■都会の真ん中に出現したビニールハウス。仕掛け人はクリエイティブ集団PARTY
都会の真ん中に突如現れたビニールハウス。中で育つ野菜たちに手を触れると、音や光がハウス全体を駆け巡る――そんなアート作品が東京ミッドタウンで行われているデザインのイベント『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2017』で公開中だ。
この作品は、成田空港第3ターミナルの空間デザインやフィンテックサービス「VALU」の設計・運営などで知られるクリエイティブ集団PARTYが手掛けた『でじべじ -Digital Vegetables- by PARTY』。今年の『DESIGN TOUCH』のテーマ「ふれる」のとおり、来場者がハウス内で土に植えられた野菜に直接触れることができ、軽く触れただけで天井に張り巡らされた無数のLEDが反応して光が有機的に動く、インタラクティブな体験をすることができる。
ハウス内で育てられている野菜は全部で7種類。ハロウィンをイメージさせる大きなかぼちゃが中央に横たわり、さらにミニトマト、なす、サツマイモ、にんじん、だいこん、かぼちゃといった全て違う色を持った野菜たちが土の中や上に並ぶ。手で野菜に触れた時のLEDの光はそれぞれの野菜の花や葉、種の色と呼応しており、たとえばミニだいこんに触れると、まるでだいこんが根を張るかのようにハウスの天井に細長い白い光が伸びる。
■PARTY伊藤直樹「都会の真ん中らしくないことがしたかった」
総合演出を手掛けたPARTYの代表・伊藤直樹は、都会の繁華街にビニールハウスと畑を登場させるという大胆かつユーモラスなアイデアの着想について「ミッドタウンといえば東京のど真ん中。あえてど真ん中らしくないことがしたかった」と明かす。
野菜や土の感触を体験したり、野菜の花の色を知ったりと知育要素も含む『でじべじ』だが、ミッドタウンで親子連れをよく見かけることや、デザインを学べる21_21 DESIGN SIGHTが隣接するといった環境からもインスピレーションを受け、子どもが楽しみながら学べる作品の発想につながったのだという。
■野菜を学ぶインタラクティブ体験
周囲を六本木の高層ビルに囲まれた、まさに「都会のど真ん中」と言える場所に建てられたこの作品だが、ひとたびビニールハウスの中に足を踏み入れると土のにおいが鼻をかすめる。
伊藤は「野菜が土に植わっているところを見たことがない子どももいるかもしれない」と話すが、都会で育った子どもたちにとってはこの土のにおいですら新鮮かもしれない。これらの野菜は夏頃から専門家によって育てられてきたもので、作品の公開期間中も水をやり、光合成させながら育てられている。
また野菜の「触り方」にも学びの要素がある。それぞれの野菜のそばには「タ・ハ・ネ」のような3文字のカタカナが書かれた札が設置されているが、これは野菜をタッチするときの「おまじない」のようなものであると同時に野菜の成長の順番を表している。
たとえばミニトマトのそばに置かれた赤い札には「タ・ハ・ミ」と書かれていて、これはトマトが種(タ)→花(ハ)→実(ミ)の順に成長するということを教えているのだ。このおまじないからは野菜の成長順だけでなく、私たちが普段野菜のどの部分を食べているのかも学ぶことができる。
■7種の野菜が7色の光を放つショータイム「野菜の収穫祭」も
自分で野菜に触れることで動く光の演出だけでなく、ぜひ体験してもらいたいのが17:00~21:00の時間帯だけ15分おきに行われる「ショータイム」だ。
「野菜の収穫祭」をイメージしたこの演出では7種の野菜が種から実るまでの成長過程を、花粉を運ぶ鳥や蝶、コウモリといった生き物と共に描き出した光のショーで、7種の野菜から放たれる7色の光がハウスのアーチを覆う。鮮やかな光ときらびやかなサウンドが野菜の収穫を祝福するかのようにハウス内を彩る様子は、遊園地のパレードを見ているようなわくわく感をもたらしてくれる。またハウスの外から見ると、アーチの奥行きによって光が立体映像のようにも見える。
伊藤は『でじべじ』について「都会とLEDと野菜が一体化している」と語る。野菜に触れてビニールハウスの光を見上げると、フレームの間からは周囲のビル群が見える。土のにおいのするビニールハウスの中から、空とLEDの光と高層ビルの光を眺めるというのはまさにここでしかできない体験だ。昼と夜でも作品は表情を変え、夜は光がイルミネーションのように映える一方で、昼には太陽の光を直接受けて野菜たちの色がより一層際立つのだという。
■まるで野菜のオーケストラ。野菜そのものが奏でる音を使用
光と同時に鳴らされる音にも注目したい。音は光と同じく野菜ごとに異なり、トマトにはヴァイオリン、にんじんにはトランペット、など7種の野菜に7種の楽器が割り当てられているのだという。さらに個々の野菜の咀嚼音や葉を触った時の音など、野菜そのものが奏でる音も融合されている。またショータイムの時にはこの7種の音が合わさり、さながら「野菜のオーケストラ」といった華やかな音が光のショーを彩っていた。
■「野菜の個体差は野菜が身につけたデザイン」
自身も100種を超える植物を育てるほど、植物好きだという伊藤。『でじべじ』の鑑賞体験を通して野菜が持つ個体差――7種の野菜が持つ花や実の色、育ち方、咀嚼音などの違い――への意識を感じ取れた。
伊藤は「植物は生き残るために進化してきた。葉や根などの色や形は、その野菜が生き残るために身につけた生存戦略でありデザイン」と語る。『でじべじ』では光と音の演出によって、見慣れた野菜の植物としての様々な表情が強調されている。作品を体験する際には、野菜の感触を楽しむと共に光や音で拡張された「野菜のデザイン」を感じてほしい。
『でじべじ -Digital Vegetables- by PARTY』は東京ミッドタウンで開催中の『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2017』で11月5日まで公開されている。