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作品の出来は超一級、でも興収は停滞 『猿の惑星』シリーズのジレンマ

2017年10月19日 12:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 全国756スクリーンで公開された全米初登場1位作品『猿の惑星:聖戦記』が、全国128スクリーンで公開されたスマートフォン向けゲームで人気のアニメ作品『劇場版 Fate / stay night [Heaven’s Feel] I.presage flower』に、ダブルスコア以上の差をつけられて敗れるという波乱が起こった先週末の動員ランキング。


参考:『猿の惑星:聖戦記』が暴く、人間の傲慢な意識


 細かく数字を見ていくと、『劇場版 Fate/stay night』の先週末の動員は24万7507人、興行収入は4億1303万620円。1スクリーンあたりのアベレージでは、同じアニプレックス配給作品の史上最高オープニング成績を記録した今年2月公開『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』を超えている。つまり、各劇場ではほぼ満席状態が週末中ずっと続いていたことになる。ゲームアプリなどとも連動した来場者特典が初日動員の大きな牽引力となっていることもあり、通常の映画興行分析では先が読みにくい作品ではあるが、『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』が興収25億を超えていることを踏まえると、本作も20億超えもあり得る、この規模の公開作品としては異例の大ヒットとなることが予想される。


 一方、1960年代後半から1970年代前半にかけて製作された『猿の惑星』シリーズのプリクエル(前日譚)となる新シリーズの3作目『猿の惑星:聖戦記』は動員14万9000人、興収2億200万円という、公開スクリーン数の多さからすると物足りない結果。もっとも、この数字は2014年9月に公開された『猿の惑星:新世紀』の初週末成績の約96%という、前作比では決して悪くない数字。オリジナルの『猿の惑星』シリーズは、日本では70年代から、ゴールデンタイム、深夜、そして昼と、地上波テレビ局の各映画放送枠で再三放送されてきたこともあって、幅広い世代に根強いファンがたくさんいる。その固定層にとっては、新シリーズも「信頼のブランド」として受け入れられていることがうかがえる。


 課題となるのは、やはり新規層の取り込みだろう。猿のリーダー、シーザーと行動をともに人間の少女ノヴァをフィーチャーした本作の日本での宣伝展開にも、配給サイドの苦労がにじみ出ていた。筆者も同シリーズの大ファンで、今回の『猿の惑星:聖戦記』の素晴らしい仕上がりにもいたく感銘を受けたのだが、少なくとも今回の新シリーズの前2作を観ていない観客に本作をどうすすめればいいのかと問われると、正直なところ、なかなか正解を見出すことができない。


 そもそも『猿の惑星』という作品は、オリジナル・シリーズでも、今回の新シリーズでも、作品を追うごとに猿側の視点に重きがおかれていくという物語構造上の問題を抱えていた。つまり、『猿の惑星』シリーズに心を動かされるということは、「猿に共感する」ことを意味するのだ。それもあって、全5作が製作されたオリジナル・シリーズの『猿の惑星』は、アメリカでも、日本でも、続編が作られるたびに興行収入を落としていった。それでも、コメディ的展開などのネタに走らない真摯な作り手と、それを信頼してきた熱心なファンによって、シリーズとして大団円を迎えることができたのだ。


 2作目『猿の惑星:新世紀』からマット・リーヴス監督に委ねられた今回のシリーズは、全米及び日本以外の各国で、2作目が1作目『猿の惑星:創世記』を大きく上回る成績を記録するという快挙を成し遂げた。映画作品としての完成度の高さ、(オリジナル・シリーズ同様に)現代社会のメタファーに満ちた精巧な物語など、その勝因はいくつもあったが、新シリーズの成功に最も貢献したのはシーザー演じるアンディ・サーキスの名演と、それをスクリーンに反映することを可能としたモーションキャプチャーの技術だろう。名優と最新テクノロジーの画期的な融合によって、観客は「猿に共感する」という壁を乗り越えることができたのだ。


 ところが、批評面では前作に引き続き賞賛を集めている今回の3作目『猿の惑星:聖戦記』は、アメリカの国内興収でも、世界興収でも、前作から約30%のダウン。新シリーズ1作目『猿の惑星:創世記』と同じ水準の結果となってしまった。日本では前作『猿の惑星:新世紀』の時点で下降傾向が始まっていたので、一概に国外と国内のリアクションを同一視することはできないが、いずれにせよ、『猿の惑星』の新シリーズはオリジナル・シリーズと同じ道を歩み始めているともいえる。現在のシリーズは今回の『猿の惑星:聖戦記』で一区切りがついたことになるが、主演のアンディ・サーキスは、この先も3作品、さらにはそれ以上の続編が製作される可能性を示唆している。作品が強度を増せば増すほど、猿への共感度を要求されるという本シリーズのジレンマを、今後いかに乗り超えていくのか? シリーズのファンとしても、製作陣からの鮮やかな「正解」を期待したい。(宇野維正)