアーティストだ。今回リリースされたデビュー40周年記念スペシャルアルバム『Howling Wolves』は3枚組で、DISC 1はオリジナルアルバム『Howling Wolves』。そして、DISC 2とDISC 3はライブ音源だが、そこになぜ奥田民生、宮田和弥(JUN SKY WALKER(S))、つるの剛士が参加しているのか、若い世代にはわかりづらいかもしれない。


 そもそも日本語によるロックの歴史というと、はっぴいえんど、そして内田裕也がプロデュースしたフラワー・トラベリン・バンドから語られることが多い。はっぴいえんどは1972年に解散し、フラワー・トラベリン・バンドは1973年に解散。その後、ロックでヒットを飛ばして、しかもテレビにも出る「ロック御三家」と呼ばれる存在が登場したことについては、現在あまり語られる機会がない。「ロック御三家」とはChar、原田真二、そして世良公則&ツイストであった。


 世良公則がThe Rolling Stonesの「Paint it Black(黒くぬれ!)」を聴いてロックに目覚め、「ツイスト」の名前はサム・クックの「Twistin’ The Night Away」に由来するといったエピソードは、世良公則の世代ならではのものだ。


 世良公則&ツイストは、1977年11月25日にシングル『あんたのバラード』でデビュー。この楽曲の大ヒットで、1978年には『NHK紅白歌合戦』に出場している。


 今回リリースされた『Howling Wolves』は、そうした世良公則の40年のキャリアを総括するかのような3枚組アルバムだ。


 DISC 1のオリジナルアルバム『Howling Wolves』の冒頭を飾るタイトル曲「Howling Wolves」には、元Whitesnakeにして現The Dead Daisiesのダグ・アルドリッチがギターで参加。さらに野村義男もギターで参加し、ツイストのオリジナルメンバーである神本宗幸もキーボードと編曲で参加している。1980年代ロックを髣髴とさせる堂々たるヘヴィなバンドサウンドで、世良公則をスターに押しあげた、彼ならではのボーカルのアクの強さも改めて体感させる。


 また、前述の野村義男と神本宗幸に加えて、カシオペアのオリジナルメンバーである櫻井哲夫のベース、世良公則のバンド・GUILD 9で活動している横瀬卓哉のドラムも全編で活躍。この世良公則、野村義男、櫻井哲夫、横瀬卓哉、神本宗幸という編成は、2001年に結成されたGUILD 9の現在のメンバーでもあり、特に「SECTION N°9」ではソリッドなバンドサウンドを聴かせている。


 コーラスに宮田和弥を迎え、〈熱い時代は過ぎ去って ぬるいPopsばかりさ〉と歌う挑発的な「Rock’n Roll Is Gone」は、本作での世良公則のスタンスを象徴する楽曲だ。しかし、単なる挑発というよりも、この楽曲はロックンロールが熱かった時代、つまり世良公則にとってのロックンロール原体験を表現した楽曲なのだろう。


 また、穏やかなミディアムナンバー「笑ってみせて」のソングライティングには、世良公則がなぜロックで大衆性を獲得できたのかを物語るかのような魅力がある。


 DISC 2とDISC 3はライブアルバム『世良公則 60th ANNIVERSARY LIVE「Birth」~タカガウマレタヒ~』。艶めかしいほどの世良公則のボーカルとバンドの演奏を堪能できる。


 世良公則のオリジナル曲のほか、ペドロ&カプリシャスの「別れの朝」のカバーも。完全にロック化されたアレンジだ。さらにJUN SKY WALKER(S)の「さらば愛しき危険たちよ」では、宮田和弥を迎えて歌っている。奥田民生の「さすらい」も、奥田民生を迎えてのコラボレーションだ。世良公則より若い世代のミュージシャンからのリスペクトを感じさせるコラボレーションである。


 特にDISC 3では、「あんたのバラード with 宮田和弥」「宿無し with 宮田和弥&つるの剛士」「銃爪 with つるの剛士」と、まさに「ロック御三家」時代の大ヒット曲がゲストとともに歌われていく。


 そして、アンコールで全員で歌われるのは、The Rolling Stonesの「JUMPIN’ JACK FLASH」。そして、同じく全員による「燃えろいい女」でライブアルバムは幕を閉じる。


 『Howling Wolves』は世良公則の音楽の原体験の記録であり、同時に「ロック御三家」時代から現在までの活動の軌跡でもある。そして、これも日本語によるロックのひとつの歴史を体現した作品であることを忘れてはならないだろう。
(文=宗像明将)