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西田敏行、演技のギャップが凄すぎる 『アウトレイジ』悪人役と『ナミヤ雑貨店』善人役

2017年10月20日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 多くの人々が待ち焦がれていた北野武監督の最新作にして、『アウトレイジ』シリーズ完結編である『アウトレイジ 最終章』。日本が誇る名優たちが一同に会し、圧倒的な熱量で解き放たれた一作だ。主演であるビートたけしと並び、映画の顔として登場する西田敏行が、やはり突出して恐ろしい。これに対し、先に封切られた『ナミヤ雑貨店の奇跡』で見せる、人間の温かさ。そのあまりの振れ幅の大きさには、見ていて人間不信に陥りそうになった。


 これまでどれだけ多くの人々が、西田敏行という俳優に笑わされ、泣かされたことか。1967年にデビューし、今年で芸歴50周年を迎える、言わずもがな日本の俳優のトップランカーである。『はなれ瞽女おりん』(1977)や『敦煌』(1988)といった文芸作品の映画化で培ってきた存在感。『釣りバカ日誌』(1988 – 2009)に象徴される、シリーズものでの持続力。三谷幸喜作品でのコミカル一直線のキャラクター。数多く出演してきたNHK大河ドラマ。歌もうたい、バラエティ番組で司会も務める、まさに稀代のエンターテイナーであり、国民的俳優といって誰も異論はないだろう。


(参考:『アウトレイジ 最終章』は、なぜ希望を描いてしまったのか? 日本社会の“現実”との関係性


 『ナミヤ雑貨店の奇跡』ではナミヤ雑貨店のシャッターの郵便受けに届く、すべての悩み相談に答えるという店主を好演。温かい眼差しと柔らかい語りで、相談してくる人々を優しく包み込むキャラクターは、世の人々が西田敏行という人物に対して抱くイメージと、大きく重なった。ウィットに富んだ回答の数々もまた、西田本人が口にしそうなものだ。スクリーン越しに彼の笑顔を目にしただけで、その声を耳にしただけで、思わず胸がいっぱいになり涙腺が緩んでしまう。


 一方、『アウトレイジ ビヨンド』に引き続き出演している『アウトレイジ 最終章』の西田は真逆をいく。シリーズ前2作では、俳優たちの“イイ顔”が次々と活写され、激しい罵り合いとともに一触即発の緊張感が画面に漲るなか、スクリーンに映し出される西田の顔面の迫力と、前のめりでまくし立てるセリフ回しはトラウマものであった。5年後を描いた『アウトレイジ 最終章』、西田の眉間にシワが寄り、そこから一声発されるだけで、劇中ヤクザも観客も、恐くて楽しい『アウトレイジ』ワールドに引き込まれる。


 じつは西田、撮影前に頸椎亜脱臼になり4カ月も入院しており、本作が復帰作だったという。西田本人は劇場パンフレットに掲載されているインタビューで「塩見さんも病気になってしまって、後遺症を抱えながらの現場で、ふたりとも歩行がうまくいかなくて申し訳ないと感じていて……。でも、監督がうまく歩けないんだったら、歩かない仕組みを考えようって。あぁ、たけしさんって優しい人なんだって感じましたね」と明かしている。たしかにテンションの高さは見られずとも、ズッシリとソファにその身を落ち着けることで、かえって重厚感が増している。小指で下唇をもてあそび、ふんぞり返って相手を睨めつける姿には、見ていて息がつまりそうになった。ハンデを映画の強みに変える、演出と演技。これぞ、監督と俳優の信頼関係というものだろうか。西田というキャラクターの底知れぬ非情さは、群雄割拠の「アウトレイジ世界」を、腰を上げずして、大いに盛り上げるのだ。


 お茶の間の人気者であり、映画の顔でもある、俳優・西田敏行。『ナミヤ雑貨店』と『アウトレイジ 最終章』、全く毛色の違う2作に併せて触れてみることで、改めて、西田敏行という俳優の、果ては俳優という存在そのものの、凄みを実感することができるはずだ。


(折田侑駿)