デンマークといえば、世界でもトップクラスに幸福度の高い国。
「ミニマリスト」であるデンマーク人たちは、自分の居場所を大切にし、隣人や友人と素で付き合える人間関係を大切にしています。
そんなデンマーク人のシンプルな暮らしを紹介した『世界一幸せな国、北欧デンマークのシンプルで豊かな暮らし』(大和書房刊)の著者で、北欧流ワークライフデザイナーとして知られる芳子ビューエルさんへのインタビュー。
前編ではデンマーク人が大切にしている幸せの証「ヒュッゲ」について聞きましたが、後編では、より具体的に、働き方や社会保障について聞いていきます。
きっとデンマークに住んでみたくなるはずです。
(取材・文/金井元貴)
■日本人が学ぶべき、無駄が少ないデンマーク人の働き方
――インタビューの前編で「デンマーク人は残業をしない」とお話されていましたが、デンマーク人の働き方についてお伺いしたいです。
ビューエル:デンマーク人の働き方は、日本人と比べて、朝が早くて夜も早いんです。朝7時くらいから働き始めて、16時頃には業務を終えます。冬は帰る時間くらいが日の入りになるのですが、夏はかなり遅くまで日が昇っているので、明るい間にいろいろなことを楽しめますね。
これは日本でもできると思います。帰ってからの時間がたくさんあると、生活に豊かさを感じるでしょうね。
――ビューエルさんはご自身で会社(株式会社アペックス・株式会社アルトの2社)を経営されていますが、デンマーク的な労働環境を取り入れているのですか?
ビューエル:もちろんです。インテリアは北欧製のものですし、女性は出産をしても100%復帰できるように整えています。また、社員旅行は社員の家族も一緒に行けるようにしていますね。
――デンマークといえばジェンダー平等の先進国です。女性の活躍を促したい企業としては参考になりますね。
ビューエル:私の会社の比率は男女半々なのですが、男女問わず全ての社員が平等にキャリアを積んで活躍してほしいと考えています。
ただ、多くの女性は、「キャリアを積むんだ!」という向上心を持って会社に入ってくるわけではなくて、結婚や出産などのライフイベントを経て、いつかキャリアを諦めないといけないときがくると思っているんです。
でも、子どもを育てながらキャリアを積んでいる女性の先輩たちを見ることで、「私もできるんじゃないか」と思うようになる。そういうサイクルができているように思いますね。
――先輩たちの姿が、自分の働き方のモデルになるわけですね。
ビューエル:これを中小企業で実践するのは実はすごく難しいんです。でも、みんなが努力をすることで可能になるのではないかと思っています。
――デンマーク企業の働き方を日本の企業に導入したいと考えたときに、まずどのような部分を取り入れるべきだと思いますか?
ビューエル:デンマークの企業はかなり合理的で無駄がないんです。日本は一つの案件を通すのにも、稟議書を書いて印鑑を複数もらい…と手続きが多いですよね。そうしたものから無駄なものをどんどんなくしていくことが第一です。
生産性の向上を目指すなら、無駄をどんどん省いていく文化を築くことが必要じゃないかと思いますね。そうしないと時間内に業務を終わらすのは難しいでしょう。
デンマークには必要なものをだけを追求する文化が根付いています。余分なものを持たないと言い換えてもいいでしょう。
これは家の中にもあらわれていて、日本人の家って、なぜかモノが多いですよね。使わないのに取っておいたり。でも、デンマーク人の家はすっきりしている。家の広さ自体は実は日本とあまり変わらないのですが、デンマーク人の家の方が広く感じるんです。
■デンマーク人は「安心」の中で生きている
――デンマークといえば税金が高い国として知られていますが、そのことで生活が苦しくなることはないのでしょうか。
ビューエル:デンマークの場合、初任給でも半分は税金で引かれるくらいの高税率です。だいたい初任給が50万円くらいなので、手元に残るのが25万円くらい。また消費税は25%です。
でも、その分、社会保障がとても手厚く、医療費は無料。教育費も大学まで無料。だから、「将来何か起きたときにお金が足りないんじゃないか」という不安がないんです。また、「子どもの教育の為に稼ごう」ということもなくなる。今もらっているお金の中で、自由に生活できるのがデンマーク人です。
――なるほど。将来に対して不安がないのはいいですね。
ビューエル:そうですね。安心感があっての、豊かで幸せな生活ですから。
――デンマークというと福祉国家だけど税金が高いという点で、大変そうなイメージがありましたが、実際に住んでみると印象がだいぶ変わりそうです。
ビューエル:それはあると思います。デンマークでは本物の良さを見る目が試されますが、デンマークの子どもたちはそれを親から受け継いでいます。「ヒュッゲ」の大切さを小さな頃から知っていますから、大人になっても、自然に豊かな生活を実践できるんです。
――デンマークに行きたくなった読者の皆様に、芳子ビューエルさんおすすめのスポットを教えて下さい。
ビューエル:スカーゲンですね。北の方にある街で、時計が有名な港町です。バイキング文化が残っていて、歩いてみると多くの家のドアの色が、鮮やかなブルーに塗られていることに気付くはずです。この色は魔よけの色で、『世界一幸せな国、北欧デンマークのシンプルで豊かな暮らし』の表紙にも写っているので是非見てみてほしいです。
――本書をどのような方に読んでほしいですか?
ビューエル:たくさんの人に読んでほしいですが、特に30、40代で、今の生活を見直したいと思っている人にぜひ読んでほしいです。デンマーク人の生き方、「ヒュッゲ」という考え方は、自分のこれからを見つめ、「本当に必要なものはなにか」を考える上で参考になるはずです。
(了)
■芳子ビューエルさん
北欧流ワークライフデザイナー。北欧輸入の第一人者、通販コンサルタント。株式会社アペックス取締役社長、株式会社アルト代表取締役。
北欧大手メーカーの日本代理店を務めるアペックス。北欧家具・照明器具の輸入を始め、高崎の「インテリアショップALTO・カフェ」にて北欧にまつわる料理や商品を日本に合わせた形で提案するアルト。両社を通じて多くの北欧商品を供給しており昨今の「北欧ブーム・家具ブーム」の礎を築いたといわれる。3児の母。
ブログ:http://yoshiko-buell.com/